「シャルの不安を払拭しましょう。測定器なら、すぐ作れますしね。義父として任せてください」
大船に乗ったつもりで、とお義父様はそう言ってくれる。
先輩の言う通り、あたしは運が良かった。
こんな素敵な家族に巡り会えたのだから。
「では、軽くこれを殴ってみてください」
お義父様は訓練場に着くと、何らかの機械を持ってきた。
真ん中に、殴れるようなクッションみたいなものが設置されている。
「殴った重さを測る機械です。さぁ、どうぞ」
「お嬢様、本気で殴っても構いませんよ」
軽くとお義父様は言ったが、ターニャは本気で殴れと言う。
一体どっちに従ったらいいか分からなくなるが、あたしは取り敢えずお義父様の言に従った。
クッション部分を軽く殴る。
すごい勢いでそれは仰け反り、元の位置に戻ってきた。
「ふむ…これで軽くですか」
「お嬢様、次は本気で殴ってくださいませ」
ターニャにそうせっつかれてしまったので、今度は軽く体を捻りながら全体重と魔力を乗せて殴る。
クッション部分が弾けて飛んでしまって、あたしは唖然とした。
「…壊れちゃったんだけど」
あたしは機械を指差し、ターニャを見る。
彼女も少し呆然としていたがすぐに我に返ったようで、お義父様の方を振り向いた。
「末頼もしい限りですね、シャル。この数値、成人男性くらいの威力ですよ」
「魔力を乗せた方は、測定不能ですか?」
お義父様はその問いに肩を竦める。
事実その通りという事だろう。
「という事は、魔力を使わないで相手を倒せばいいという事…?」
「そういうわけにもいかないでしょう。旦那様と私では、流石にここまでしかお手伝い出来ないようなので、助っ人を呼びます」
そう言うと、ターニャはメイドエプロンのポケットから何かを取り出した。
手に持っているそれを見て、あたしは驚く。
「なんでスマホ持ってるの?!」
「あれから強奪しました」
あれというと、カヅキか…。
本当、彼女も身内に甘いというかなんというか。
多分ターニャによこせと言われて渡したんだろうな…。
ターニャが番号を押してどこかに電話をかける。
相手が誰だか予想ができたので、あたしは苦笑いするしかない。
「私です……誰が詐欺ですか…えぇ、お嬢様の一大事です、すぐに来るように……お嬢様を犯罪者にしたいと仰るのですか? ……なら、すぐに来るように」
ターニャが電話を切った瞬間、彼女の影からカヅキが現れた。
この間会った時より幾分か成長しているようだが、格好がいただけない。
「貴女、女の子なのにその格好はないわ…」
「お前だって、なんでこんな暗いのに制服着てんだよ。部屋着にくらい着替えろよ」
カヅキの格好は半袖のTシャツに、ハーフパンツと随分ラフな格好で、向こうの季節が夏なのだと伺える。
だが、こちらは冬なので見ていて寒々しい。
着替えてる暇がなかったのよ、まぁその通りなんだけど。
そう口に出しかけた時、カヅキがガタガタ震え出した。
「さっむ! ここさっむ!! そうか、こっち冬か!! くそ、ターニャさんこっちの季節言ってくれませんかね?!」
「聞かれませんでしたので」
「いや、言えよ!!」
顔を合わせる度に、口論になる二人にあたしは苦笑いになる。
お義父様の方を見ると、なんとも微笑ましげに二人の様子を眺めていた。
あたしはカヅキに指摘された通り制服だったので、指を鳴らして寮にある私服と制服を入れ替える。
まぁ確かに、一回着替えてから来るべきだった。
カヅキも指を鳴らし、瞬時に夏服から冬服に衣服を変える。
「で? なんで私が呼ばれたんです?」
「お嬢様のためです」
経緯を説明しろって何回言えばわかるんだ、あんたは!!
と、またもターニャに噛みつこうとしたカヅキに、あたしが説明した。
「…成程、んじゃリミッターつけりゃいいな。ナツキ、そこに座れ」
あたしの説明に納得したカヅキは、魔法で椅子を作る。
そこへ腰掛けると、あたしの足元にカヅキが座った。
「何するの?」
「雛桔梗に、お前の魔力のリミッター役をしてもらう。何段階かに分けて、徐々に解放していくやつな。そうすりゃ、全力を出しても相手を殺すような真似は出来んだろうさ」
彼女は色んなディスプレイを空間投影し、これまた空間投影されたキーボードで何かを打っていく。
あたしは何をされているかよく分からず、首を傾げてしまう。
「雛桔梗出した方がいい?」
「待機状態でも出来るように調整するから、そのままで良い。雛桔梗、久しぶりだな。元気にしてただろうが、今からお前のプログラムに私特製のプログラムを付け加える。異常があったら報告してくれ」
あたしの足元にあるアンクレットに、カヅキは話しかける。
側から見たら不審者極まりないが、そこに雛桔梗が待機しているので仕方ない。
「地べたに直接座るとは何事ですか。クッションを用意したので、お座りなさい」
ターニャがカヅキにクッションを差し出した。
それを彼女は大人しく受け取る。