何処かの建物のようだけど、彼女の話を思い出すなら、ここはカヅキの勤め先だろう。
「うちの学校の理事長室前だ。今から、お前らを体験留学生として申請する。良いか、ナズナ。余計な事は言うな、返事はイエスしか受け付けん」
「なんで俺だけなんだ?」
カヅキがナズナに釘を刺した。
それに対して彼は不満を漏らすが、彼の好奇心でとんでもない事に今現在進行形でなっているあたしは、彼から顔を逸らすしかない。
「お前だけしか余計な事を言わないからだ。むしろ、お嬢様を見習え。お前の頭は空なのか?」
「罵倒が酷過ぎる…。むしろ、あたしも頭が空だと言わざるを得ないのだけど、カヅキ…」
今回の件は、ナズナだけが悪いわけじゃないとあたしは思っている。
だが、カヅキは首を横に振った。
「いーや、ナズナだけだ。お嬢様は確かに短気な所も豆腐メンタルな所もある。だが、自分の行動には責任を持てるお方だ。考えた上で、行動できる人だ。そう師匠が教育してきたのも知ってる。分かってんのか、ボケ王子。その師匠が慈しんで育ててきた方を、お前は」
「まぁまぁ! 理事長をお待たせしてるんじゃなくて? あたしが眠っている間、散々その話はしたのではないの? ナズナがしょんぼりしてるから、その辺にしてあげて? ね?」
あたしが頼み込むと、カヅキはため息を一つ吐いて背を向けた。
そして、扉をノックする。
「アリシャさん、失礼する」
「どうしたカヅキ? また備品を壊したか? それとも、研究棟を爆破したか?」
金髪に赤目の美少女が、入ってきたカヅキに言う。
その言葉に、あたしとナズナの目線が彼女の背後に集中した。
「カヅキ、爆破って…」
「シャルより無茶をする…」
それはどういう意味なのかしら、ナズナ?
キッとナズナを睨みつけると、彼は慌てて首を横に振った。
意味合いが違うとか言ったらはっ倒す所なんだが。
更に睨みつけていると、ナズナが目を伏せた。
「……すまん」
謝罪したという事は、やはりそう思っていたという事か。
あたしは、ナズナの足を軽く踏みつける。
そんなあたし達を横目で見ていたカヅキが、咳払いをして理事長に苦言を呈する。
「アリシャさん、一体何年前の話をしてるんですか」
「すまんな、冗談だよ。して、そちらの二人は? 見たところ良いとこの子息令嬢のようだが」
理事長はクスクス笑い、あたしとナズナを見る。
その視線に違和感を覚え、カヅキにこっそり尋ねた。
「ねぇ、カヅキ。理事長先生って、今お年おいくつ?」
「さぁな? 私が学生の頃から姿が変わっていない。ちなみに昨日家にいたアイラは、アリシャさんの娘だ」
すごい若作りな人…なわけないか。
多分、ベアトリーチェ様と同類の人だろう。
つまりは、エルフだ。
ハーフかクォーターかは分からないけど、その血が混じっているのは確定していると思う。
ナズナの方を見ると、あたしと同じ事を考えていたのか、目が合うと頷いてくれた。
「うちに居候する事になった二人でして。こいつはリハビリ目的、んでこいつはその介助役。リハビリついでに体験入学でもさせておこうと思ったので、許可もらえませんか?」
「うん、許可する」
理事長は引き出しから許可証と書かれた紙を二枚出し、それぞれに自分の署名をしていく。
それらをカヅキへ差し出した。
「早いですね」
「こんなの、すぐ出来るからの」
カッカッカ、と理事長は笑う。
ちょっと笑い方が老人くさいところを見るに、ベアトリーチェ様より年上な気がした。
「二人とも、自己紹介しろ」
あたしには背に手を添え、ナズナは腕を掴まれ、カヅキの前に出される。
あたし達は、理事長に礼をとった。
「ナズナ・エキザカム・ブリリアントだ。これから世話になる」
「シャルロット・マリアライト・テスタロッサと申します。ナズナ様共々、よろしくお願い致します」
理事長はあたし達を見て、面白そうにカヅキへ視線を投げる。
「ナズナと言った方はお前と似た匂いがするが、シャルロットの方は礼儀正しいな? なぁ、カヅキ」
「そうですね」
ナズナの背後に回ったカヅキが、彼の足を軽く蹴った。
あまり不遜な態度を取ると許さない、という警告だろうと見て取れる。
「妾はアリシャ・ヘルツァーク・ミッドフォードという。知っての通り理事長という役職についておってな。カヅキの上司に当たる。よろしくな、二人とも」
「では、我々は授業に向かいますので。これにて失礼致します」
カヅキは理事長に一礼した後、あたし達を伴って退室した。
先を歩く彼女に、あたしは問う。
「授業って、何をするの? というか、あたし達が入っても大丈夫なの?」
「問題ない。むしろナツキ、お前一人でやってみろ。ナズナは見学な。あぁ、ナズナの身の安全は保証する。絶対傷一つつけない、約束する」
カヅキが踏み入れた場所は、生徒達だろう人達が機械の鎧を纏って、戦闘を行っているとても広い場所だった。
「ここは?」