転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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117.滞在します

彼の顔が近付いてくる。

キスをされると思い、あたしは目を閉じた。

だけどそれは、扉をノックした音と同時に聞こえた声に、止められる。

 

「よぉ、いい雰囲気のとこすまんな。あと、クソボケ野郎。誰がナツキに手を出して良いと言った? 師匠とナツキが許しても、ここにいる限りは私が許さん」

「……保護してもらい、感謝しかない。俺は放り出されても構わんが、シャルはよろしく頼む」

 

カヅキに対し、ナズナは深々と頭を下げた。

彼女は舌打ちをした後、ナズナをミドルキックで蹴り飛ばす。

 

「ナズナっ!!」

「殺しちゃいねぇよ。ったく…お前を放り出した所で、ナツキもついて行くに決まってんだろボケ。良いか? お前をここに置いているのはナツキの為だ、お前の為じゃない。そこんとこ履き違えんじゃねぇぞ、アホ」

 

カヅキの口の悪さが、五割り増しになっている気がする。

唖然としてしまっていたが、あたしは彼女に弁明した。

 

「あの、カヅキ。あたしの状態はあたしが悪いのであって、ナズナが悪いわけじゃないの。ほら、精神的に脆くなってるだけで、総帥になるための教育を受けてた頃を思い出せば…」

「「却下」」

 

ナズナとカヅキ、同時に同じ事を言われる。

なんでと首を傾げると、

 

「あの頃のお前、追い詰められていただろ。師匠もお前を気遣って、好物ばかり出してたはずだ。そんな頃に戻させる訳には行くか」

「あのシャルは、恐ろしいと思う。流石に勘弁してくれ」

 

と言われてしまった。

 

え、そんなに?

 

追い詰められていた記憶はない。

やるべき事をやっていただけだ。

それが、あたしがあたしである、唯一の方法だと思っていたから。

 

…ナズナに怖がられているのは、理解しているけれど。

 

「あの、カヅキ。あたし達、元の世界に戻りたいのだけど」

「わかってる。こんな状態のお前を帰すのは、私としては心配なんだがな」

 

ギロリ、とカヅキはナズナを睨みつけた。

全部が全部、ナズナが悪いわけではないと思うんだけどな。

拒否れなかったあたしも悪いのだし。

 

「髪を切られる事態になったのは、ナツキ自身のせいではある。だが、それ以外はテメェの行いのせいだ、わかってんのかナズナ!」

「あぁ、わかっている。重々、承知しているとも」

 

あぁ、ナズナが凄い落ち込んでいる。

好奇心は猫をも殺すとは、よく言ったものだ。

 

「カヅキ。気分転換にお散歩したいの。あと、元の世界に戻れるまで、ここで療養させてもらえないかな。貴女が迷惑だと、思わない範囲で良いのだけど」

「ナツキ…」

 

反省しているナズナに助け舟を出すため、あたしは話題を変える。

それを理解したのか、カヅキはため息を一つ吐いてあたしの前に跪いた。

 

「私の大切なお嬢様。貴女が望むのならいくらでも。貴女の憂いが無くなるまで、こちらで療養してくださいませ」

「ありがとう。本当にごめんなさい。ナズナの介助がないと、どこにも行けないの。だから、ナズナのお世話もしてくれると、ありがたいのだけど」

 

あたしがそう言うと、カヅキは少し複雑そうな顔をしていたが、またため息をついて了承してくれる。

 

「ナズナ、またうちのお嬢様に無体を働こうってんなら、私は容赦しないからな」

「わかってる。すまない、カヅキ」

 

ナズナは立ち上がると、またカヅキに頭を下げた。

この人、自分が王族って立場なのわかっているのだろうか。

まぁ、カヅキには権力とかそういうの、通じない方ではあるけれど。

 

◆◆◆

 

カヅキは仕事があるようで、屋敷の案内をメイドさんに任せ、影に沈み込んでいった。

相変わらず、長距離転移が苦手なようだ。

 

「綺麗…」

「お館様自慢の庭でございます」

 

最初に案内されたのは庭だった。

色とりどりの薔薇が、そこかしこに咲き乱れている。

あたしが目覚める前雨が降ったのか、水滴が太陽の光を反射して煌めいていた。

 

「香りも良いな」

「あまり匂いがキツくないものを、お館様自らが選定し、植えられたものです。その後のお世話は我々が」

 

カヅキ、土いじりも好きだったのか。

 

また彼女の知らない一面が出てきて、あたしは少し寂しい気持ちになる。

あの頃のカヅキには、やはり無理をさせてしまっていたようだ。

あたしの婚約者としての教育も、護衛としての教育も。

彼女には、とても大変で苦痛だったのではないかと、想像してしまう。

 

「シャル?」

「…ううん、何でもない。とても綺麗で、感嘆しただけ。心が洗われるようで、癒されると思ったの」

 

腕を組んで、あたしをエスコートしてくれていたナズナが、あたしの顔を覗き込んでくる。

それに少しだけ微笑んで、あたし達はメイドさんの後を追った。

 

屋敷内に戻り、各部屋の説明を受けている最中だった。

背後の扉が勢いよく開かれ、壁に当たる大きな音が聞こえて、あたしは肩を跳ね上げる。

 

「っあ゛ーっ!! くそっ!! また失敗しやがった!! おい、カヅキ! どこいった…って…」

 

あまりの衝撃すぎて、あたしは固まってしまった。

あたしを庇うように、ナズナがあたしの前に立ってくれている。

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