「なんでそういう解釈になる。本気で戦ってみたいだけだ。それで敵わないなら、さらに精進しなくてはと思うだろう? そろそろ、俺だってお前を守りたいんだ。お前が婚約者になったら、俺の専属護衛から外れるんだから」
そうなのだ。
流石に婚約者を専属護衛にするのはと、ニーナ隊長に相談した時に言われてしまった。
親衛隊にいても良いのかの問いもノーだった。
ナズナの婚約者になるという事は、妃教育を受けなければならないという事らしい。
むしろ、王太子の婚約者だという事で、親衛隊の護衛をつけなければならないと言われてしまった。
前のナズナの婚約者、ついてませんでしたけど。
と返したら、あの人が嫌がったからつけられなかっただけだと言われた。
確かに、護衛とかを続けながら妃教育を受けるのは厳しいものを感じる。
流石のあたしでも無理だ。
「浮気したら許さないから」
「誰がするかって。この話も何回目だろうな」
くっくっと笑う彼に、ムッとなる。
婚約者になって専属護衛から外れるという事は、部屋も別になるという事。
あたしと違う人が、ナズナと一つ屋根の下になるという事だ。
少し、許せない。
「貴方に懸想する親衛隊の人がいるかもしれないじゃない。貴方にその気がなくても、既成事実を作ろうとか」
「そこはニーナの人選次第だろうな。まぁ、俺に迫ってきた奴はすべからくクビにしてもらっているから、マトモなのしかいないはずだぞ。そこはシャルが一番よく知っているだろうに」
うん、わかってる。
今の親衛隊の人達は、皆良い人ばかりだ。
あたしがナズナの専属護衛になった時も、羨ましい以前に頑張れと激励してくれた人達なのだ。
疑いたくはないのだけど。
「貴方が格好良いのがいけないと思うの。貴方があたしを誰にも取られたくないと思うように、あたしだって、貴方を誰にも取られたくないのよ」
「シャル…」
顔を背けながら言うと、ナズナが抱きしめてくる。
とてもきつく、きつく。
「あまり、お前は自分の本心を語りたがらないからな。今の言葉を聞けて、俺は嬉しい。出来れば唇を奪いたいくらいだ」
「だから、それは婚約者になってからって話でしょう? もう…苦しいわ、ナズナ」
あたしがそう言うと、ナズナはすぐに離れてくれる。
「もうそろそろだから、行ってくるね。あたしの活躍、見てて」
「あぁ、行ってこい」
ナズナに手を振り、あたしはもう場に上がっていた先輩を見た。
意地の悪い笑みを浮かべている姿に反吐が出る。
あたしはこの対抗戦のルールを思い出す。
一つ、ここで戦闘をしても死亡しない事。
結界から出れば無かったことになるらしい。
二つ、観客席に向けて魔法は撃たない事。
結界で無効化されるので、間違って撃っても観客席にいる生徒は無事だが、わざとな場合その生徒は失格。
学期末の実技も、ここまで勝ち上がったとしても0点になるみたいだという事。
三つ、試合が終わるまで場から出ない事。
出た時点で、そこまでの成績が反映される。
あとは、試合が終わるまで観客席からこちらに来る事は出来ない、も追加だ。
あたしが場に上がると、先輩が話しかけてきた。
「貴女を早々に潰して、ナズナ様には考えを改めていただかなくては。そして、私がナズナ様の婚約者になるのですわ」
「よくここまで上がってこれましたね。驚きです。あと、あたしはまだ候補の段階です。最終的に決めるのは殿下ですけど」
あたしとナズナが相思相愛なのは、周りから見ても明らかなのだが、立場的にまだ候補だ。
それに、とあたしは続ける。
「殿下は以外と面食いなので、あたしがもし選ばれなかったとしても、先輩だけは絶対選ばないと思いますよ。ちゃんとお肌のお手入れしてます? 吹き出物ばっかりじゃないですか。スキンケア用品とか使ってます?」
「きぃぃぃっ!! その生意気な口、効けなくしてやりますわ!!」
まぁ、あたしもスキンケアとかした事ないけど。
あれ面倒じゃない?
そんな事言ったら、ターニャが寮にまで乗り込んできそうで怖いから言わないけど。
「雛桔梗、フェーズ2」
【了承しました】
先生の開始、の言葉を皮切りに、あたしは結界内に自分の魔力を霧状に放出する。
雛桔梗にリミッターを2まで解放してもらったお陰で出来る芸当だ。
「な、何ですの? これは?」
霧のせいであたしの姿が見えない先輩が困惑の声を上げる。
屋外では出来ないけれど、ここは半分屋内だ。
結界で霧がその場に留まれるのだから。
「さて、遊びましょうか。先輩」
光の屈折を利用し、何体ものあたしを出現させる。
先輩は魔武器であろう薙刀を取り出し、当てずっぽうにあたしを刺していった。
「はずれ、それもはずれ。やる気あります?」
「きぃぃっ!! 何処なんですの?! 逃げるなんて卑怯ですわ!!」
逃げる?
卑怯?
ずっと貴女の背後にいるんですけど。
「あたしに気付けないなんて、貴方ナズナの事支える気あります?」
「…っ! そこっ!!」