「シャル…シャルロット。泣くな。俺は死んでなどいない。それに…お前の本気は凄いな。受け止められると思っていたが、無理だった」
「…っ! 馬鹿…っ! 馬鹿馬鹿馬鹿…っ!! ナズナ…っ、嫌い…っ!大っ嫌い…っ!!」
泣きながら、彼の胸を叩く。
安堵したからか力が入らず、軽くしか彼に衝撃を与えられない。
あたしからの罵倒に、彼は困ったように笑った。
「嫌いと言われても…俺はお前が好きなんだ。無茶を言ってすまなかった。もう悲しませないように気を付ける。だから、泣き止んでくれシャルロット。お前の嘆く姿は、俺も辛い」
「誰の…っ! せいだと…っ!!」
俺のせいだな、と彼はあたしの頭を撫でてくる。
そのまま、彼はあたしを抱き上げた。
「先生、俺達は帰ります。恋人に心の傷を与えてしまった、その償いをしなければならないので」
ナズナはそう言うと、使い魔を呼び出して自分に纏わせる。
飛行能力を得た彼は、あたしを抱えたまま上空に飛び立った。
◆◆◆
「離してってば!」
彼が空中に上がったため、あたし達は学校から数十メートル上空にいる。
ナズナの腕の中で暴れるあたしを、彼は頑なに離そうとしなかった。
「今離したら、地上に真っ逆さまだぞ」
「別に、雛桔梗展開して飛べるし」
今ナズナが手を離した所で、あたしには雛桔梗がいる。
それに、自力でも飛べるのだ。
何も困る事はない。
「…すまん、俺が離れたくない」
少し辛そうに、ナズナは言う。
腕の力も強まって、あたしは大人しくなる。
そんな顔しても許さないんだから。
あたしはプイッと、彼から顔を背けた。
「すまなかった、シャルロット。お前を悲しませるつもりは全くなかったんだ。俺の好奇心で、お前を傷つける事になるとは思わなかった。いや、言い訳にしかならないな…。お前が望むようにしよう。お前の望み通りにしよう。もし、俺を本気で嫌いになったのなら、このままテスタロッサまで送る。お前は、どうしたい?」
とても後悔しているような声音で、そんな事を言う彼に、あたしは涙声で言った。
「……もう、やだ。嫌だ。なんでこんな思いしなくちゃいけないの? ナズナの事、殺したくなかったのに…っ!」
再びナズナの腕の中で泣き始めたあたしに、彼は額にキスを落とす。
その行為が優しくて、あたしはまた涙が溢れた。
「うん、わかってる。お前の好意につけ込んだ事、本当に後悔してる。すまない、シャルロット。まだ、俺の事を愛してくれているか?」
後悔と懇願を瞳に湛えて、彼はあたしを見つめる。
「嫌いに、なるわけないじゃない…っ!」
彼の首に腕を回して、泣きじゃくる。
あたしの背を撫で、彼は移動し始めた。
「ナズナ、どこ、いくの…?」
「テスタロッサの家だ。土下座しに行く」
待て待て待て。
今のあたしのこの姿を見たら、ターニャが怒り狂うのが目に見える。
あたしは彼の肩を叩いて、待ったをかけた。
「しに行かなくていい。貴方死にたいの?」
「そうしなければ、お前の気もすまないだろう?」
あたしは首を思い切り横に振る。
「今度は本当に死ぬ! ターニャは拷問部隊にいた事もあるくらいの手練れなの! 拷問はお手のものなの! やだ…ナズナが死ぬの、いやだ…」
要の裏部隊、その一部分である拷問部隊。
そこに長谷川はしばらくいたらしいと聞いた事がある。
総帥になるのだからと、部隊の存在だけは教えてもらっていたけれど。
そんな拷問に長けた人に、あたしを傷つけたと謝りに行くなんて、自殺をしに行くようなものだ。
困ったように眉を下げる彼の頬を両手で掴み、キスをした。
あたしからならセーフのはずだ。
「お願いだから、心配させないで。あたしの傍にいて。大好きな人が死ぬのは、もう失うのは、嫌なの…」
「シャル…」
目を見開いていた彼は、涙を零すあたしに向けてふわりと笑った。
「あぁ。お前の傍を離れない。出来る限り、心配させないようにする。愛してるよ、シャルロット」
「約束だからね…?」
あぁ、とナズナは返事をし、寮の方向へ方向転換し飛び始める。
「今日は添い寝して。悪夢でうなされるかもしれないから」
「……あぁ、わかった……生殺しか…」
聞こえてないと思ったのだろうが、バッチリ聞こえてしまって、あたしは彼を睨んだ。
「生殺しって何。そもそもナズナが悪いんでしょ?!」
「わかってる、わかってるから! 本当に申し訳ないと思っている! 添い寝でもなんでもするから、許してくれ…」
しょんぼりしてしまったナズナの表情を見て、あたしは吹き出して笑ってしまう。
あたしの笑顔を見て、彼もホッとしたようだった。
◆◆◆
「しかし、シャルの綺麗な髪が短くなってしまったな…。なんでこれは戻らなかったんだ」
「さぁ? 生命に支障が無いからじゃないの?」
寮に戻ってきたあたし達は、夕飯を終えてのんびりしていた。
彼は隣に座り、あたしの髪をいじりながら不満そうだった。
「あの令嬢、許さん。俺が王位についたら追放してやる…」
「馬鹿な事言ってないで、手を離して。髪整えられないじゃないの」
無造作に斬られたものだから、髪が短かったり長かったりとバラバラなのだ。
それをルティに整えてもらっている最中で、やっとナズナが手を離してくれたので、作業を再開出来るみたい。
「なんでも出来るのね、ルティ。レヴィもいい旦那さんもらったわね」
「であろう? 我が夫は手先も器用だし、いい男だ。妾の番として、申し分ないんだぞ」
ニコニコと笑いながら旦那さん自慢してくれるのはいいんだけど、ルティの手元が狂いそうで怖いんだけど。
嬉しくて彼の肩が震えているから。
いつもなら自分もと言ってくるナズナが大人しい。
今日の出来事で、あたしを泣かせてしまったのが堪えたのだろう。
「ルティ、もう大丈夫? 大丈夫なら、もう寝るから下がっていいよ」
あたしの髪とかを片付け、ルティとレヴィは下がっていく。
ソファーで腕を組んでいたナズナの手を引いて、彼の寝室に向かった。
「ん!」
ベッドを叩いて、ナズナの方を見る。
彼は苦笑して先にベッドの中に入り、あたしを招き入れた。
「今日だけ、今日だけだから」
彼の胸に頬を擦り付け、そう呟く。
「あぁ、わかってる。おやすみ、シャル」
彼の体温と頭を撫でる手に、あたしはすぐさま眠りに落ちたのだった。
悪夢なんて、見る事なく。
長いよぅ…2000文字に収まらなかったよう…