鹿狩りの料理人   作:ガチャ敗者

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鍾離先生ガチャ外したァァァ!(ガチャ敗者)

でも天井でモナ来たァァァ!ちくしょォォォ可愛いよォォォ!!!

それから誤字報告いつもお世話になっております。教えてくれてありがとうやで。




刻晴①

「──刻、晴?お前、何で……」

 

「ずっと探してたのよ、貴方が私の前から消えた1年前から……」

 

 刻晴の震える声を乗せたまま重力に従って落ちた涙が、ミラーの胸に染みて溶け込む。それだけで、ミラーは胸中に押し寄せていた「なぜ?」の波が一度引いていくのを感じ、代わりに心臓の裏をチリチリと焦がす罪悪感を覚えた。

 

 喉で言葉が詰まり、なんと声を掛けていいのか、そもそも自分に彼女と言葉を交わす権利なんてあるのだろうか。そんな事がミラーの脳内を巡るが、初めて見る刻晴の弱々しい眼に、身体は思考の支配を外れて勝手に動き出す。

 

「その……悪かった、刻晴。とりあえず泣き止んで……あと、一旦降りてくれないか?今は2人きりじゃない訳だし、な」

 

 涙ぐむ刻晴の目尻をそっと拭い、彼女の肩に手を置いて立ち退くよう促すミラー。視界の端で旅人は驚きと困惑とがごちゃ混ぜになっているような表情を浮かべ、パイモンは小さな両手で目を覆いながら「2人きりならそのままなのか!?」と耳ざとく彼の発言を拾った。

 

「え?」

 

 刻晴はそこで初めて自分たち以外の存在に気付き、固まり、理解し、慌ててミラーの上から飛び退く。固い地面に寝る彼に手を差し伸べて、謝りながら引き起こす刻晴の頬は赤く染まり、涙もひいて少しだけ調子が戻ったようだ。

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫?痛むところは無いかしら」

 

「はは……問題無い、お前軽いからな」

 

「もう!そういう事を言ってるんじゃ……いや、それよりもそっちの人達は?」

 

「ようやくか!オイラ達完全に置いてけぼりだったぞ、なぁ旅人……ひっ!」

 

 ミラーから一度視線を切って旅人の方へ向く刻晴に、今まで空気になっていたパイモンが噛み付いた。いや、正確には『旅人と共に噛み付こうと隣に目を向け、小さく悲鳴を上げた』。

 

「そうだね、ところでいつまで手を繋いでるの?」

 

「ん?」「え、手?」

 

 僅かに強まった風が運ぶ旅人の言葉に、ミラーと刻晴はそれぞれ自分の手へ目を落とす。そこにあるのは、先程引き起こしたまましっかりと握られた右手。

 

「あっ、そう、だな」

 

「ええ、そう、ね」

 

 こうも真正面から指摘を受けた以上、流石に離した方がいいだろうとミラーは力を抜いて手を開くが、刻晴は自分の親指で彼の手の甲を軽く撫でるだけ。

 

 白く華奢な彼女の指がミラーの肌を滑る度に、彼の背筋をこそばゆさが駆けていく。俯きがちな刻晴が何を考えているのか測りかね、何度か呼び掛けるがやめる気配は一向に無かった。

 

「……刻晴?」

 

 すりすり。

 

「あの、刻晴さん?」

 

 さすさす。風がさらに強まる。

 

「えっと、そろそろ視線がだな……聞こえてる?」

 

「もう、どこにも行かないでね」

 

 刻晴の呟きに、ミラーは言葉に詰まって即答しかねた。

 

「ッ、あー……勝手に消えたりはしない、約束する」

 

「ん……今はそれでいいわ」

 

 名残惜しそうに手を離す刻晴は、ミラーの返答に一応の納得を示す。そして一連の流れを見ていた旅人も、2人の間の甘いだけではない空気に、無意識で集めていた暴風を静かに散らした。

 

 避難していたパイモンが恐る恐る旅人の側へ戻り、自分が吹き飛ばされる心配が無い事が分かると、こっそり旅人に「どうすんだよこの状況?また置いてけぼりじゃないか」と腕を組んで訊ねるが、それに対しての旅人の答えは大変にシンプルなもの。

 

「?……そのまま聞くよ?」

 

「えっ」

 

「ねぇ、2人はどういう関係なの?ミラーの事を銀鏡って呼んでたけど」

 

