鹿狩りの料理人   作:ガチャ敗者

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戦闘描写があるけど、読み飛ばしてもモーマンタイ。


旅人

 本日のモンドは快晴、燦々と光り輝く太陽の下で人々の隣に吹く風が、今日も自由の詩を運んでいる。この地に住まう人々は勿論、生い茂る草花や野生動物に湖を泳ぐ魚までが伸び伸びと1日を謳歌し、なんならヒルチャールも武器を手放し大地に寝転がり、この絶好の昼寝日和を満喫していた。

 

 こんな日に浮かない顔で額に手を当て、重く溜め息をつくような者にはバチが当たってもおかしくないだろう。そんな事を思いながら朝方に意気揚々とモンド城を出てきたミラーは、今まさしく浮かない顔で額に手を当て、重く溜め息をついていた。

 

(なぁ〜んでこうなっちまうのか、風神様は俺の事が嫌いなんかね……)

 

 喉を通って出ていきそうになった愚痴を危ういところで飲み込み、内心で消化するミラーの前には『若干困り顔で頬をかく異国の少女』と、『目を輝かせて宙に漂う小さな友達』。

 

「お前、戦えたんだな!」

 

「多少だよ、出来るのはヒルチャール達を追い払うくらいで」

 

「いや、あの身のこなしは相当なやり手と見たぞ!ムキムキの大盾持ちを軽くあしらってたじゃないか!」

 

「……あぁ、そうね。そっから見てたのね」

 

 

 

〜数分前〜

 

 

 

 天気に不安の無い休日、ググプラムを求めて奔狼領まで足を伸ばしたミラーは、その道すがらでヒルチャールの通行止めにぶつかった。道を変えようにも周りは切り立った岩の壁、登るにはあまりにも億劫だ。

 

 遠目に相手の総力を測った結果、そう苦労する事も無く散らせるだろうと判断し、離れた木陰にバッグを隠す。こんな事もあろうかとしっかり得物を持ってきているミラーは、投擲用のナイフを数本としっかり手入れしてある短剣を持ち、身を隠しながら近付いて機を窺う。

 

(流石に魔術師の類いは居ないな。棍棒持ちが2、大盾と弩が1つずつか、微妙にめんどくせー)

 

 相手の構成を再確認後、一番距離が近く油断が見て取れる棍棒持ちの一体へ仕掛ける事にした。雑に手入れされた無骨な棍棒を手放し、完全にリラックスモードのヒルチャール。若干忍びない気もするが、障害物で道を塞がれるのは普通に迷惑だからと誰に向けたか分からない言い訳で意識を切り替える。

 

 投擲用ナイフを取り出し、慣れた手つきで音も無く投げつける。それと同時に影から飛び出したミラーは、ヒルチャールが自分の左肩に深々と刺さったナイフに反応する暇を与えること無く、相手の右肩に短剣を突き立てた。

 

(それでもう戦えないな、帰ってくれ)

 

 ミラーの思いが通じたのか素直に撤退する1体から視線を切り、それぞれ武器を構える残り3体の方を向く。1対多数の状況で盾持ちと睨み合うのは骨が折れるので、彼は先に小柄な2体から無力化する事にした。

 

 木製の大盾を構えるヒルチャールへ駆け出し、ミラーはその盾を足場に跳躍。筋骨隆々のムキムキダルマを飛び越え、棍棒持ちの目前に着地すると案の定隙だらけに振りかぶるヒルチャール。

 

 このまま何もしなければミラーは頭を潰されるだろうが、当然そんな未来は訪れない。素早く後ろに転がり込み、相手の脇腹から刃を入れ肩まで突き上げると、脱力した腕は簡単に武器を手放した。

 

「右腕貰いっと、身代わりよろしく」

 

 弩の矢先が火を纏い、自分へ向けられているのを視界の端で捉えていたミラーは、目の前のヒルチャールから短剣を抜き、弩持ちの居る方角へ蹴飛ばした。ミラー目掛けて放たれた炎の矢はヒルチャールが肩代わりする事になり、消火活動に励む彼(?)は炎上する自分の身体をなんとか消火できたらしい。

