なんで恋人が不機嫌になるような事を言わねばならないのだ。
あたしに害しかないのに。
◆◆◆
第四グラウンドと呼ばれている所に着いたようで、あたしはナズナから、ゆっくり地面へ下ろされる。
「ごめんね、ナズナ。運ばせちゃって。重かったでしょ?」
「いや、役得だから良い。それに、お前は軽い方だと思うが。もっと重くなってもいいんだぞ?」
腰に手を回され、抱き寄せられた。
人前なのでそういう事はやめてほしいのだが、ナズナなりの牽制だろうから、大人しくしておく。
ただ、あたしの態度を拒否だと受け取ったアオバ君は、ナズナに噛みついてきた。
「その手を離すんだ、ナズナ君! シャルロットさんが嫌がっているだろう?」
「…お前の目は節穴か何かなのか?」
今までの態度からして、あたしがナズナを嫌がっているなんて、アオバ君以外は思ってはいないだろう。
むしろ、生暖かい目で見られてさえいる。
あぁ、アオイちゃん達もそんな目で見ているぅ…。
恥ずかしさで、また顔を覆った。
カヅキが手を叩いて、自分の方に注目を寄せるまで。
「よーし、基礎訓練を始めるぞ。だがその前に、ナズナ、アオバ。さっさとやれ。貴重な授業時間を与えてやるんだ、さっさと終わらせろ」
ニコリと笑む彼女から、怒っているという感情が読み取れた。
本来なら休み時間とかを使えばいいんだろうけど、それはそれで許可が入りそうだし。
あたしは時魔法を組み込んだ結界を張った。
これで怪我とか、見たくはないが死亡した時など、解除すればなかった事になる、便利な結界だ。
そこへ、ナズナとアオバ君が入っていく。
「この決闘は、お互いに一つ敗者に要求する事が出来る。周りの者は見届け人であり、証人でもある。この決闘に異議のある者は?」
カヅキが周りの生徒に尋ねるが、誰も異の声を上げない。
むしろ、授業が少し潰れてラッキーと思っている者も、ちらほらいるようだ。
「いないな? では、ナズナ・エキザカム・ブリリアントと沖田青葉の決闘を開始する。ルールは相手に降伏させるか、戦闘不能にすれば勝利とする。シャルロットが張った結界で、負傷しても無かった事になるしな。思い切りやれ。異存はあるか?」
カヅキが二人に尋ねるが、二人とも首を横に振る。
お互い目線を逸そうともしていない。
それほど、本気だという事だろうか?
「両者、獲物を構えろ。このコインが地面に着いたら開始だ」
彼女はポケットから一枚の金貨を取り出し、上空に向かって投げる。
二人が武器を取り出すのと同時に、コインが地面に落ちた甲高い音が響いた。
瞬間、二人は地面を蹴って接近し、切り結ぶ。
武器の勢いが強すぎたのか、火花が散った。
「ナズナは刀、アオバは黒鍵か。まぁ、今代の勇者は先代より役に立ちそうではあるな」
地面に落ちた金貨を拾い上げ、カヅキは呟くように言う。
アオバ君の武器を見た事がなかったあたしは、カヅキに尋ねた。
「ねぇ、カヅキ…先生。アオバ君が使ってる武器、見た事ないのだけれど。あれ何?」
「先生つけるな気持ち悪い。あれは悪魔祓いの護符の一種だ。魔力を流して物質化させている。切ったり投げたり多種多様に使う事も出来るが、あれちゃんとわかって使ってんのか?」
カヅキの呆れた視線の先、アオバ君はその武器を使ってナズナと切り結んでいるが、切るような動きしかしていない。
あたしがもしあの武器を使うとしたら、距離を取りつつ投げて、牽制しつつ一気に距離を詰めて別の武器で斬る、かな。
「アオバ君って、実践経験乏しい?」
「今は平和な時代だからな。戦闘訓練の戦闘以外、した事ないだろうさ」
なら、アオバ君に勝ち目はない。
ナズナは実践経験どころか、戦争を経験している人だ。
勝つか負けるかでの勝負ではなく、死ぬか生きるかの瀬戸際で戦ってきた人だ。
そんな人が、負けるとは思えない。
「ナズナっ!! 本気でやっちゃえーっ!!」
あたしの声に反応したのか、ナズナの体が帯電し始める。
あたしと戦った時に、見せたやつだ。
今まで刀だけだったのが足も使い始め、舞うようにアオバ君へ攻撃していく。
ナズナの蹴りへ防御しようとしたアオバ君が、ナズナに触れる。
瞬間感電したようで、パァンっという音と共に、彼は吹っ飛んだ。
受け身を取ったアオバ君はすぐに立ち上がったが、防御した右腕をダラリと下げている。
多少痙攣しているところを見るに、雷撃をまともに受けて使い物にならなくなったらしい。
ナズナは刀をアオバ君に向けて、可哀想なものを見る表情になった。
「お前…この程度で、シャルを守るとか言ったのか? 言っておくが、シャルは俺よりも強いぞ。そんな俺より弱いお前が、よく言えたものだな」
彼のその言葉に、アオバ君は歯を食いしばったようだ。
顔が険しくなっている。