「あんまり褒めても何も出ないわよ。それより次は貴方でしょ? 入り口までは着いていくから」
大丈夫だ、と彼は言うが、あたしはナズナの護衛役なのでついて行かざるを得ない。
入り口につき、場に向かう彼の背を見送る。
「怪我しないでね、ナズナ…」
あたしは胸あたりで指を組み、祈った。
そんなあたしの両肩に、レヴィの手が置かれる。
「心配するな、我が主。我が夫がたまに特訓に付き合っておる故な」
「うむ。この間は居合い抜きの練習をしていた。中々の腕に磨き上がったぞ」
待って、居合い抜きですって?
そんな報告受けてない。
それに、ナズナは刀を使えたっけ?
「ルティ、だからそういう事は報告しなさいって…」
背後に控えていたルティを振り向くと、後ろから歓声が上がり、ナズナの方を見る。
収納魔法の中に入れていたのか、彼の手には一振りの刀が納められていた。
相手は一刀両断されたようで、倒れ伏して動かない。
あたしは場から降りてきたナズナに問いかける。
「ナズナ、その刀どうしたの?」
「あぁ、これか? 母上の実家は吾妻ノ国でな、そこから取り寄せた。レイピアは脆すぎるからな。突くのは良いが、薙ぎ払う事は出来ん。シャルが使っているのを見て、同じような物が吾妻にもあったと思い出してな」
なんて事ない、という風に言うが、刀なんて一振り一振り職人の手による一点物だ。
あたしなんて、創造魔法で作った模造品だというのに。
「良いなぁ…」
「冬休み、吾妻に行くか? 夏でもいいが」
彼の提案に、あたしは首を思い切り縦に振る。
とても行ってみたい。
だが、とあたしは止まる。
「いや、いち護衛が吾妻に行きたいからって、それは…」
「なら、夏にするか。その時は婚約者だ。婚約者を親の実家に連れて行くのは普通の事だろう?」
…照れるからやめてほしい。
そういえば、来年のノーム2の月でナズナの喪が明ける。
その時、正式にテスタロッサ家に婚約の申し込みに行くのだと、彼は言っていた。
「ちゃんと先方に話を通しておいてね。無断で行くなんて、貴方はしないでしょうけど」
「無論だ。さて帰るか、シャル。俺達の次の試合は明日だ」
そう言って、ナズナは歩き出す。
見ていかないのか、と彼に尋ねるが首を横に振られてしまった。
「見た所で、お前が学べるものは何もないと思うが。それよりも実戦を重ねてきているだろう? 俺も、お前も。それでも見たいなら残るけどな」
彼がここまで言うのだから、見る価値がないとは言わないけれど、ただの観戦になってしまうか。
「でも、勝手に出て行っていいの?」
「構わんさ。チラホラ人がいなくなっているの、気付いているか?」
観客席を眺めると、確かに空席がある。
生徒がいなくなっているのにも関わらず、先生達も何も言わない所を見るに、いてもいなくてもどちらでも良いのだろう。
「なら帰るけど、今日の夕飯どうする?」
「お前の手料理がいいな。好きなものを作ればいい」
ナズナは好物もなければ、嫌いなものもない。
アレルギーがない事も、付き合い始めてから雛桔梗に調べてもらった。
だからこそ、作り甲斐がないというか、なんというか。
「わかった。不味くても文句言わないでね?」
「お前の作るものを不味いと思った事など、ただの一度もないが」
あたしの指に自分の指を絡め、ナズナは微笑む。
その表情に弱いのだから、今は笑いかけないでほしい。
頬を赤らめてしまったのが、バレてしまうのだから。
◆◆◆
二日目、あたしもナズナも順調に勝ち進んで、三日目最終日。
あたしは次の相手の名前を見てゲンナリした。
「うぇ…あの先輩か…」
あの日、あたしに喧嘩を売ってきた先輩。
ルーチェ・ガルシア。
そこを勝ち抜いたら、次の対戦相手は肩幅がゴツイロドリゲス家の令嬢だ。
「速攻で終わらせていい、よね?」
「構わんだろう。先生方も、もうそろそろ点数をつけ終わりたいだろうしな」
あたしの背後に立って腕を組んでいるナズナが、自分のトーナメント表を眺めている。
残っているのはもう三年生ばかりで、二年や一年は一握りだ。
「大丈夫そう? もうそろそろ負けてもいいんじゃない?」
「流石にこのレベルで負けるのは、不名誉だな。ダーカンよりも弱いんだぞ、ここの生徒は」
第一騎士団長と、一般生徒を比べたらいけないと思うのだけど。
まぁ、ナズナから言わせれば、自分と打ち合いが出来るダーカン第一騎士団長より弱いのに、負ける要素がどこにある、という事だろうが。
「貴方と決勝で当たりたくないから言ってるんだけど」
「俺は当たってみたいがな。お前、手合わせの時手を抜きまくっているだろう」
何を当たり前の事を言っているのだろうか。
誰が好き好んで、愛している人を手にかけたいというのだろう。
本気でやれば、ナズナなんて一瞬で殺してしまう。
それは絶対に嫌だ。
それに、手にかけたいと思う奴はサイコパスに違いない。
「ナズナはあたしを殺してみたいの?」