 

 その後、元棍棒持ちのヒルチャールも敗走し「次はお前だ」と弩持ちへ踏み出すが、後方から地を蹴り風を突っ切る重量感のある足音が迫る。

 

「競走だ、俺に勝てるか?」

 

 ミラーもギアを入れ、一旦弩持ちを置いて走り出す。自分を追いかけてくる大盾を確認し、安全圏ギリギリの距離を保って目指す先には、揺るぎない灰色の崖。

 

 ミラーは速度を殺す事無く目的地まで到着、そのまま垂直な岩の壁を駆け上がった。ブレーキも間に合わず下で大盾ごと冷たい岩に激突したヒルチャールを放置して、彼は投擲用ナイフを2本構えながら壁を蹴った。

 

 跳躍したミラーの視界に映るのは、再び自分を射抜かんとする弩。宙に浮いた身体を器用に捻り、構えていた2本のナイフを投げる。1本は飛翔する矢を撃ち落とし、もう1本は弩そのものを二度と使えないガラクタに。

 

 すると武器を失ったヒルチャールは即座に逃げ出した。内心で「もう一撃くらい要るかな」と思っていたミラーは少々呆気に取られるが、手間が省けた事実だけを受け取り着地。

 

「さて、後はお前だけだな」

 

 ミラーの目の前には、砕けた大盾の破片が痛々しく刺さっている大柄のヒルチャールのみ。先程の自損事故が効いているのか、ちょっと小突けば退いてくれそうだ。

 

(やっぱデカっ、一発も貰いたくねぇ)

 

 威圧感のある見上げるほどの体躯、常人であれば短剣で相手をするのはかなり心許ない。大振りで放たれる拳は空を切るが、その音から察する威力は殺人級、ミラーの回避が失敗した時、決着は直ぐに着くだろう。

 

 攻撃を避けきったミラーは、ヒルチャールの太ましいパンパンに膨れた大腿部へ足を掛けて踏み台にする。そして相手の顎目掛けて、思い切り蹴り上げた。自分の踵が顎を砕いた感触を確かに感じ取り、そのままサマーソルトの要領で回転して地に足をつける。

 

 一瞬身体を浮かせたヒルチャールは2、3歩よろめき、後ずさり、そして去っていく。その様子を見届けたミラーは、短剣とナイフを片付けるべくバッグを取りに踏み出した。

 

 そして、そこで初めて木陰に潜む気配と自分に向けられた視線に気が付いた。

 

「……あ〜、不覚だチクショウ。そこの敵意の無いお二人さん、俺に何か用があるのかい?」

 

 

 

〜そして現在〜

 

 

 

 肩を落とすミラーに旅人はかける言葉を見失い、ただ気まずそうに佇むのみ。そんな彼女の様子に気付いた彼は咳払いをして、ひとまず状況の仕切り直しを図る。

 

「オホン……まぁ、あれだろ?多分助けに来てくれたんだろ?」

 

「うん……その必要は無かったみたいだけど。何と言うか、ごめんね」

 

「いや、旅人が謝る必要は何処にも無いさ。単に俺が不注意だったって話で、むしろ気を遣わせて悪かった」

 

「そうだぞ、オイラ達は悪い事した訳じゃないんだからな!」

 

「そうそう、パイモンの言う通り」

 

 パイモンの言葉を肯定するミラーに、旅人も「そこまで言うなら」と気にしない方針に切り替える。持ち直した彼女を見て安堵する彼だったが、ミラーは1つ誤算をしていた。それは旅人の強かさだ。

 

「ところでどうして実力を隠してるの?」

 

「え”っ、いやー?別に隠してるつもりは……」

 

「無理があるよ、言いたくないならそれでもいいけど。じゃあその戦闘能力はどこで?」

 

「アッ、そ、それはチョット」

 

「ふーん、言えないんだ」

 

「スイヤセン、スイヤセン……」

 

「ま、まぁまぁミラーにも色々あるんだろうし、これくらいでいいんじゃないか!?」

 

