夕飯時、あたしはメイドさん達の勧めで黒いワンピースに着替えていた。
と言っても、こちらに来た時は着の身着のままだったので、あたしの持ち物ではない。
何故か、カヅキがあたし用にと買い揃えていたもののようで、その一着だと説明されたが。
さらにこちらの季節は夏だったので、白い長袖のワンピースと羽織る用にとチェック柄のショールを身に付けていたあたしは、少し暑かった事もあり、ありがたくその服を着させてもらったのだ。
ナズナは替えの服が無かったので、執事服を着ている。
側から見れば、貴族令嬢とその執事だ。
立場的に、あたしの方が下なのだけれど。
あたしとナズナは、最上級の礼を皆にする。
「晩餐にお招きいただきありがとうございます。私はシャルロット・マリアライト・テスタロッサと申します。こちらは、我がリューネ国王太子であらせられる、ナズナ・エキザカム・ブリリアント殿下です。以後、お見知り置きを」
「堅苦しい。別に無礼講とは言わんが、肩肘張るのは公式の場だけでいい」
カヅキは手を振って、呆れたように言ってきた。
あたしは顔を上げ、彼女に苦笑しながらも苦言を呈す。
「貴女、ここにターニャがいたら怒られている所よ? 挨拶をされているのだから、茶々を入れるんじゃない、とか」
「師匠の話はやめてくれ、ナツキ」
軽くため息をつくカヅキに、クスクス笑ってしまう。
ナズナはそんなあたしを見て、微笑んでくれているし、ルカさんはあたし達を見て血涙を流しそうになるくらい睨んでいるし…怖い。
「ルカさん、いい加減にしなよ」
食卓について食事を始めた直後、妹と紹介されたトウカちゃんが、ルカさんの脇腹を小突いた。
どうやら、あたし…ではなくナズナを睨んでいるのを注意しているようだ。
「ぐっ!! だってよぉ…」
「お姉ちゃん、ルカさんだけ別室の方が良かったんじゃ…? ナツキさん、安心して食事できないんじゃない?」
アオイちゃんも、カヅキにそう言う。
というか、この声…。
「アオイちゃん…アオイちゃんって呼んでもいいかな? もしかして、あたし達に話しかけてきてくれたのって、貴女?」
「そうですよ、ナツキさん。さっきぶりです。あと、ちゃん付けオッケーです」
ニコッと笑う笑顔が可愛い。
ふと、視界の端にヨシキ君の姿が映る。
向かいに座っている彼は、アオイちゃんをずっと見ていた。
どうやらヨシキ君は、彼女に恋をしているようだ。
アオイちゃんは気付いていないようだが。
「ルカ…大人しくするという条件で、ここに居させてるの、まさか忘れたわけじゃないよな?」
「大人しくしてるだろ。だってよぉ…ナツキが、目の前にいるんだぜ? それだけでアタシは…アタシは…」
俯き、肩を震わせ始めるルカさんに、あたしは少し憐憫を抱いてしまう。
もしかしたら、ルカさんの世界のあたしは、彼女より先に死んでしまったのかもしれない。
だから再会できて、嬉しかったのかもしれない。
…あたしは、彼女の世界のナツキではないのだけれど。
「ナツキに抱き付いて、あんな事やこんな事が漸く出来るって事じゃねぇか!」
「姉上、これ捨ててくる」
高笑いを始めたルカさんをトウカちゃんが持ち上げ、あたし達の横を通り過ぎていった。
その姿を見送った後、あたしはカヅキに質問する。
「あの、ルカさんとあたしの関係って…」
「私とお前みたいな関係だったそうだ。ただし、あいつは元々女だった私だ。並行世界の住人というわけだな。トウカもそうだぞ。お前の知ってるトウカは、男だったはずだろう? あの子は女だ」
あたしとカヅキみたいな関係、という事は、その世界でも彼女はあたしの護衛だったのだろうか。
それにしてはベクトルがおかしい事になっている気がするけれど。
ここまで口を開いていないナズナの方を見る。
あたし達の事情だからか、静かに食事しているようだ。
それは、カヅキの旦那様であるユウリさんも同様のようで、娘である双子ちゃん達の食事の介助をしているようだった。
「ん…姉さん。なんで…シャルロット…さんを…みんな…ナツキって、呼んでるの…? それ、誰…?」
コクリコクリと、船を漕ぎながらアイラちゃんがカヅキに質問する。
ヨシキ君も、俺も気になってました、と同意した。
「あー…端的に言えば、故郷ではナツキって呼ばれてたんだよこいつは。うちの家族には、度々ナツキの話してたから、その呼び方が定着してて…」
「あたし、一時期記憶喪失だったの。その状態でナズナ殿下達に拾っていただいて、シャルロットって名前をつけてもらったの。ただそれだけのお話よ」
ニコリと、カヅキの説明に補足を入れると、アイラちゃんとヨシキ君は納得してくれたようだった。
「それだけじゃないだろ、シャル。そのあと俺と恋人同士になったんだからな」
「ちょっ…!!」
蛇足みたいな事言わないで欲しいのだけれど?!
あたしが慌て出したのを見て、アイラちゃんとアオイちゃんはニヤニヤし始め、ヨシキ君はナズナを見てやはり顔かと呟いた。