いつの間に用意したのかと見れば、少し離れた場所でロンドリーネとマリーがお茶の用意をしていた。
【お久しぶりです、カヅキ様。了承致しました。我が主の為になるのでしたら、いくらでもどうぞ】
「お前は本当に良い子だな。ナツキにはもったいないくらいだ」
それはどういう意味だろうか。
ジト目になりながらカヅキを眺める。
「ここをこうして…こうなると。プログラムに異常は?」
【はい、少し動作が重くなるようです。こちらのプログラムを提示します】
「それを噛ませつつ、こっちはどうだ?」
ターニャが差し出してくれた温かいお茶で暖をとり、二人の会話を聞いていた。
やっている事は理解したが、話が全くわからない。
「ターニャは二人の会話、わかる?」
「はい。カヅキにプログラミングを教えたのは私ですので」
お義父様もカヅキの後ろから、しげしげと彼女が打ち込むプログラムを眺めて感心している。
技術肌だから、興味があるのだろう。
「これ、あたしわからないんだけど。今何をやっているの?」
「お嬢様の魔力出力をレベル別に段階的に分け、お嬢様が許可した場合、どれくらいまで出して良いかの調整をしているようです。リミッターを全解除したら、今悩んでいる力のまま振るえるようにと」
最小出力はどれくらいになるのかしら、と首を傾げていると、カヅキが徐ろに立ち上がった。
「よし、ナツキ。得意魔法を撃ってみろ」
「いや、突拍子もないわね? あと、得意魔法なんてないわよ。その時の状況に合わせて使っているだけだから」
いきなりそんな事を言う彼女に、少し呆れる。
カヅキは少し思考した後、とりあえず魔法を撃ってみろと言ってきた。
ここが室外で良かった。
壊してもなんとかなるもの。
「最大魔法でいっても良いわね?
風魔法最大の大竜巻を発生させる。
それは天高く巻き上がり、上空の雲さえも巻き込み始めた。
「ちょ、出力変わってないんだけど?! むしろもっと酷くなってない?!」
「雛桔梗、リミッターを段階的にかけてやれ」
雛桔梗がカウントを始める。
それにつれて、段々と威力が弱まってきた。
「おぉ…」
【これが最小出力です、我が主】
威力がとても弱まり、これなら人を吹っ飛ばせるだろうというレベルにまで落ちる。
これならなんとかなるかもしれない。
「ありがとう、カヅキ!」
あたしは感謝を込めて、カヅキを抱きしめる。
彼女はなぜか複雑そうな表情で、あたしを見た。
「お前、もう少し恥じらいというものをだな…」
「? 女の子同士なのだから、別に良いのではなくて?」
何か問題があるだろうか、と首を傾げていると、ターニャがあたしの肩に手を置く。
「お嬢様、もう夜も遅いですし。お帰りになられませんと、ナズナ殿下がご心配なさるかと」
「んー…それもそうね。ごめんなさいね、カヅキ。また遊びにきてね?」
頭を撫でると、彼女の眉が少し寄った。
撫でられて多少不服なようだ。
あたしはその場にいる人達に手を振り、寮へ帰ったのだった。
◆◆◆
対抗戦当日。
開会式の最中、二学期末の成績の結果は冬休み明けと説明された。
トーナメント形式のため、生徒数が多い事から三日間かかるらしいとも。
脱落者に敗者復活戦はなく、その時点で成績は決まるとの事で、皆意欲的になっているようだ。
あたしとしては、そこそこな成績でいいので、別に皆ほど意欲的ではない。
「シャル、お前に当たってくる奴は全て蹴散らせ。俺が許す」
「それは命令? それともお願い?」
あたしは横にいるナズナと目を合わせず、まっすぐ前を見ながら言う。
四方八方から、敵意を向けられているのに気付いたからだ。
下手したら対抗戦が始まる前に刺される可能性もある。
「お前の主人の言葉なら命令だが。お前はどちらと取りたい?」
「どちらでも良い。今それどころじゃない」
何この殺気の多さ。
あたしに向けられてるのもあるけど、ナズナにもある。
あたしはナズナの方をチラリと見た。
彼と目が合う。
どうやら彼も気付いているようだ。
「流石に今は仕掛けては来ないだろう」
「そう思いたいけど。あたしが離れてる間、レヴィかルティに見ててもらうから。何かあったら蹴散らしても構わないわね?」
そう問うと、彼は頷いた。
「先生方にも報告しておこう。対抗戦以外で魔法を使うとどうなるか、短慮な者達は理解していないようだしな」
「そうして」
開会式の挨拶が終わり、生徒は各自自分の番が来るまで観客席に移動する事になったが、あたしとナズナはその場に残る。
あたし達の他にも数人残っていたが、皆こちらを見ていたからだ。
ナズナが先生に報告するために歩き出す、その瞬間彼に向けて魔法が一斉に放たれる。
「雛桔梗!」
【リミッター、一段目開放します】
あたしはナズナの周辺に、魔法無効化の結界を張った。
その結界に触れて、ナズナを狙った凶弾は全て霧散する。
それを見ていた先生方が、魔法を使った生徒達を全員別の場所に連行した。