あたしがナズナに嫁ぐのは、すでに決定事項だ。
それは変えられないし、変えたくない。
「わかんない。ターニャがお義父様の求婚に応えてくれればいいんだけど」
「……そうか、ターニャか」
苦笑を浮かべるナズナに、あたしは首を傾げた。
あまりにも怒られすぎて、苦手意識でも持ったのだろうか?
「ナズナ? どうかしたの?」
「…いや、俺の義母になるのかと思ったら、少しな。頭が上がらなくなりそうだと思ってな」
あたしは机の上に置かれたお菓子を食べる。
ほんのり甘さを感じる程度なので、とても紅茶と合う感じがした。
これ、うちでも作れないかしら。
どこの職人さんのお菓子なのかな?
明日カヅキに聞いてみよう。
「シャル、ワインもあるが飲むか?」
棚の方を見たナズナが、ワインセラーがあるのに気付いたようであたしに尋ねてくる。
貴族の屋敷につきものだと思うのだが、カヅキってば、サービス精神旺盛すぎないかしら?
あれいくらするんだろう?
流石のあたしでも、ワインがヴィンテージになると値段が高くなるという知識くらいある。
あたしは席を立ち、ナズナの横を通り過ぎてワインセラーに近づく。
中のワイン一本一本の製造年を確認してみたが、今が何年なのか把握が出来ていない時点で、無駄な行為かとワインを元の位置に戻した。
「なんか、後で請求されても怖いから、やめておこう」
「あのカヅキだぞ? 請求するわけないと思うが。それに、俺が勝手に何本も空けて飲んだならともかく、たったの一本をお前と俺で分けて飲んだと知れば、咎めるはずもないだろうに」
ナズナが背後に立ち、あたしを抱きしめてくる。
頭に頬擦りされ、苦笑した。
「カヅキに怒られたら、一緒に怒られてね?」
「勿論だ。シャルだけの責任にするわけないだろう」
一番年代が若かったワインを取り出し、ナズナに渡す。
あたしはワイングラスを持って席に着いた。
コルクを抜いてもらい、ナズナはあたしのグラスにワインを注いでくれる。
とてもいい匂いと、アルコール特有の匂いがしてふと、そういえばアルコール飲むの初めてだったな、なんて事を思い出した。
「ナズナ、あたしワインとかお酒類飲むの初めてなの。おかしくなったらごめんね?」
「ちゃんと介抱するさ。心配しなくていい」
ナズナがワインを飲む姿に少し見惚れた後、あたしも一口飲んでみる。
少し酸っぱい葡萄ジュースみたいな味がした後、苦味がきた。
これがアルコール特有の味という事だろうか?
「…結構度数高いな、これ」
ナズナが少し驚いているようだが、度数とはなんだろうか?
「度数って? あと今更だけど、未成年なのにワイン飲んで大丈夫なのかしら?」
「未成年ではないだろう。うちの国じゃ、15から成人だ。あと、度数っていうのはアルコールの強さだったか。数字が大きくなればなるほど、アルコールが強いという事だ」
それを平気で飲んでいるナズナって、結構お酒強いって事じゃない。
そう言えば、別荘でも普通にワイン飲んでいたっけ。
あたしもまた一口飲む。
体がポカポカしてきたようで、なんだか楽しくなってきた。
目の前のお菓子をつまみながら、ワインを飲むことを繰り返す。
そんなあたしを見て、ナズナは少し困ったように笑った。
「シャル、飲むスピードが早い。そんなに早いと、すぐに酔いが回るぞ」
「んー? 楽しくてー、えへへ」
へらっと笑うと、ナズナが少し顔を赤らめて目を逸らしてしまう。
何故だろうと首を傾げると、彼は小声で呟くように言った。
「……可愛い」
お酒飲んでるだけで可愛いと言われるとは。
まぁ、今楽しいからいっか。
「というか、暑くない? 冷房入ってるー?」
カヅキの屋敷だから、冷暖房完備だと思っていたのだけど、そうじゃなかったのかしら?
手でパタパタと顔を仰ぐが、暑さは一向に変わらない。
「いや、酔ってるから体温が上がってるだけだ。シャル、その…服を脱ごうとだけはしてくれるなよ? 流石に、俺も理性が…」
「何馬鹿な事言ってるの。着替えるなら、ちゃんと備え付けのバスルームに行って着替えるわよ。貴方の前でなんで脱がなきゃいけないの、スケベ」
罵倒してやると、だよな、と苦笑いを浮かべる彼に、そうよと返す。
確か、アルコールを飲んだらその倍以上の水を飲まないと、次の日二日酔いという名の頭痛に見舞われるから、ちゃんと水を飲むようにって、お酒を飲んでたお父様にお母様が注意してたっけ。
お水ってここあったっけ?
いや、バスルームの隣に洗面台があったな。
あそこで水飲もう。
「今日は疲れたなぁ。ナズナお風呂…は明日でいいか。酔ってたら危ないって聞いたことあるし」
「シャワーだけなら問題ないと思うが。湯船は危ないだろうけどな」
ワインを飲み終わり、軽く伸びをしたあたしに彼はそう言ってくる。
湯船で溺死は嫌だな、流石に。
「先に入ってくる? それとも一緒に入る? 事故防止のために」