鹿狩りの料理人 作:ガチャ敗者
フィッシュルのあの可愛さを成立させてる原神には畏敬と感謝しかない。
列になってない列を成して行軍するヒルチャールの一団を前に、旅人は剣を強く握りその場で跳躍。集めた風を解放しながら、身を捻って元素の力を爆発させる。
「風と共に去れ……!」
(!?かっこいい!)
その風は触れる者を巻き上げ喰い散らす竜巻となり、逃れる術を持たないヒルチャール達を容易く飲み込む。獲物を追う獣のような獰猛さを宿して突き進む竜巻へ、フィッシュルは引き絞った弓を向けて高らかに告げた。
「その嵐に雷鳴を轟かせるわ!オズ、愚かな罪人達を夜の果てに連れ去りなさい!」
「かしこまりました」
紫の尾を引いて放たれた矢とオズの羽ばたきに乗せられた雷撃は、風の中でもがくヒルチャールに命中し、絶え間ない風の刃に電熱の責め苦が重なった。
一本道という地形が旅人たちにいつも不利に働く訳ではなく、逃げ道が無いのはお互い様。風と雷の二重奏がすべての障害を排除し、霧散した元素が残した薄汚れた仮面や巻物の山を見て、旅人はフィッシュルに礼を言う。
「ありがとう、上手く合わせてくれたね」
「ふふん、当然よ!異邦から来た者同士、呼吸を合わせるのは秘された罪を暴き立てるより易い事だわ」
「えっ……よく分からないけど、あなたも別の場所から来たの!?」
「ええ、私こそが幽夜浄土よりこの世界の呼び声によって招かれた断罪の皇女。その名も──」
「フィッシュル様でございます。私の事はオズ、と」
「ちょっとオズ!」
「改まった自己紹介はまた後ほどにした方がよろしいのでは?」
「はっ!そ、それもそうね」
ヒルチャールの軍勢を一掃した旅人とフィッシュルの眼前には、見通しの良くなった一本道が伸びているのみ。しかし彼女達には見えていないだけで、頭の後ろにも世界は広がっている。
2人が振り返ると、岩兜の王を相手にミラーと刻晴は、そびえる巨体の鎧を引き剥がしていた。
後ろで暴風が吹き荒れるのを感じ取り、旅人が大技を炸裂させた一方で、ミラーも岩兜の王を討ち取る為に聖水(仮)の瓶を取り出す。刻晴の雷元素を帯びた攻撃は強力だが、それだけで押し勝てるような相手では無い。
カギとなるのは元素反応、それを分かっている彼は神の目を持たないなりのやり方で引き起こすだけ。向かってくる巨躯の頭上に瓶を投げ、タイミングを見計らい投擲したナイフで砕く。降り注いだ水が岩の鎧に染み込み、「これだけか?」とでも言いたげな岩兜越しの目に、「俺はな」と睨み返してミラーは刻晴に目配せした。
「任せなさい、貴方は離れて」
刻晴は一歩踏み出し構えた剣に相手を映すと、刀身は雷電に包まれ岩兜の王の影を呑む。彼女の雷を見てこれから自分の身に何が起こるかをようやく察したのか、余裕の歩みから一転して地を蹴り出して迫る岩兜の王。だが気付くのが遅かった、速度が乗り切る前に踏み入れたそこは刻晴の間合いだ。
「
刻晴は蓄えられた元素の力を解き放ち、広範囲の放電で岩兜の王の勢いを削ぐ。すかさず閃くのは縦横無尽に駆ける剣技の冴え。軌跡を残す剣影の裏側で彼女は的確に斬撃を繰り出し、王を襲う感電反応を存分に利用して鎧を削る。
ひらりと舞い落ちた一枚の葉が、刻晴の元素爆発によって宙で刻まれるのを見たミラーは、「お見事」と零して短剣を握りしめた。
刻晴がミラーの隣まで戻ると同時に、纏っていた岩元素がはげ落ちる岩兜の王。好き放題に攻撃され怒り心頭らしい、奔狼領に響く雄叫びを上げる王へ、ミラーと刻晴は得物の切先を向ける。