「残念……ミラーを知るチャンスなのに」

 

 今度は何故かパイモンがミラーのフォローに入るという、完全逆転現象が起きていた。渋々追及を打ち止めする旅人にミラーは胸をなでおろし、パイモンに感謝して2人に交渉を持ち掛ける。

 

「その、できれば今日見た事は秘密にして欲しいんだが、何か欲しい物はあるか?可能ならモラ以外で」

 

「口止め料?別に言いふらす気は無「くぅ、先手を打たれたな。どうする?折角だし貰えるなら貰っとこう!オイラは美味いものならなんでもいいぞ!」……」

 

「得意分野だ、任せてくれ。旅人は?」

 

 旅人はミラーの提案に遠慮がちだったが、食い気味なパイモンの返答に言葉を遮られ沈黙した。彼に希望を聞かれ頭を回してみるものの、欲しい物と言われたって急には出てこない。

 

「うーん……」

 

「特に無いか。それか俺がしてやれる事でもいいぜ?」

 

「ミラーが、私に……いいの?」

 

「え、まぁ俺ができる範囲の事なら」

 

「分かった。それじゃあ、今から少し料理を教えてよ」

 

「───なるほど、そう来たか」

 

 

 

 

 

 旅人のバッグから調理器具を借りて、ミラーは突発青空お料理教室を開くことになった。旅人の申し出はミラーにとっても好都合と言うか、たまにサラが彼女の料理を褒めているのでどれ程の腕前か興味があったのだ。

 

 お互い手持ちの食材を確認後パイモンの希望でメニューは『キノコピザ』に決まり、即席の窯なり調理台なりを手早く組み上げる。主な食材はキノコにキャベツ、小麦粉とチーズあたりだろうか。

 

「さて、教えるっても旅人は料理出来るんだよな?サラはお前の腕を絶賛してたし」

 

「一応ある程度は。でも上手くいく時もあるし変な仕上がりになる事もあるかな」

 

「ふむ?なら一度完成までの流れを見せてくれ、作り方は適宜説明するよ」

 

「それでよろしく。パイモンも頼んだよ」

 

「おう、任せとけ!オイラにだって手伝える事はあるからな!」

 

 やる気十分の2人に頷き、ミラーは早速調理の手順を伝えていく。旅人は言われた通りに過程を消化し、時折パイモンに「それを頂戴」「あれを取って」と指示を飛ばす。

 

 その連携は中々に見事なもので、そこまで息が合う仲が少しばかり羨ましく思えるミラー。指摘するポイントを纏めつつ、初めてのキノコピザを無事完成させた彼女たちに、まずは拍手を贈ることにした。

 

「おお〜、やるじゃん。連携もお見事!」

 

「へへっ、やったな旅人!上手に出来たぞ!」

 

「うん、レシピも覚えたからまた作れるよ」

 

「よし大体分かった。じゃあ今度は俺がもう1回作るから、ちょっと近くに来てくれ」

 

「了解、パイモンは……って、もう食べてるし」

 

「もぐもぐ……う〜ん、焼きたてはチーズがのびるな!やっぱり旅人には料理の才能があると思うぞ!」

 

「同感だ、繁忙期に助っ人として鹿狩りに来てくれたらきっとお駄賃を貰えるぜ。そうなったからそのまま俺はお払い箱かもな」

 

 軽口を叩きつついつもの様にポケットの髪留めを取り出したミラーは、食材と調理器具を準備し直すと前髪を留めた。

 

「さて、ぶっちゃけると俺が言える事は多くない。精々が包丁の使い方と、後はリズムを意識しましょうって事くらいだな」

 

「リズム?」

 

「そ、リズム。ただその前に、まずは包丁の使い方からいこう。ほい握って」

 

「はい、それでこれからどうするの?」

 

 食材を前に包丁を持たされ、次の指示を待つ旅人。するとミラーは、「ちょい失礼、我慢してくれな」と彼女のすぐ後ろに立ち、腕をまわして自分より細く小さな手を握った。

 

「───!?ミ、ミラー?これは……」

 

「こうした方が教えやすいんだ」

 