「い、行ったーーー!たまに出るお前のその強さは何なんだ!?」

 

 歩み寄ってきた旅人に本質をぶっ刺され、どう答えたものか悩むミラー。刻晴もまたその質問に答えあぐねており、その沈黙が旅人に「一言では表せない複雑なもの」という事だけを教えてくれる。

 

 今この場は完全な膠着状態だった。心地よく過ごしやすい快晴の青空と、その陽気な熱を帯びたそよ風がモンドを包んでいると言うのに、この空間だけが灰色に停滞し動き出せないままだ。

 

(……これは、何も聞き出せそうもないね)

 

 ミラーと刻晴は未だ今日の再会に困惑が残っている。ならばまずはこの2人がお互いの事を整理する必要があるだろう。頭に手を当てて詮索を諦めた旅人は、ため息混じりに1つの提案を持ち掛けた。

 

「なんて言うか、今のあなた達には少し時間と言葉が必要みたいだから……一度モンド城に戻ろうよ。聞きたいことは沢山あるけど、まずは2人で話し合った方がいいと思う」

 

「オイラも賛成だ。今のお前ら、ぐちゃぐちゃでよく分かんない状況だし、落ち着いたらお前らの関係を教えてくれよ」

 

「……ええ、私もその方がありがたいわ。そうだ、最後に自己紹介だけさせてくれる?私は『刻晴』、璃月から来たの。貴方たちは『旅人』と『パイモン』でよかったかしら」

 

 旅人の提案を呑む姿勢を見せる刻晴に、ミラーは異論なく従うことにした。何を言われるかは分からないが、こうして自分が特定された以上、聞かれることには全て答える気で居る。

 

 簡単に自己紹介をしている3人を傍目に、「今日が俺の命日にならなきゃいいな……」と空を仰ぐミラー。再会こそ突然で刻晴は感極まっていた、しかし腰を落ち着けて話すとなると、彼女は存分に追及してくるだろう。

 

 1年前に刻晴の元を離れたミラーは、当然なんの理由も無く璃月を去った訳では無い。『それなりの事情』という物が有りはするものの、それでも結果として相当の迷惑を掛けてしまったのは想像に難くなかった。

 

 『璃月七星』の中でも特に多忙な仕事人間である刻晴が、わざわざ自分を探す時間を捻出するというのがどれほど大変な事か。隣で彼女をずっと見てきたミラーはそれがよく分かっているからこそ、「殺されるのかな、それとも半殺しかな」くらいは普通に思っている。

 

(いい天気……俺みたいな人間が死ぬには申し訳ないくらいだぁ……)

 

 なんて現実逃避じみた思考を終着点とし、太陽の光を浴びてそよ風に身を委ねる彼は、ふと『その風の中に異物を感じ取った』。全くもって洗練されていない行軍の足音、意味不明な言語を高らかに歌い上げる耳障りな声。

 

 話が終わったらしく解散の流れになった刻晴たちに「待った」をかけ、辺り一帯の気配を洗い出すミラーは、露骨に顔を顰めて今日の運勢の乱高下にうんざりする。

 

「やけに素直に退いてくれたな、とは思ったけどさ……囲まれてるわこれ。手遅れだ」

 

「?……!ええ、私にも今分かったわ。相変わらず冴えてるのね」

 

「はは、まぁこれは俺のお株だからな」

 

「お、おい!それってもしかして……」

 

 不吉な物言いのミラーと刻晴に、パイモンは2人が言わんとすることを予測して青ざめる。旅人も何かを感じ取ったのか、小さな親友に「隠れてて」と手短に伝えた。

 

 ミラーは短剣を構え、投擲用ナイフの残数を指でなぞって確認し、刻晴は取り出した片手用の直剣を右手に、『雷楔』の印を左手で結ぶ。

 

 旅人もまた、異質な造形の片手剣を抜いて、流れ行く風を手中に収めた。神の目が見当たらないのに風を操る旅人に、刻晴は少々興味の視線を向けるが、「今聞くべきでは無い」と己を律して会敵に備える。

 

「共闘するのは久しぶりだな」

 

「ええ、ちゃんと付いてきてね?」

 

「俺は神の目を持ってないんだけど」

 

「貴方の力量は把握してる、私は出来ないことを言わないわよ」

 

「……昔から俺にやる気を出させるのが上手いなぁ」

 

