転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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120.ピアノを弾きました

カヅキは頭が痛そうに手を当てているし、ユウリさんはニコニコ笑って状況を見ている。

 

「殿下! 食事時に何を…っ!!」

「普段はナズナと呼んでいるじゃないか、シャル」

 

あたしの手を取り、手の甲にキスを落とす彼を見て、顔が真っ赤になるのを感じた。

カヅキは舌打ちして、ナズナに注意する。

 

「ナズナ、ナツキも言ったが食事時だ。あと、次ナツキにんな事しようものなら、その舌切り落とすぞ」

「愛情表現をして何が悪い。それに、俺を傷つけようものなら、シャルに嫌われる事を覚悟の上で言っているのか? あの時も、シャルに嫌いになると言われて怯んだじゃないか」

 

いつの話をしていると、カヅキはナズナを睨む。

険悪な雰囲気になってしまったのを見たあたしは、食堂の隅にピアノが置いてある事に気付いた。

 

「カ、カヅキ! あれ、あれ調律してあるの?」

「あ、あぁ。私も練習で使っているしな」

 

あたしの剣幕に彼女は少し驚いたようで、素直に質問に答えてくれる。

ナズナもあたしの様子に、手を離してくれた。

 

「弾きたいのだけれど、良いかしら? あの、リクエストあればそれ弾くけれど…」

「…お前の好きなように弾けばいいさ。師匠には悪いが、この場でお前のピアノを聴けるなんざ、役得しかないな」

 

カヅキはあたしの傍に寄ると、ピアノまでエスコートしてくれる。

あたしはピアノの前に座ると鍵盤蓋を開け、鍵盤を一つ叩いた。

 

とてもいい音…ちゃんと調律されてて、大事にされているのがわかる。

 

とりあえず、有名どころであるラ・カンパネラを弾き始めた。

指の動きが激しいが、あの頃はピアノを弾いている時が一番楽しくて、勉強するのも忘れてしまったくらい。

 

後で長谷川に笑いながら注意されたっけ。

まだ指の動きを覚えていて良かった。

とちったりしたら恥ずかしいもの。

 

続いてこうもり序曲、くるみ割り人形と弾いていく。

陽気な曲から一転、ボレロや魔王、月光をあたしはピアノで奏で始めた。

 

この曲達好きなんだよね。

特に月光は。

 

弾き終わると、拍手が上がる。

あたしはそちらの方を見て、ニコリと微笑んだ。

間髪入れず、カヅキがあたしを抱きしめる。

 

「え? ちょっと、カヅキ?」

「お嬢様…あぁ、お嬢様ぁ…っ!!」

 

ちょっと貴女、泣いてるの?

それに少しお酒くさい。

酔っ払ってる?

 

唖然とカヅキを見ていると、ユウリさんが彼女をあたしから引き剥がした。

 

「すみません、ナツキさん。カヅキは酔うといつもこうでして。君達、お開きにしようか。ナズナ君もごめんね。ナツキさんを大切に思うあまり、攻撃的になるみたいでね」

「気にしていない。シャル、帰ろうか。あまり食べていないだろう? 何か貰ってくるか?」

 

ユウリさんが謝罪してくるが、ナズナに対しては謝っている感じがしない。

むしろ、お前がその行いをしなければカヅキもここまでならなかったと、言外に言っている。

 

ユエちゃんとユタカちゃんは、気付いたらもういなかった。

あたしがピアノを弾いている間に食事を終え、部屋へ帰ったのだろう。

 

ナズナがあたしに差し出してきた手を取って立ち上がった。

 

「いえ、大丈夫よ。ユウリさん、カヅキをお願いします」

「勿論」

 

カヅキを抱き抱え、ユウリさんは食堂から出ていく。

あたし達もその場から退出したのだった。

 

◆◆◆

 

部屋に着いたらお茶菓子が用意されていた。

どうやら、ユウリさんが手配してくれたみたい。

流石カヅキの旦那様、気配りが上手。

 

お茶の用意もされていたので、あたしはナズナに聞く。

 

「貴方も飲む?」

「お茶だけ頂こう」

 

二つのティーカップにお茶を注ぎ、あたしはナズナの前にそれを置いた。

自分の分も淹れて、席に着く。

 

「シャルはピアノも上手かったのだな。初めて知った」

 

お茶を一口飲んだナズナが、微笑みながらそう言ってくれた。

 

「下手じゃなかったかしら? 聞き苦しくなかった?」

「とんでもない。お前より指の動きも、弾く姿勢も、演奏の技術さえ上回る者を見たことがない。俺の妃はなんでも出来るな」

 

褒めすぎだ。

それは褒めすぎだ。

照れるを通り越して、嘘っぽく感じてしまう。

 

「いや、褒めすぎだと思う。何十年も練習してきた人と比べたら、相手に失礼だと思うよ、ナズナ」

「ピアノはここ数年で入ってきた音楽技術だぞ? 一応、嗜みで奏者が奏でるものを聞いた事があるが、どれもシャルの域までは到達していない。俺は、お世辞なんぞ言わん」

 

ここ数年?

…またターニャか…。

 

大体何かあればターニャの知識がもたらしたものばかりで、それを可能にしてしまうお義父様の技術の高さに、脱帽する。

それもこれも、全てあたしのためという行動理念なのだから、手に負えない。

止めたところで聞きはしないもの、ターニャは。

 

「それもテスタロッサ製なんでしょうね…」

「まぁな。テスタロッサの財産は、うちの国庫に匹敵するんじゃないか? かなり稼いでいるようだし…後継はどうするつもりなんだ、ベルファの奴」

 

それはあたしが聞きたい。

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