レイラさんから教わった内容を思い出してみるが、一度入ったら二度と出られないと言われている魔の森。
なんでそんな所に用があるというのか。
「ナズナ、なんで迷いの森? 精霊の祠と何か関係があるの?」
「行けばわかる」
馬車に乗った時から、ナズナの言葉数が少なくなっていた。
あたしが話しかけても、上の空のような。
いつもなら、あたしと二人きりだからと抱きしめたり、髪をいじって遊んだりしてくるというのに。
あたしは窓の外を見る。
雲一つない快晴で、本当に風がなければ暖かい日差しの中、日向ぼっこが出来るのになぁ、なんて考えてしまう。
その内、迷いの森の入り口に着く。
あたしとナズナは馬車から降りたが、森の入り口に衛兵が立っていた。
「…? なんで人がいるの?」
「迷いの森で自殺しようとする奴や、自分達が食っていけないからと、赤子を捨てにくる馬鹿がいるからだ。ちなみにあれは、トンプソン家の兵士だな。 …シャル、先に言っておく。道順は義母上に教えてもらったが、迷ったらすまん」
馬車で上の空だったのは、そのせいか。
ベアトリーチェ様に教えてもらった道順を思い出していたから、あたしへの返事が疎かになっていたんだ。
「流石に、元素の精霊に招かれているのに、迷うなんて事…」
「精霊は気まぐれだからな。呼んだが、来られないならそれまでと思うかもしれん」
そんな馬鹿な。
ならあの時、案内役を寄越して欲しいとお願いしておけば良かった。
「ナズナ殿下、本日はどのようなご用件で?」
衛兵がナズナに話しかけてくる。
彼が説明している最中、あたしは森の方を見た。
夢で見たような、広大な森。
そこからチラホラと、光の粒が舞っていた。
「何かしら、あれ…」
踊っているように動いている。
あたしはそちらの方に行きかけて、腕を掴まれた。
「シャル、どこに行くんだ?」
「え、どこって…」
光の粒の方を見る。
そこにはもう何もなく、あたしは首を傾げた。
光の粒がいた方向を指差し、彼に説明する。
「あそこに、光ってる何かがいたの。ちょっと気になったから、見に行こうと…」
「別の場所から入ったら、本当に出れなくなるぞ」
ナズナの注意に、あたしはごめんと謝った。
衛兵と話は済んだようで、彼はあたしと手を繋ぎ森の入り口に立つ。
「シャル、絶対手を離すんじゃないぞ」
「え、大袈裟すぎない? 入ったら離れ離れになる呪いでもかけられてるの、ここ?」
入る直前だ、と彼は答えてくれた。
流石迷いの森、その名は伊達ではないと言うことか。
ナズナはあたしと手を繋ぎ、森の入り口を潜る。
途端、魔力の膜の中に入ったような感覚がした。
「うわぁ…」
あたしは感嘆の声を上げる。
外から見た森は陰鬱としていたのだが、目の前に広がる光景は、何というか、とても綺麗だ。
確かに木はあるものの、花畑があたしたちを出迎えてくれる。
「ナズナ…聞いてたイメージと違う…」
「ここからか…確か、道順は…」
ブツブツ呟く彼に、あたしは首を傾げた。
「どうかしたの?」
「迷いの森は、その名の通り迷う森だ。入り口は一つでも、そこからスタートする場所はランダムらしい…せめて、エルフの里近くの湖だったら良かったんだが…」
…それは迷うわね。
パターンが一緒なら、道さえ覚えればすぐなのに。
「なんでそんな構造になってるの、この森」
「エルフの隠れ里があるんだ。大昔、エルフへの大量虐殺があったらしい。亜人なんて認めないという連中がやった事だがな。それからこの広大な森の一角に隠れ住むようになった、と伝えられている。義母上がそこの出身でな、親父がある令嬢から逃げるためにここに来て迷ったところを救った、とかなんとか」
それ、お義父様のお姉さんの話なんじゃ…。
お義父様が、カヅキが来た時にそんな話してたっけ。
逃げたんだ…いや、逃げるよね。
あたしでも流石にないと思うし。
「だからこそ、母上と義母上は仲良くなったって話だったか…。小さい頃に聞かされたから、うろ覚えでな。すまん」
「いや、別に良いけれども。メモとか残せ…ないか。エルフの隠れ里があるんだもんね」
彼はそうだと言い、あたしの手を引いて花畑を突っ切る。
突っ切って木々の間に入ると、また景色が変わった。
当初に抱いていた通りの、陰鬱とした雰囲気があたしの目に飛び込んでくる。
「確か…右に行ってから…」
「雛桔梗、マッピング出来ないの?」
彼女に尋ねるが、ウィンドウで、はいと返ってきた。
【魔力濃度が濃すぎる為に、次元が入り組んでいるようです。マッピングは意味をなさないかと】
「そっか」
なら雛桔梗にも無理だ。
ナズナの記憶力だけが頼みの綱だな。
彼について木の間を通ったり、蝶が舞っている花畑を横目に通り過ぎたり。
体感時間1時間以上かかっているような気がする。
「ナズナ、迷ってる?」
「迷ってない…と思いたい」
ベアトリーチェ様から口頭で説明されたのだろうけど、ナズナは少し自信なさげだ。