「ミラー、隣でイチャつかないで。気が散るから」

 

「スンマセン」

 

 僅かに怒気をはらんだ旅人の声に、即座に謝り改めて気を張り直すミラー。奔狼領の一本道、両脇は切り立った崖が逃走を阻み、しかも迫るヒルチャール達は挟撃を仕掛けてくる。

 

 ミラーは刻晴と背中を合わせ、旅人の隣に立っていた。前と後ろのどちらかが押し込まれれば終わりな以上、神の目を持つ刻晴と旅人が前後をそれぞれ抑え、ミラーは臨機応変にそのサポートをしなくてはならない。

 

「ミラー、バッグを預けるから使えそうな物は使っていいよ」

 

「分かった、旅人のバッグは小さいのに色々入っていいよな」

 

「あげないからね?」

 

「……ちぇっ」

 

 そんなやり取りをしている間に、ゾロゾロとやって来るのはヒルチャールの戦闘部隊。燃え盛る棍棒、鋭利な矢が装填された弩、鍛えた肉体を守る木製の盾、厄介どころでは済まされない殺傷力過多な武器を携え、まさしく前門の虎後門の狼だ。

 

「さて、今回はさっきみたいに加減しないぞ」

 

 こうして、ミラーの本日2度目の戦いの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 刻晴と旅人の状況に目を走らせながら、ヒルチャールの一体に肉薄し短剣を突き刺すミラー。ヒルチャールの腹部の肉を切先で裂き進み、手首を返して内臓を巻き込みつつ傷口を広げると、解読不能の小さな呻きとは裏腹に大量の赤い命の水が溢れ出た。

 

 十分な致命傷を与えたミラーは素早く短剣を引き抜き、目の前の存在が使い物にならなくなる前に肩を掴んで、盾代わりにして弩の攻撃を防ぐ。即席の肉盾を押したまま駆け出し、自分に命中するはずだった矢を数本立て替えてくれたヒルチャールに、「すまんな」と雑に言葉を掛けてから近付いた弩持ちへ押し投げた。

 

 元々仲間だったモノをぶつけられた弩持ちのヒルチャールは体勢を崩し、弩を手放して地に転がる。当然そんな隙をミラーが見逃すはずもなく、起き上がる前に土に汚れた仮面ごとヒルチャールの頭部を足で踏みつけ、首と胸にナイフを一本ずつ投げ与えると足元の存在はすぐに沈黙。

 

「銀鏡!」

 

「分かってる!」

 

 刻晴に呼びかけられ、それに応えるミラー。視線の先では大盾を相手に苦戦を強いられている刻晴が、雷楔を使った大立ち回りで機を窺っていた。

 

 彼女の方へ向かいながら、炎の棍棒を振り回すヒルチャールの攻撃を回避したミラーは、そのまま相手の手首を短剣で掻っ切り棍棒を盗み取る。

 

「ちょっと貸してくれ」

 

 丸腰になったヒルチャールを蹴飛ばして、ミラーは木製の大盾に炎上する棍棒を投擲。棍棒そのものは防がれるが木製の盾はすぐさま燃焼して、防御力の消え失せた灰を風が攫って行き、刻晴は無防備な相手の頭にすかさず雷楔を命中させた。

 

「瞬く間に!」

 

 刻晴は自身の言葉通り、一瞬で大型ヒルチャールの目前に転移し、雷元素を纏った刃を横薙ぎに大きく斬り払う。鮮やかな手並みに感動するより先に、今度は旅人のフォローへまわらねばならない。

 

「風刃!」

 

 異国の装いをはためかせながら、数体のヒルチャールを吹き飛ばす旅人は、集めた風を炸裂させた反動で僅かながらも隙が生じる。そんな彼女に放たれた矢を、ミラーは投擲用ナイフで迎撃。

 

「ありがとう、よく撃ち落とせるね」

 

「器用さで売ってるんで」

 

 そんな軽口を叩くものの、敵の増援の多さに流石に辟易し、舌打ちするミラー。間合いを測り損ねた者から始末しているが、部隊の隅で展開している弩持ち数体が目障りだった。

 

「邪魔だ!」

 

 迂闊に飛び込んできたヒルチャールの見え透いた攻撃を弾き、ガラ空きになった腹部を蹴り飛ばしてもう一度弩持ちの方へ目を向ける。そこでミラーが見たのは、自分を捉え元素を纏う装填済みの幾つもの矢。

 

(クソっ、間に合うか……!?)

