王族の人達の食事時は専属護衛がいなくてはいけないらしいのだが、朝食も取っていなかったし、これからナズナの専属になるにあたっての勉強もしなくてはいけないらしく、あたしは別室に連れて行かれた。
「入隊おめでとうー! これからは同僚だね!」
さっき戦ったカナリアさんが、あたしに抱きつき頬擦りをしてくる。
彼女はとても陽気な性格らしい事は、行動から予測できた。
「カナリア、離してあげなさいよ。ご飯食べれないじゃない」
ベリっと音がしそうな勢いで、カナリアさんがあたしから離される。
見るとアガサさんで、先程と打って変わって顔色が良さそうだ。
「ぶー、別に良いじゃん」
「良くないから言ってるんでしょー。さっきはどうも。してやられたわー」
間延びしたこの声は、サリナさん。
折れてしまった歯も修復したから、大丈夫だとは思うのだけれど…。
「あの、えと…すみませんでした」
「謝らなくて良いわー。貴女が悪いのではなく、負けた私達が悪いのだから」
頭を撫でられつつ、あたしの髪を一房手に取る。
「珍しい髪色ねー。貴女、どこから来たの?」
「記憶がないって隊長と話してたじゃん。術技も、多分体が覚えてたから使えたんだろうし。うーん…東の国は黒髪が多いし、西は肌が黒い人が多いって聞くし…北とか?」
ベラさんが話に加わってくる。
どんどん人が多くなってきていたが、あたしは気にせずご飯を食べることにした。
冷めたらまずいだろうし。
「北はないでしょ。あそこからここまで、どうやってくるって言うのさ。間者だったらまだしも」
「記憶無くす間者とか、使い物にならないじゃん!」
どっと場が沸くが、何がそんなに面白いのか、さっぱりあたしにはわからない。
暫くそんな話をしていると、
「はいはい、貴女達。もう警備の時間でしょ? ほら、交代してくる!」
藍色の髪のロングの女性が、手を叩きながら話を遮ってくる。
「レイラは? どうするの? シフトだとルナと交代だったよね?」
「私は彼女の教育係を仰せつかってるの。ルナとの交代は、また別の人に行ってもらうって隊長が」
成程、と皆納得したようで部屋から出ていった。
途端、部屋の中が静かになる。
「………」
気まずい。
あたしの目の前には、レイラさんだけ。
俯きながら食事を終えると、彼女は付いてきてと一言言ってあたしの前を歩く。
「この屋敷も案内しなければね? あぁ、そんな硬くならないで。別に取って食べたりはしないわよ。それとも、私の表情が怖いのかしら?」
「いえ、別にそんな事は」
寧ろ美人の部類だと思う。
食堂に付き、そこのカウンターに食べ終わった食器をお盆ごと置いた。
「ここが食堂、ここを出て暫く左に行ったら王族の方の食事処。右に行って、真っ直ぐ行ったらメインホール。メインホールから見て階段を登った先、右側が私達親衛隊の居室。左が王族の方の居室と専属護衛の人の居室ね。下の方は使用人や、ハウスキーパーの人達の居室になってるわ」
「へぇ…」
方々を指差し、レイラさんは説明をしてくれる。
結構広いけど、構造はシンプルそうだ。
歩き出したレイラさんに着いていくと、大きいホールに出る。
ここがメインホールというやつだろう。
レイラさんが階段を上がり始め、左側へ歩いていく。
追いかけると、彼女はある一室の目の前で止まった。
「ここがナズナ殿下の居室。ここの右隣が貴女の部屋よ。今日からここに泊まりなさいね? さて、勉強部屋にいきましょうか? はいUターン」
あたしの肩に手を置いて、ぐるっと180度回転させ背中を押してくる。
「レイラさんって、少し茶目っけありますよね」
「そうかしら?」
えぇ、存分に。
◆◆◆
「さて、貴女どのくらい世界のこと知ってるの?」
黒板と机が数式ある部屋に通され、レイラさんは黒板の前へ、あたしは椅子に着席する。
「ここがサンクロードという世界で、王政があって魔法がある、くらいしか…」
雛桔梗が昨日提示してくれた情報だ。
あたしはそれ以外を知らない。
「そう。これから、殿下と一緒に学校に通ってもらうのだから、知識はつけてもらうわよ?」
「よろしくお願いします」
雛桔梗の検索機能とか使えば、勉強せずとも知識は得られるだろう。
でも、そんな所で楽をしてしまっては後々痛い目に合うのは自分だ。
「ところで貴女、字は書ける? 読める?」
「た、多分…?」
そこは自信ない。
というか、この世界に来て一日しか経っていないのだから、書けるかどうかわからないと言った方が正しいだろうか。
レイラさんが、黒板に文字を書いていく。
元いた世界の英語っぽい字で、それはなんとなくわかった。
「はい、これは何て読む?」
「ナズナ殿下のお名前ですか? ナズナ・エキザカム・ブリリアント」
正解、とレイラさんはニコリと笑う。
やっぱり、英語だ。
これなら解る。
なんで解るか判らないけど。
「じゃあ、今度は自分の名前を書いてみましょうか」
紙とペンを渡され、あたしは自分の名前であるシャルロットを綴っていく。
それを見たレイラさんが、若干眉を寄せた。
「あの、綴り間違えてますか?」
「いえ? 全く間違えてないけれど…貴女、何処ぞの貴族令嬢だったりしない?」