「期末テストって、最大3日間じゃないのかしら」
「3日間で実技までやったら、怪我人が出ると思うがな。筆記で頭を使った後に体を動かすとなると、戦闘の際、隙が生じるだろう?」
それもそうか。
体育の時間の後の授業は、確かに眠くなってしまっていた。
寝なかったけど。
逆もまた然りなのだろうと納得した。
「まぁ、筆記でも上位のお前が、実技で下位になる事はないだろうな」
「そんなに高く買わないでよ。もしかしたら、最下位になる可能性だってなきにしもあらずでしょう?」
グラスで水を飲んでいたナズナは、目を丸くしてあたしをマジマジと見る。
一体なんだと首を傾げると、彼は盛大にため息をついた。
「な、何よ」
「お前、自分の実力を見誤ってるんじゃないのか? いや、カナリアにも以前言われていたな。もう少し自信を持てシャル。お前の魔法の実力は、この国一番だ。俺が保証する」
ニコリと笑いかけてくれた彼から、顔を背ける。
笑顔と信頼が、眩しすぎたのだ。
「お、お皿片付けるね」
「あぁ」
シンクに洗い物を置いて洗い始める。
背後からナズナに抱き締められるのは日常茶飯事だったので、それは無視した。
「本当、やってる事はメイド達に聞いた同棲生活よね、これ」
「ドウセイ? とはなんだ?」
あたしの肩に顎を乗せ、ナズナが聞いてくる。
耳元でナズナの声がして、少し照れながら説明した。
「結婚してない男女が、一つ屋根の下で暮らす事だって。あたしと貴方の立場的に主人と従者なのだけど、初めて会った頃ならともかく、今は関係性が違うじゃない? 今はあたし、貴方のこ、恋人なのだし」
言ってて更に照れる。
言葉にしてみればたったの4文字なのだが、その関係性がとても恥ずかしい。
さらに言えば、当初のナズナのスキンシップがとても異常だったのが、何ものよりもだ。
あれに慣れてしまって、今の触れ合いがとても、とても、恥ずかしい。
これが恋する乙女心というものなのだろうか?
もっと触れてほしいと、駄々を捏ねてしまいたくなる。
立場的に、これ以上は婚約者になってからだとは、頭で理解していてもだ。
「そうだな。お前は俺の恋人だ。どこにも行かせない。お前の場所は俺の隣だ、シャル」
そう言って、ナズナはあたしに頬擦りしてきた。
本当に愛おしいな、この人は。
「さて、洗い物も終わったし。離してくれる?」
「寝る前くらい触れ合っていてもバチは当たらんだろう?」
少し拗ねたように言う彼に、あたしは苦笑する。
「あたしは別にこのままでも良いのよ? 少しテスタロッサの家に用があるから、夜半過ぎには帰るつもりだけど。この状態で帰って、お義父様とターニャがなんて言うかしらね?」
そう言うと、彼はすぐ離れた。
シャルは意地悪だ、と呟いて。
「そんなあたしも好きでしょう? ルティを置いていくから、ちゃんと寝ててね?」
「子供じゃあるまいし、言い聞かせるように言うな」
クスクス笑いながら、あたしはテスタロッサの家に転移した。
◆◆◆
「お帰りなさいませ、お嬢様。本日はどのような要件でお戻りに?」
自分の部屋に転移したはずなのだけど、そこにはすでにターニャがいた。
どうやら毎日清掃をしてから就寝しているようだ。
「ターニャ…帰ってくる前でいいのよ? 掃除は」
「いいえ、いつ何時お嬢様がお帰りになるかわかりません。現に今帰ってらしたではないですか」
まぁ、その通りなんだけど。
あたしはターニャの手を取った。
「ターニャ、個人対抗戦というものが二学期末にあるらしいの。あたし今、どれくらいなら人を殺さないで済むのかわからなくて…」
「承知しました。お嬢様が力を制限できるよう、尽力させていただきます」
ターニャはあたしの手を引いて、お義父様の研究施設まで連れて行く。
普段生活に支障は全くないが、最高神に更に力をもらって、化け物並みに振るえる様になった。
力加減次第では、人を殺してしまう可能性もある。
だから、戦闘の時が一番恐ろしい。
だからこそ、カヅキの戦闘の師匠でもあったターニャに頼ったのだ。
だが、あたしの言葉足らずな話で全て理解してくれるあたり、ターニャはすごく優秀だな、と感じる。
いや、甘えちゃダメなんだけど。
お義父様の研究室に辿り着くと、ターニャはおもむろにノックした。
「旦那様、夜分に失礼致します。お嬢様がお帰りになられたので、訓練場の貸し出しをお願いしたく」
「ターニャ? シャルが帰ったって…」
くぐもった声が中から聞こえ、続いて扉が開けられる。
あたしの姿を見たお義父様は目を丸くした後、フワッと笑った。
「お帰りなさい、シャル。一体何があったのです?」
「実は…」
あたしは今までの経緯を説明した。
ナズナに念書への署名させた日、あたしは死にかけた事。
最高神とやらに会って力をもらった事。
それ自体はありがたいが、戦闘の際力の制御が出来るかわからない事。
お義父様はあたしの話を黙って聞いた後、わかりました、と一言言った。