部屋から出てきたのは、白髪褐色肌のカヅキだった。
だが彼女は今、カヅキの名を呼んだ。
なら、この人は誰だというのだろう?
「お、お前…篠原夏月か…?」
ヨロヨロと、あたしの方に近寄ってくる女性に少しの恐怖を抱く。
メイドさんがあたし達の前に立って、彼女を止めてくれた。
それを見たナズナが、あたしを抱きしめてくれる。
「
「うるせぇ! そこを退け!」
女性の目は、あたしを見据えていた。
何かを渇望するかのような、そんな目だ。
あたしはその目に、見覚えがある。
宮塚麻人。
思い出して、あたしは血の気が引き、カタカタと震え出した。
目をギュッと閉じ、ナズナの胸に顔を埋める。
嫌だ。
何も見たくない、聞きたくない。
助けて、ナズナ。
スパーンっ!!
と凄い音がして、次いで何かが倒れる音がした。
ナズナがあたしの名前を呼んだので目を開けると、眉が吊り上がったカヅキと、先程ルカと呼ばれた女性が倒れている姿が目に入ってくる。
「ルカ、テメェ…何ナツキ怯えさせてんだ! はっ倒すぞ!!」
「倒した後で言うんじゃねぇよアホ! てかナツキいるってなんで教えねぇんだ!!」
メイドさんがカヅキを呼んでくれたようで、あたしは安堵した。
ナズナがあたしの背を軽く叩いて、慰めてくれる。
心地よくて、彼の胸に頬擦りした。
「お前に教えようもんなら、ナツキの所に突撃するだろう?! 今のナツキは、メンタルボロボロの深窓の令嬢だぞ?! 少しでも刺激与えようもんなら、すぐ気絶するくらいなお嬢様だ! お前になんか会わせられるか!!」
あたしそんな風に思われてたのか。
流石に気絶しない…と言いたい。
多分。
「カヅキ、ここは任せていいか? シャルが怯えている。部屋に連れ帰ろうと思うが」
「そうしてくれ。ナツキ、夕飯時にでももう一回こいつとか他の家族を紹介する。それまでに暴走しないよう言い聞かせておく、安心してくれ」
カヅキの言葉に、あたしは頷いた。
ナズナに連れられ、部屋へと戻る。
お部屋の外にいたの、二時間くらいだったなぁ。
ベッドに腰掛け、隣に座ったナズナに寄りかかった。
彼はあたしの手を握って、あたしの頭に頬をくっつけてくる。
「そう言えば、シャル。ここに来る前、俺とのんびりしたいと言っていたな。気が済むまでこちらにいるという選択肢も、見えてきたと思うが」
「馬鹿な事言わないでよ。今のカヅキがどのくらいの年齢かはわからないけど、前に会った時よりも大人になってる。あんまりこちらにいると、向こうに戻った時大変な事になりそうじゃない? ナズナが消えたからって、ユキヤ君が王位を継がされる、とか。有り得そうじゃない?」
顔を上げたナズナの表情を見た。
彼は何かを悩むような、難しい顔をしている。
何を悩んでいるのだろうと、あたしは首を傾げた。
「いや…確かに有り得るんだが…シャルとテスタロッサに行く前に、俺宛に文が来たんだ。相手は、ユキヤの婚約者であるアリシア・トンプソンという令嬢でな。文の内容を思い出すと、頭の痛くなる話ではあるんだが…」
「何が書かれていたの? まさか…ナズナの婚約者になるとかそういう話?」
尋ねると、首を横に振られる。
「ユキヤの浮気がわかったから、協力して欲しいと」
「……あちゃー…」
遂に婚約者にバレたのか、ユキヤ君。
これ、修羅場になりそうだなぁ。
義理の弟になるとは言え、関係を清算させておかなかったユキヤ君が悪い。
これはあたしも擁護は出来ない。
「王太子も何もかも投げ出して、シャルとここで暮らしたいと思ってしまう出来事だろう? なんで俺が、弟の恋路に口を出さねばならん」
「うん。わかるけど…」
そう上手くかないのは、ナズナもよく分かっているだろうに。
あたしが見つめていると、彼は困ったように笑う。
「夢物語なのはわかっているんだ。地位も何もない、ただの俺達で暮らしたいと。俺が外で働いて、シャルには家を守ってもらって。なんでもない事で笑って、喧嘩して。そんな日々を暮らしてみたいと」
「うん。あたしも何回も思っているよ。貴方とそんな風に暮らせたらって」
そんな穏やかな時間を過ごせたらと。
叶わない夢を見る。
「来世に期待しましょう。あの神がちゃんと仕事してくれたら、だけど。来世でも、あたしを見つけてくれる?」
「勿論だ。俺の
あたしを抱き寄せ、ナズナは口付けを落としてくる。
嬉しい、幸せだという感情があたしの胸を埋め尽くした。
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「えー…紹介する。私の旦那の