「どこかの洞窟にいてね。そこを進んでいくと、金髪の女の人が…地底湖っていうのかな。大きい湖に、大きい岩の麓にいて。何か話しかけてくれてたんだけど、聞こえなかったの。その人に突き飛ばされたら、すっごい上空まで吹き飛ばされちゃって。落ちるって思った時に起こしてもらったんだ」
笑いながらナズナに話すと、彼は少し難しい顔をして考え込んでいるようだ。
ただの夢だと言ってくれてもいいのに、何か意味があるんじゃないかと思っているらしい。
「そんなに深く考えないでよ。ただの夢でしょう?」
「いや…お前だからな…」
あたしだからなんだと言うのだろうか、この人は。
特別な力を持ってはいるが、予知夢なんてものは持っているつもりはないし。
そんなものをアレが与えようものなら、サンテブルク教会に行ってヴェスタに会いに行く。
そして殴るわ、確実に。
「ナズナ?」
あたしの視線に、彼は首を横に振った。
夢の内容を考えた所で、結論は出なかったらしい。
「もうそろそろ、出る時間だろう。準備してくる」
そう言って、ナズナは自分の部屋へ入って行った。
一体何なのだ、様子がおかしくないか?
と疑問に思っていたが、あたしも一緒に出るので、自室に行く。
「寒ぅ…」
登校の為にナズナと共に外へ出る。
ダッフルコートにマフラーをしていたが、寒風があたし達を襲った。
シルフの名を冠しているだけあって、この三ヶ月は風が強い。
気温が低くなっている為、更に体温が奪われる結果になる。
「俺の後ろにいればいい」
「なんで護衛対象の後ろにいなきゃいけないのよ。はぁ…風が強くなければ、あったかいはずなのに…」
彼と手を繋いでいるため、そこの部分にも風があたり、手が冷たくなっていった。
あたしが少し愚痴っていると、ナズナが苦笑する。
「俺はこの季節、少し好きだぞ。お前と手を繋いでいても、あまり奇異の目で見られる事がないからな」
「普通の貴族は手を繋ぐんじゃなくて、腕を組むものね」
移動の際、男性は女性をエスコートする為自分の腕に女性の手を乗せて歩くのが、ここの移動形式らしい。
最初ナズナもそうして来たのだが、あたしが距離が近すぎると彼に言った事がきっかけで、この手を繋ぐというスタイルになったのだ。
「流石に、公式の場ではそうするわよ」
「そういえば、来月の卒業式のパーティーはどうする? 出るか?」
卒業式、という単語にあたしはナズナを見る。
こちらの世界でもそういう儀式があるのか、と少し感心してしまったからだ。
「下級生が出てもいいものなの?」
「むしろ、全校生徒が出る式典だぞ。まぁ、出席するか否かは、本人の判断次第だが」
ふーん、とあたしは彼と手を繋ぎながら景色を眺める。
出ない、という判断は出来ないだろうな、と予感めいたものを感じた。
多分、アン達が頼み込んで来るだろう事が予想出来たからだ。
「パーティーって、何をするの?」
「俺も一回しか見てないから、何とも言えんが。卒業証書の授与と、立食パーティー…それと、ダンスも途中で入るな。俺は女子生徒に取り囲まれてたから、あまりそこら辺の記憶がなくて…」
ナズナの表情が鬱屈したものに変わる。
去年の事を思い出して、辟易しているのだろう。
「貴方、パートナー連れていなかったからじゃない? 誰か親衛隊の人に、自分のパートナーになってもらわなかったの?」
「…なってもらったが、それでも群がってきたんだ」
一体誰がついて来ていたのだろうか。
カナリアかな?
あれかこれかと候補を考えていたら、繋いでいた手を引かれ、あたしはナズナの方へ近寄る形になった。
一体なんだと顔を上げると、彼はニッと笑って言う。
「今年はお前が傍にいるから、何も問題は無いな」
「…ちょっとだけ自信ないから、帰ったらダンスの練習付き合ってくれる? 足踏むかもしれないけど」
踏まないだろ、とナズナは言うが、あたしの事過信しすぎだと思うのは、気のせいじゃないはずだ。
信頼してくれるのはありがたい事だけれどね。
◆◆◆
「お姉様っ!」
学校に着いた途端、アンが駆け寄ってくる。
あたしは、先程ナズナと話していた内容だろうなと思いながら、アンを見た。
「おはよう、アン。どうかした?」
「お姉様! 卒業パーティーですけれど、ぜひ出席していただけませんか!?」
はい来たー。
やっぱり予想通りー。
あたしはナズナの方を見上げる。
全校生徒出席だとは聞いたが、それも強制ではないと彼は言っていた。
ならば、ナズナが出なければあたしも出なくていいという事になる。
「シャル、俺は王族だぞ。出ない選択肢があると思うのか?」
「わかってる、少し期待してみただけじゃない。あたしは殿下の護衛ですので? 殿下が出席すると仰るなら、あたしも出ますよ」
それを聞いていた、あたしのファンクラブの人達は喝采を上げた。
それを遠巻きに見ていた一部の人は、苦々しげにあたしを見ていたが。
「少し嫌味っぽくないか? シャル」