振り向いてあたしに薙刀を振り下ろそうとした先輩の顎を、掌底で横へ打ち抜く。
脳震盪を起こさせたので、先輩はそのまま崩れ落ちた。
魔力を収束させて、上空へ撃つ。
霧が晴れた後倒れている先輩を見て、先生はあたしに軍配をあげた。
「シャル、見事だった」
戻ったあたしにそう言いながら、ナズナは頬を撫でてくる。
それがくすぐったくて、くすくす笑ってしまう。
「ありがとう。でも、見えていた?」
「いや、全く。俺もあの手を使われたら勝てるだろうか、と思考していたくらいだ。俺の時は、流石に速攻で終わらせるのはやめてくれよ?」
あたしは正面から抱きしめられ、そう言われた。
そんなに戦いという名の舞踏をしたいのだろうか、この人は。
「あたしとしては、貴方が早々に倒れてくれたらと思っているのだけど」
「シャル…」
少し非難めいた目をされたが、どこ吹く風で流した。
◆◆◆
ナズナは順調に勝ち上がってしまい、決勝まで行ってしまう。
あたしとしても次の相手を下したら、ナズナと当たってしまうので頭を抱えた。
「棄権するのも癪だし…ナズナの時に棄権したら、彼が不機嫌になるし…うーん」
万事休す、とはこの事か。
打つ手無し。
なら覚悟を決める他ない。
「…よしっ!」
あたしは自分の頬を叩き、気合いを入れる。
一度眼を閉じ、深呼吸を繰り返す。
そして。
「…遊んで差し上げましょう。後悔なさらないようにね?」
再び眼を開け、総帥モードの自分に切り替えた。
ナズナが怖いと言っていた、あたしに。
場に上がると、周りから歓声が上がる。
どうやら、この戦闘は生徒達が見たかった試合のようで、所々から声援が上がっていた。
「お姉様ーっ! 頑張ってーっ!!」
そんな声が聞こえ、あたしはそちらの方に手を振る。
黄色い歓声が上がってもあたしはまだ手を振り続け、相手の先輩が不愉快な声を出した。
「アイドル気取りですの? 良いご身分ですこと」
「あら、先輩? 良いご身分、ではなくその通りなので。あまり家の事をひけらかさないでいただけません? お里が知れましてよ」
クスクス笑うと、ロドリゲス家の令嬢である先輩の癇に障ったらしい。
頭に血管が浮き、ゴツイ肩が上下し始めた。
どうやら興奮してきたらしい。
「まるでゴリラのようですわね、先輩?」
「お黙りなさい!!」
先生の開始の合図とともに、先輩は斧を召喚してあたしに突っ込んでくる。
単純動作なので、あたしはそれを避けながら背中を蹴った。
「このっ!!」
前転で勢いを殺し、斧に魔力を乗せて先輩は振う。
あたしはそれを受け止めようと手を出した。
瞬間、先輩は飛び上がり、あたしの背後に回る。
「ここですわ!」
もう片手で受け止めようとしたが、遅かったようだ。
先輩の斧があたしの首を通過していく。
瞬時に首をくっつけたけれど、頭が軽くなった気がしてあたしは転んだ。
「っ!!」
あたしが倒れた場所に斧が振り下ろされた。
まぁ、転移でその場所から移動した後だが。
「あら、お似合いでしてよ。その髪型」
先輩が嘲りを込めた顔で、あたしへそう宣う。
髪がなんだというのかと触って、異変に気づいた。
あたしの腰まであった髪が、肩口にまで短くなっている。
別に鬱陶しかったから良いのだけど。
「それはありがとうございます。では、お返しいたしますわね? 雛桔梗、フェーズ10」
あたしの最大火力、食らえばいい。
片手を上げ、あたしは魔法を唱える。
「
結界内に暴風が吹き荒れ始め、雨が降り始めた。
それは豪雨になり、雷も落ちてくる。
ただ、それは唱えたあたしには当たらず、先輩に落ちまくっていた。
結界内なので外に水が溢れる事もなく、どんどん水位が上がっていく。
「あ、貴女も無事では…」
「誰がこの状況を引き起こしていると思っているんですの? 何回か雷に撃たれているのに、衝撃にお強いのですね? 先輩の属性は風とお見受け致しましたけれど、雷にも耐性を持ってらっしゃるなんて、なんて羨ましい事」
ふふふ、と笑うと、先輩の顔が恐怖に引き攣り始めた。
そんな顔をしても、もう遅い。
水位が上がり、先輩を飲み込んだ。
呼吸が出来ないようで、彼女はもがき苦しんでいる。
あたしはすーっと先輩の側に寄ると、肩に手を置いた。
「先輩、人間の水分量をご存知ですか? 体の半分は、水分なんですって。なら、全てを水分にしたら…人間ってどうなっちゃうんでしょうね?」
ニコリと笑い、先輩の身体組成を全て水に変えてみる。
予想通りというかなんというか、スライム状になった先輩は、そのまま消え失せた。
「はい、終了」
あたしは手を鳴らす。
災害が跡形も無くなり、しかし先輩は消えたまま。
先生が唖然としているので、あたしは申し訳なく笑う。
「先生、結界を解いていただけませんか? 元通りになるのでしょう?」
あたしの言葉に、我に返った先生が慌てて結界を解く。
真正面に、倒れ込んだ先輩の姿が現れた。
気絶しているようだが、これであたしに楯突く気はなくなるだろう。