 

 ナイフの柄を引っ掴んで数瞬先の未来を予測するミラーは、脳内演算が弾き出した「無傷での対処は不可能」の答えに歯噛みするものの、出来る限り軽傷に抑えるべく不完全な体勢で迎え撃つ。

 

「銀鏡!」「ミラー!」

 

 遅れて状況を理解した2人が彼の名を呼ぶが、もはや楔を投げようにも風の剣圧を飛ばそうにも、どうやったって間に合わない。

 

(急所と利き手さえ避ければ!)

 

 

 

 

「昼夜を切り裂け!」

 

 そんなミラーの覚悟は、思いもよらぬ形で裏切られる事になる。ヒルチャール達は引き金を引くすんでのところで、『連続して響き落ちる雷』に見舞われ、二度と矢を放つことは無くなった。

 

 青天霹靂。突如雷に焼かれ、理解する時間も与えられずに倒れたヒルチャール達の元へ舞い降りるのは、『紫電と陰翳を纏いし鴉』と、『幽夜浄土の主にして断罪の皇女』。風に靡く金の髪と漆黒に抱かれているかのような衣装、そして依然として騒ぎ立てる蛮族共を冷ややかに睥睨する翡翠の右眼を、ミラーは知っていた。

 

「フィッシュル!?」

 

「何とか間に合ったようね、鹿を追う狩人。この皇女が特別に力を貸してあげる」

 

「なんでここに……いやまぁ今はいい、手伝ってくれるんだな?」

 

「ええ、ただし貴方にも狩人としての力を示してもらうわ」

 

「俺は狩人じゃなくて料理人だけど、なっ!」

 

 そう言いながら背後から迫っていたヒルチャールへ、見事な上段回し蹴りを叩き込むミラーに、フィッシュルは不敵な笑みを浮かべて弓を手にする。

 

「オズ。この舞台で矢を番えるのは私1人でいいの」

 

「お嬢様の仰せのままに」

 

 その名を呼ばれた鴉、オズは主の意向に沿わない異分子である、弩を構えたヒルチャールの頭上へ飛翔した。そしてフィッシュルの言葉を現実のものにする為に、生み出した雷球で攻撃を開始。

 

 刻晴と旅人は「誰……?」という疑問を一旦飲み込み、自らを皇女と名乗る雷元素使いの少女は味方である、と意識を切り替え、目の前の敵を撃破する。

 

 ミラーは刻晴の隣に立ち、フィッシュルは旅人の側へ。互いに背中を預け合い、ヒルチャール達の最後の攻勢に備える4人(と1羽)は、もうこの状況を突破できる未来しか描けなかった。

 

「おい、刻晴とフィッシュルの神の目が何か光ってんぞ?」

 

「これは……雷元素が共鳴してるのね」

 

「うん、私にも感じる。2人の力が響きあって増幅してるんだ」

 

「今この瞬間、広大な時の波の中で私達の運命は混じり合った。強権の雷を以て、弁えない愚者の罪を焼いてあげるわ!」

 

「……へぇ〜、ソウナンスネ〜」

 

「ミラー様、あまり落ち込まれぬよう」

 

「落ち込んでねぇし……俺だけその感覚分かんなくても別にいいし……」

 

 一人だけ自分の中の元素が昂る感覚から除外されようとも全然気にしていない(本人談)ミラーは、気を取り直して短剣の血と脂を拭い取る。旅人とフィッシュルの前には、シャーマンを奥に控える多種多様な武器を携えた混成部隊。ミラーと刻晴に向かってくるのは、ひと際重い足音と共に筋骨隆々の肉体を頑強な岩の鎧に包まれた『岩兜の王』。

 

 旅人は風を捕まえ、フィッシュルは矢に雷を灯し、刻晴は岩の鎧を見据え、ミラーは旅人のバッグから『聖水』のラベルが張られた瓶を取り出す。

 

(……これ清泉町の水じゃね?)

 

 若干1名、締まらないまま最後の衝突が始まった。




公式Twitterのヒルチャールが可愛いくて書くのが割と辛かった。そして刻晴登場でようやく本編開始だぜ……。

というわけでしばらく続くよ刻晴回、なんせメインヒロインなもんで。

次回は1週間以内に投稿予定。

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