なんとくだらない事だと思うのだが、彼らにとっては死活問題らしく、こうやって嫌がらせめいた事をしてくる時がある。
まぁ、自分達の誰かがナズナと婚姻を結んで、王妃になると思っていた人達だろうから、その喧嘩は買うんだけども。
それに、こういう呼び出しも初めてではない。
ナズナに隠れて、こっそりと喧嘩を買いに行っていたのだから。
あたしはニコリと笑い、先輩に言う。
「ガルシア家と、ロドリゲス家と、ウィリアムズ家のご令嬢方。私の事が好きになれないのはわかります。人間という生き物は、万人に好かれるように出来ていませんもの。でも、この寒空の下後輩を呼び出し、放置するなんて…しかも家格は私の方が上ですのに。そんな事をしたら、自分達の家がどうなるか、考えた事もありませんか?」
「…っ!! 口答えするなんて、なんて人なの! 家格なんて関係ありませんわ! 貴女は卑しい平民ですもの! ちょっとばかり運が良かっただけで、調子に乗らない事ね!!」
魔王を討伐したのが、運が良かった事なのだろうか。
確かに、ナズナに見初められ、テスタロッサ家に入れたのは運が良かったのだろう。
だが、その他は実力だ。
同じく魔王を討伐して、功績を上げれるのかとこのご令嬢に聞いた所で、か弱い私には出来ないと返って来る事だろう。
あたしはそれが気に入らない。
気に食わない。
「家格は関係ありますよ、ガルシア家のご令嬢。貴女の家が営んでいる牧場にある魔道具、どこのだと思ってますか? 修理を低価格で請け負っているのは?」
それを聞いて、令嬢は顔を青ざめさせた。
この国にある魔道具のほとんどは、テスタロッサが作って販売している。
それに魔道具が壊れた際、その修理を請け負っているのもウチだ。
あまり家の事を振り翳したくはないが、あちらがそういう戦法で来るなら、こちらもこういう手段を取らざるを得ない。
「ルーチェ様、あんな女口だけですわ。平民が貴族社会で生きていけるはずありませんもの! きっとあの女、家で肩身の狭い思いをしているに違いありませんわ!」
貴女本当に女性の方なのかしら、と失礼な事を思ってしまうくらい、肩幅がゴツいロドリゲスのご令嬢が、ガルシア家のご令嬢を慰めている。
家で肩身の狭い思い…した事ないなぁ…。
マナーや作法は完璧だと、ターニャからお墨付きを貰ったし、お義父様からも所作が美しいと褒められた事がある。
メイド達からも可愛がってもらい、慕ってもらっている。
厨房の料理人達にも料理を教えてもらったり、日本で食べた事がある料理を提案したりと、仲は良好だ。
虐められた事など一切ない。
憶測で物を言わないで欲しいなぁ、と三人を憐れみの目で見てしまう。
「何ですの、その目は! 貴女本当に生意気ですわ!!」
ウィリアムズ家のご令嬢が、あたしに向けて魔法を放って来た。
本来なら避けたり叩き落としたり出来るのだが、今は敢えてそれを食らう。
ご令嬢の魔法はあたしの頬と肩を掠め、血が滲んだ。
修復魔法で直るかなぁ…。
いや、時魔法で遡行させた方がいいかしら。
ナズナが見咎める前に、諸々直してから帰らなきゃ。
「ほ、ほら! やっぱり噂は噂なんですわ! 私の魔法を避けられないなんて…」
「これで正当防衛が成立したんで、反撃宜しいですかね?」
手の平に業火を作り出し、微笑む。
その炎を見た先輩方は、恐れ慄いた。
最初からそうなるなら、あたしに喧嘩を売らなければよかったのに。
これは貴女方の自業自得ですよね?
まぁ、殺しはしない。
半殺しと言ったところで抑えて差し上げよう。
「これからは、気に食わないからと四方八方に喧嘩売らない方が良いですよ、先輩方。じゃないとこうなりますから…」
振りかぶって投げようとした瞬間、手首を誰かに掴まれた。
訓練場以外の魔法の使用は禁止。
校則にもちゃんと書いてある事を今まで忘れていた。
だが、最初に撃ってきたのは向こうだ、なんて言い分、果たして通じるだろうか。
あたしは業火を消し、後ろを恐る恐る見る。
そこには、寮に帰っているはずのナズナがいた。
彼はあたしを見ず、先輩方を睨みつけている。
「え、なんでいるのナズナ。ルティ、貴方何してるのよ。ナズナの護衛は任せてたけど、連れて来いとは言ってないよ?」
ナズナの背後にいるルティに話しかけるが、彼は困ったように眉を下げているだけだった。
その様子を見るに、どうやらナズナに押し切られたようだ。
あたしがあまりにも帰ってこないから、心配になったのだろう。
まったく、この人は…。
「シャル、どういう状況だ。説明しろ」
「説明しろって言われても、見たままだとしか言えないわよ。あちらが攻撃してきたから、正当防衛を成立させるために、あえて攻撃を受けてあげただけ。いい加減手首離してくれない? 腕が疲れてきたわ」
あたしがそう言うと、ナズナは手を離してくれた。
手をぷらぷらさせて痺れを治す。
「あ…あ…」
ナズナが出てきたのが予想外だったのか、先輩方全員の顔が青ざめていた。