ふゅっ、わ、分かった……けど、あんまり囁かれると力が……」

 

「んな無茶な。じゃあ手短にすませるぞ、まずは猫の手から──」

 

 若干脱力気味な旅人を支えながら、食材の押さえ方や切り方をレクチャーするが、手を重ねてコツを話すたびに腕の中で彼女が微かに悶えるので、ミラーとしては内心ハラハラしていた。

 

 これが普通に話している時の流れであれば──こんな状況になる雑談というのも非常に考えづらいが──戯れで旅人の赤くなった耳に小さく息を吹きかけるのもいいかもしれない。しかし今は包丁を持っている、刃物を扱っている時点で背景ピンクなドキドキが訪れる事は無いだろう。

 

 何とか怪我も無く、旅人からの「料理を教える」という条件はクリアできたミラーは、ちゃんと聞いていたのか聞いていないのか判別し難い彼女を解放した。怪しい足取りでパイモンの方に戻る旅人、「なんだかオイラすごいものを見ちゃった気がするぞ……」「弄ばれた……ミラーはそういうとこある」等と好き勝手言っているが、ミラーは聞こえないフリで手早く調理を進める。

 

 手際に淀みは無く一定のリズムを守って料理をする様は、自らが作るモノの出来が分かっているかのような、見る者に成功への道筋をなぞっている安心感を与える。旅人は、詳しく言われずともこれがまさに「リズムの意識」なのだろうと、感覚で理解できた。

 

「出来たぞ。2人ともどうぞ」

 

「やった!いただきまーす、もぐっんぐ……うんまああぁぁ!旅人のも美味しかったけど、ミラーのはキノコの香りが胸に広がるな!」

 

「うん、やっぱり美味しいね。流石に鹿狩りの看板を背負ってるだけあるよ」

 

「なはは、それは重畳。でも旅人はかなりスジがいいから、俺いつか追い越されるかもしんねーな」

 

 偶然の出会いを和やかに過ごし、ご満悦な旅人とパイモンの様子にミラーも今日という1日の幸運を実感する。食べ終えた2人に「例の件はよろしく」と念押しだけして、ミラーはズボンをはたき立ち上がった。

 

「さて、そんじゃ俺はそろそ、ろ……っ?」

 

「……ミラー?」

 

「眉をひそめて、どうしたんだ?」

 

 別れを告げてバッグを引っ掴もうとした手をピタリと止め、代わりに短剣の柄にそっと触れる。何かが真っ直ぐこちらへ向かってきている、木々の隙間を抜けて吹いてくる風に害意は混じっていない。

 

 ただ何か鬼気迫る気配に、ミラーは旅人へ警戒するよう言葉少なに伝えるが、急に速度を一段階上げたその『迫り来るもの』に、ミラーは不意をつかれた。

 

 

 

 

 

「しまっ銀鏡(ぎんきょう)!」ぐっ……!」

 

 気まぐれに風向きは変わるもの、良い出会いを運んでくれたからと言ってその1日、風がいいものばかりを乗せてくるとは限らない。出てきた影はミラーに飛びかかり、固い地面に背中を打ち付けた彼は肺から空気を押し出される。衝撃で一瞬意識が暗転するが、なんとか繋ぎ止め襲撃者を視界に収めると、ミラーは抜きかけていた短剣を自然と手放していた。

 

 ミラーを押し倒し馬乗りになっているのは人間、雅で華やかな紫を基調とした装いで低くない身分を思わせるその麗人は、息を切らしながら額に汗を浮かべている。美しく流れる紫の髪の毛先が地に着くことも厭わず、紫の眼を潤ませて真っ直ぐにミラーを見据える彼女に、ミラーは恐る恐るその者の名を口にした。

 

 

 

 

 

「──刻、晴?お前、何で……」




ひとまずここまで、帰らぬ熄星やらないと……。



あと刻晴も引かないとね!持ってないからね!ディルックの旦那もジン代理団長もモナもウェンティもおりゃん。

おりゃん……(´・ω・`)

次回は刻晴、更新は未定。
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