冬休みに入り、あたしはテスタロッサの家に帰ってきていた。
あの騒動の後の成績発表で、あたしは学年二位の成績を叩き出したらしい。
らしい、というのは、それが又聞きだからだ。
あれから少し情緒が不安定になってしまったあたしは、ナズナが傍にいないと気分が悪くなり動悸が激しくなって、蹲ってしまうようになった。
だから、彼の傍を離れないようにしていたものだから、張り出された直後見に行く事も出来なかったのだ。
アン達が嬉々として教えてくれて、助かったと言わざるを得ない。
ターニャやお義父様に報告が出来ないからだ。
ちなみに学年一位は、ナズナだったりする。
「うぅ…情けない…」
適温の紅茶を飲みながら、あたしは今までの経緯を思い出し、嘆息した。
ナズナが傍にいないと、何も出来なくなってしまうとは。
それほどまでにショックだったのはわかるのだが、精神的に脆すぎやしないだろうか、あたし。
「俺はシャルと共にいられるから、情けないとは思わんがな」
温室にティーセットを用意してもらい、あたしとナズナはお茶をしている。
この地は雪が降らないものの気温が低くなるので、外でお茶をするのも厳しい。
外にいる気分を味わうため、メイド達にこの場へお茶を用意してもらったのだ。
「ナズナにべったりって、あたし鬱陶しくない?」
「逆に聞くが、惚れた奴に抱き付かれて、嬉しいと思う以上の事があると思うのか?」
確かに。
四六時中は…流石にあたしは勘弁だけれど、好きだという態度を取られるのは、嬉しいものを感じる。
あの対抗戦の後、一回ナズナを連れてターニャに会いにいき、こういう事情だから制限を一部解除して欲しいと頼み込んだ。
彼女の眼光でナズナが死ぬんじゃないか、と言うくらい、ターニャが彼を睨みつけていたのは記憶に新しい。
さらに拳を握って震えていたのは、彼女なりに我慢してくれていたからだろうと伺えた。
「あたしの心の傷が癒えるまで、って条件付きでキスと同衾まではオッケーになったけど…癒えるのかしら。凄いトラウマになっている気がするんだけど」
「それならそれで、俺はお前に償っていくだけだ。お前に愛を囁くのも惜しむつもりはない」
いや、それはいつも言ってるのでは?
あたしは彼から目を背けて、照れる。
あれから、いつも以上に彼はあたしを気にかけてくれるようになった。
体調面でも、精神面でも。
そこまでしなくてもいいと思う程に。
流石に、お姫様抱っこで登下校すると言い始めた時は止めたけれど。
「もう学校行くの嫌だなぁ…。ナズナとこうやってのんびりしていたい…」
「中退か…結婚したらしていいぞ」
机に肘をつき、頬杖をしながらナズナはニコリと笑う。
あたしは彼をジト目で睨んだ。
「それは、ナズナだけ学校に行くって事じゃない。
こんな状態のあたしを放っておいてなんて、酷い人ね」
プイッ、と顔を背けるあたしに、ナズナが慌て出した。
「いや、そういうつもりでは…! お前が嫌だと言っても、俺は辞めるわけにはいかなくてだな…!」
「わかってる。あんまり本気にしないでよ。こういう休養期間が多ければ、貴方から離れても大丈夫だって、思ってるから」
そう、大丈夫なはず。
でなければ、あたしは一生ナズナにおんぶで生きていかなければならない。
苦笑するあたしに、ナズナも困ったように笑った。
その時だった。
温室の一角に、亀裂が走ったのは。
「えっ?」
そちらを見るのと同時に、そこへ吸い込まれる感覚を覚えた。
「シャル!!」
ナズナがあたしを抱きしめる。
このままでは彼も危ないと感じたあたしは、ナズナを突き飛ばそうと力を込めた。
だがしかし、それ以上の力で彼は腕の力を強める。
「ナズナ、離し…っ!」
「もう遅い」
彼がそう言うや否や、あたし達は亀裂に吸い込まれたのだった。
◆◆◆
「ん…」
どれくらい経ったのだろう。
陽の光と、草の匂いで目を開けた。
ナズナに抱きしめられながら、彼のゆっくりとした呼吸音を聞く。
どうやら彼は眠っているようで、あたしは体を起こした。
ナズナの腕の拘束は案外すんなり解けて、彼の体を見る。
見る限り怪我はなさそうだけど…。
「雛桔梗、ナズナのスキャンチェック。身体に異常があったら教えて」
【スキャンチェック開始します………終了。ナズナ様に異常は見当たりません、我が主】
その言葉に、あたしは安堵する。
良かったと思うと同時に、ここは何処だと辺りを見渡した。
辺り一面森で、人がいそうとは思えない。
「ここ、何処だかわかる?」
【異世界、エルトラントのようです。我が主】
エルトラント?
異世界って事は、別時空に飛ばされたって事か。
叶うなら、近くの森に転移しただけ、って希望を持ちたかったところだけど。
しかし、あの亀裂はなんだったのだろうかと思案していると、雛桔梗が告げてくる。
【要救助者と認識され、こちらに向かってくる熱源多数です。どうしますか? 我が主】
「…どうしますかって言われても。助けてくれるなら、まぁ…従いましょう」