「仕留めるわ、準備はいいかしら?銀鏡」
「勿論だ、合わせてくれよ?刻晴」
互いに頷き合い、ミラーは短剣を手に先行した。身を屈め低い姿勢で駆け出し、刹那の内に距離を詰める彼に、一拍遅れて刻晴も走り出す。岩兜の王は先に突っ込んできたミラーへ拳を振り下ろすが、そこには既に狙っていた人間の姿は無く、スライディングで股下へ滑り込まれている事に気が付かない。
「跪けよ、王」
ミラーは後ろへ抜けるすれ違いざまに、王の足の健を切り裂き膝裏へ短剣を深々と突き刺した。兜越しにくぐもった呻きを漏らす王は、堪らず地に膝を着いて
「はあぁぁ!」
刻晴は跳躍して身体を捻り、視界が上下に反転しようとも目測を見誤る事無く、一刀のもとに兜ごと王の首を刎ねた。
旅人とフィッシュルは「これで全て倒しきった」と息を吐き、鮮やかな連携を見せた2人へ駆け寄る。
「やったね2人と……も?」
「流石、私の認め……た?」
そこで思わず言葉を切った旅人とフィッシュル。それはきっと彼女たちが見たもののせいだ。
事切れた王の骸が音を立てて地に伏せ、僅かに土煙が舞うその奥で、一つの人影が浮かんでいる。ミラーは刻晴とともにそこに居た。
より詳しく描写するなら、ミラーは刻晴の背中と膝裏に腕を回して彼女を抱きあげていた。俗に言う『お姫様抱っこ』だった。
「ふふ、ナイスキャッチ……なんだかまた強くなってない?」
「一応、定期的に体は動かしてるさ。そういうお前は少し軽くなったような……」
「もう……誰のせいだと思ってるの、バカ」
(あ、また元素爆発しそう)
(うぅ、今のミラー……すごく声を掛けづらい。サインか握手が欲しいな……)
旅人はさっきからちょくちょく擦ってくるイチャつきに少しだけイラッとし、ミラーの隠れファンであるフィッシュルは今日も憧れを胸の内に留めるに終わった。
~それから数十分後~
あまりにも多かった敵の増援は、どうやら別件として西風騎士団に依頼が届いていたらしく、あの後騎士団の人間がすぐに飛んできて事情聴取を受けることに。
これは長引きそうだ、と困っていたところを旅人が「上手く言っておこうか?」と申し出てくれたので、刻晴と合わせて一足先に解放してもらうことにするミラー。
「ほんとか、悪いな……また鹿狩りで何かサービスさせてくれよ」
「あ、でも報酬とかあったら」
「いらないいらない、そっちで受け取ってくれ」
「んー、分かったよ。……そうだ、また料理を教えてね?色々あって今日教わったことを忘れた気がするから」
「え?あー、オッケー。じゃあここは頼む、行こう刻晴」
「ええ、そうね。ありがとう旅人、貴方とは一度ゆっくり話したいから私の事を忘れないで頂戴?勿論パイモンもね」
「うん」「おう!」
「フィッシュルも助けてくれてありがとな。たまたま通りがかってくれたのか?」
「えーっと……まぁそんなところよ。貴方の魂が私を引き寄せたの」
「マジか、それなら会いたい時には心で皇女の名を呼べばいいんだな」
「と、時と場合によるわよ!?」
「なはは、冗談だって。今日はありがとう、また店にも来てくれよ。オズと一緒にさ」
「……皇女をからかうだなんて、不敬が過ぎるわ」
頬を膨らませるフィッシュルに弁明したかったが、時間がそれを許してくれそうにないので「なら詫びは次回来店のサービスで!」とだけ伝え、騎士団への対応を投げさせてもらった。
