食事をしながらナズナが尋ねてきた。
あたしはそれに答える。
「とても。貴方が隊長に進言してくれたんですってね? 親衛隊の人達の能力も把握しているみたいだし、貴方の頭の中どうなっているの?」
「一応、この国の住民全員の名と顔は覚えている」
何それ。
冗談にしては笑えないけれど、彼は冗談を言うタイプではない、と思う。
まだ会って一日二日しか経っていないけど、勘がそう告げている。
あたしの勘がどれくらい信じられるかわからないけど。
「なら、あたしがこの国の人ではない事は、わかっていたはずよね? 間者かもしれないのに、よく引き入れたこと」
「その髪の色は、とても珍しいからな。俺は生まれてこの方見たことがない。あと、記憶喪失な事は真実だろう? 本当に間者なら、今頃拷問している所だ」
涼しい顔して恐ろしい事を言う。
けれど、冷静に物事を見極めて信じてくれた事には感謝しかない。
食後のワインを傾けていたナズナに一言尋ねる。
「もしかして、夜伽の相手をしろとか言う?」
聞いた瞬間、ナズナがワインを吹き出した。
ゲホゴホと噎せているナズナの傍らに行き、背中を摩った。
「誰がっ…そんな事、頼むかっ!!」
「いやー、良い雰囲気なもんだからてっきり…」
苦笑いを浮かべるあたしへ、ナズナが若干睨みつけてくる。
「俺を、あの親父と一緒にするな…一応婚約者もいるんだ。なんで自分の専属護衛に手を出さなければならん」
「もう体の関係があるんだ?」
そんなあたしの一言に、ナズナは机へ突っ伏した。
そして机を勢いつけて叩く。
衝撃でワインボトルが宙に浮き、床に落ちそうな所をキャッチした。
「式を上げるまで、手を出すつもりはないし、そもそも、あの女に情欲が湧くかと言われたら湧かん!!」
な、なんかナズナが荒れ始めた。
いや、荒れる原因作ったのあたしだけど。
なんか、ごめん。
「ご、ごめんナズナ」
「大体、世の中の貴族の女なんて、地位のことしか見ないような奴らばかりだ。俺に群がってくるのも、側室になって甘い汁を吸いたい連中で、俺の事なんて…」
そこまで言って、彼は口を噤む。
はぁ、とため息を吐くとあたしの頭を撫で始めた。
「すまん、シャル。ただの愚痴だ、忘れろ」
「いや、こっちこそごめん」
その原因を作ったのはあたしなのだから、責めてくれてもいいだろうに、彼はそれをせず逆に謝ってくる。
とても優しい人なのだろうと思った。
優しいが故に、王族であるが故に、傷ついてきたのだろうか。
「ナズナ。あたし、何があってもナズナの事守るよ。ナズナの傍から離れない。四六時中、ってわけにはいかないと思うけど、ナズナの事、支えられるように頑張る」
撫でていた手を、頬に持ってきて微笑む。
そんなあたしを見て、ナズナは驚いた顔をしていた。
「…プロポーズみたいだぞ、シャル」
「…茶化さないでもらえると助かるんだけど」
どちらからともなく笑い出す。
うん、やっぱりこういう関係の方が好きだ。
◆◆◆
一ヶ月間みっちり、レイラさんからこの世界の常識を習い、次の一ヶ月は戦闘訓練に参加したりしていた。
走り込みもしたけど、体力のケージが全く減らないし疲れもしないので、隊の人達から化け物かと恐れられてしまった。
何故だ。
化け物とは失礼だなと思うんだけど、その通りなので反論出来ず。
夜は、あの日からナズナと2人で摂るようになった。
家族と摂らないのかと尋ねたりもしたけど、ユキヤ君も自室で摂っているそうで、朝だけしか顔を合わせていないそうだ。
そんな生活を続けて三ヶ月目。
もうそろそろ春の季節かなと思い始めた矢先の事だった。
「王都に帰る?」
「そう。陛下達と入れ違いで、側室様一行がこちらにいらっしゃるんだって」
木刀で撃ち合いをしながら、カナリアが教えてくれる。
この三ヶ月で隊の皆とも仲良くなれた。
取り敢えずナズナに倣って、各人の名前と好きな物嫌いな物は覚えたし、人間観察も得意になった気がする。
「側室様? 誰がいらっしゃるの?」
「イェルダ様とドロテア様だね。今年生まれた殿下達のお世話大変だからってさ」
伝え聞く所によると、新生児の世話はものすごく大変らしい。
「でも王家の人達なら乳母とかついてるんじゃ…?」
カナリアを木刀で吹っ飛ばしながら尋ねる。
彼女は空中で一回転しながら体勢を整え、地面に着地した。
「王家っていっても人がいっぱいだからさ。王位継承権問題とかあるんだって。そんな抗争から離れたかったんじゃない? 苦労して産んだ子供殺されたら敵わないよねー」
あはは、と笑う彼女だが、それ聞かれたら不敬罪で、頭と胴体がおさらばする羽目にならないだろうか心配になる。
「というか、王太子っているの?」
「いるよー、次期国王様。てかシャル、それも知らないで専属護衛になったの?」
いや、知らないでって言われてもこの国で生まれ育ったわけではないし、王族の人って言ったらナズナ達くらいしか知らないわけで。
ふとカナリアの言に、あたしは思い至ってしまった。