奔狼領を出て清泉町を抜け、モンド城までののどかな街道を並んで歩く2人は、離れていた1年間に何があったかを語るより前に、まずは穏やかな談笑で距離感を取り戻していた。
思わぬ再会からの間髪入れない敵襲は、状況が状況なだけに力を合わせて切り抜けたが、連携を身体が覚えていただけでコミュニケーションのリハビリにはなり得ない。
その為に刻晴は、ハズレの無い『思い出』を話題に選ぶ。
「ねぇ銀鏡」
「ん?」
「今の私たちの光景を、出会った当時の私たちに言ったら信じると思う?」
「いやぁ絶対無いな。賭けてもいい」
「2人で同じ方に賭けたら意味無いじゃない」
呆れたように苦笑する刻晴は、隣を歩くミラーに昔の彼の面影を重ねてみた。
今よりは背が低く、小生意気で、口が悪く、皮肉屋だった彼。
ミラーもまた、自分を見つめる刻晴に倣って数年前の彼女を思い起こすが、変わったところと言えば若干背が伸びたくらいで、あまりにも変わらない彼女に軽く吹き出す。
「ふっ、はは!刻晴は相変わらずと言うか……」
「そう言う貴方はかなり変わったわね、不良少年は卒業したの?」
「卒業させられたんだろ!まったく、お前に出会ったせいで俺の人生狂いまくりだ」
「へぇ、後悔してる?」
目を細めてミラーの顔を覗き込むように問う刻晴は、口元に少しばかりの笑みを浮かべている。そんな彼女に対して、ミラーは目を逸らしてため息混じりに解答した。
「……答えが分かってる質問をするなんて、時間を大切にするお前らしくないな」
「ふふ、貴方との時間に無駄な瞬間なんて無いわよ」
「っ、やっぱお前変わったわ!昔はそんなからかい方しなかっただろ!」
これ以上見透かされるのは御免だ、と言わんばかりにそっぽを向いてすぐさま前言を撤回する。そう、昔はこんな風にからかう事はおろか、隣あって仲睦まじく陽の当たる道をゆったり歩くなんてあり得なかった。
こんな今が訪れるなんて、宝盗団の一員として過ごしていた頃の銀鏡は思いもしなかっただろう。
~3年前~
青天に近い高山の中腹で寝転がり、長い前髪越しに目へと刺さる疎ましい日の光を遮るように、一枚のコインを太陽に重ねる少年。目の前で僅かな影を生み出すこの小さなコインには鴉のマークが刻まれており、今の自分という存在を語るのには十分すぎる一品だ。
(……軽いな、俺の人生)
手の中に収まる軽い円形が今の自分の証明であるなら、少年の人生の重さと同義ではないのか。ふとそんな思考が表層に浮かんでくるが、それを自嘲も誇りもせず、事実の一欠片として無感情に受け止めコインをポケットにしまう。
上体を起こして眼下に映すのは、大陸最大の貿易港であり少年の餌場でもある地『璃月』。名品珍品玉石混交だが、集う物品は盗賊の手に掛かれば全て最終的にモラへと形を変える。宝盗団としては過ごしやすい事この上無い、町そのものが一本の金の生る木。
(ふぅー……璃月に降りる前に、まずは
その場で軽く伸びをして、下から上がって来る一つの気配へ目を向ける少年は細く長く息を吐く。頭が痛かった、自分の記憶と感覚が確かなら下に居た他の団の人間は決して弱い訳ではなかったはずだが。
(盗賊退治の依頼でも受けた冒険者ってとこか……)
仕方なく立ち上がりあくびを噛み殺すと、少年は来客へのおもてなしの言葉を幾つか用意し、そしてそれらは一瞬で全て霧散した。
初めに見えたのは紫の柔らかそうなツノとボロいヘアピン、続いてアメジストのような澄んだ目、白い肌に細い腕と片手剣。イメージしていたものとは全く別物の存在に、少年は数秒ほど事態の理解に励む。
一つ一つ推測のピースを当てはめ、現実を組み上げる少年はおおよそを理解したのちに嘆息。歩き方を見れば強いかどうかなんてすぐに分かる、間違いなく目の前の女は実力者だ。
「あぁ、マジかよ……もっと毛むくじゃらの厳ついオッサンが上がって来るかと思ったんだが」
「……お互い様よ、まさか最後の一人が君みたいな子供だなんて」
「お?もしかしてお涙頂戴の暗い過去でも話せば見逃してくれる?アンタみたいな育ちの良さそうなお嬢さん相手なら、簡単に同情してくれそうな話を幾つか作ってやれるぜ」
「話なら千岩軍の怖いお兄さんにして頂戴、無駄な時間は使いたくないの」
「手厳しいねぇ、子供には優しくってお父上に言われなかったのか?」
「あまり痛い捕まえ方はしないであげるわ……」
そこで少年の目は、視線の先に立つ女の重心が前方へ僅かに移動する瞬間を捉えた。
「物騒なモン構えてよく言うよ、女ぁ!」
少年は後ろ手にナイフを抜き、相手の踏み込むタイミングに合わせて投げつけ牽制する。容易く弾き落とされるが、少年の狙いは当然別にあった。
女が飛来する脅威を処理した時、少年は既に眼前へと迫っており、驚きと同時に内心で謝罪しながら加減抜きの鮮やかな
瞬時に幾つもの斬撃がほぼ同時に前面へ展開する、その攻撃は迂闊な少年の体を無慈悲に斬りつけ、十二分に痛い捕縛法となり……
「ナメすぎだろ」
「っ!?」
そんな現実は訪れない。白刃の波を潜り抜けた少年は小さく吐き捨てると、反応の遅れた女の背中を蹴り飛ばす。転がり体勢を立て直しながら少年へ向き直ると、女は何かに気付いて自分の背に手を添えた。
先程まで女が持っていたはずの、淡い紫の光を宿したペンダントは、今は少年の手の内に有る。
「今の一瞬で……」
「手先の器用さはかなり自信あるぜ。しっかし神の目持ちか……そりゃ下の奴らがノビてる訳だ。あーーー、アンタ名前は?」
「……刻晴よ」
「!刻晴……有名人の神の目を手に入れちまったなぁ。売り方考えないと足が付きそうでめんどくせぇ……っと、これは持ち主の前でする話じゃないか」
「君は、何者?」
頭を掻く少年に、刻晴は睨みを効かせつつ名乗りを促すが、それに対しての返答は「言う訳ねーだろアホ」というある意味至極真っ当なもの。少年は神の目をポケットに入れ、代わりに取り出した物を刻晴に投げる。武器では無いと判断し受け取った刻晴の手の中にあったのは、安っぽい鴉マークのコイン。
「ははっ、美人の怒った顔は怖えから、それで機嫌直してくれよ」
「……これは年上として、少しお灸を据える必要がありそうね」
あからさまな煽りに刻晴は静かに剣を構え、少年も使い慣れた短剣を取り出す。
(もしかしたらマジで命日になるかも……あーやだやだ、クソ野郎として生を終えるならクソッタレな雨の日がいいのに)
銀鏡と刻晴、両者の出会いは剣戟によって語られる。今はまだ、相容れぬ者として。
何となく察した人もいるかもだけど、ぶっちゃけミラーの設定は言笑さん見て思いついたよね。
次回は回想のお話、そろそろ糖度上げていきてぇなぁ!?
自分で名づけといてなんだけど銀鏡って眼鏡に空見するからやめてほしい(理不尽)
銀鏡君は眼鏡かけてないのに読み直すと眼鏡に見えるからあれ銀鏡なんで眼鏡になってんだ君眼鏡してないだろ銀鏡てめぇインビジブル眼鏡銀鏡銀鏡眼鏡刻晴さん眼鏡かけてくれませんか似合うと思うので特に誕生日イラストの角度で掛けていただけるとそれだけで助かるの命があるのですが!!!
次回更新は一週間以内の予定。