だから、と彼は続けた。
「お前は、請われても、絶対に、名付けを、するんじゃない。わかったな? 俺を一人にしないでくれ」
区切り区切り、強調するようにナズナは言う。
あたしは、わかったと彼の手に自分の手を置いた。
「でも、精霊になったらナズナが死ぬまで傍にいられると思うのだけど」
「シャル…それは精霊にならなくても出来る事だろう? それに、精霊は死ぬ事はない。俺は、あまりお前を置いて先に逝きたくはないんだ」
コツンと、ナズナはあたしの額に自分のを合わせ、あたしの何も考えていない発言に、真剣に答えてくれる。
「あまり真剣に考えないで欲しいのだけど。ただの冗談じゃない」
「お前の冗談が、冗談に聞こえないから言ってるんだ」
それは、貴方の受け取り方の問題だと思うんだよなぁ…。
◆◆◆
エルフの隠れ里の門番に話しかけると、案外スムーズに通してくれた。
どうやら、元素の精霊がエルフの里に号令を出していたらしい。
王妃様の文もその後押しになったみたいで、あたしとナズナは、すんなりエルフの里に足を踏み入れた。
「なんか、イメージ通り」
太い木の枝に、色んな家がくっついている。
所謂ツリーハウスというものだ。
そして、エルフの人達の耳は尖っている。
昔読んだ小説の中みたいだと、感想を抱いた。
「結構見られてるな…」
「それはそうでしょ。部外者が村に入り込んでいるんだから」
なんでもない風を装って歩いてはいるが、あたし達に視線が集中しているのに気が付く。
目線を合わせようともしないし、こちらなど最初からいなかったかのように振る舞っている。
それでも見られている感覚に、あたしは寒気に似たモノを感じてしまった。
「シャル、気にするな。別に交流を図りに来たわけではないだろう?」
「それはそうだけど、こうも見られてると気分が悪いわ。言いたい事があるなら言えば良いのに」
歴史から、人間は自分達を迫害した存在だと思っているのはわかる。
こちらが加害者だという事も。
だから、事を荒げるつもりはない。
なんで無視するんだと怒る事もない。
ただ、何か言いたい事があるなら、言ってもらわなければわからない。
ただそれだけだ。
「確か、こっち…だったか?」
ナズナが村の奥に行こうとする。
それを、彼の服を掴む事で止めた。
「多分あっちだと思う。光の精霊が手招きしてる」
「…見えるのか?」
この村に入った時から、姿が見えるようになっていた。
多少だが、声も聞こえる。
クスクス笑いながら、あたし達について言っていた。
〈蒼髪の子、人と違うね〉
〈面白い魔力の匂いがする〉
〈隣の子は、精霊の愛し子の子だね〉
〈次の愛し子はあの子かな〉
〈きっとそう〉
次々とそんな事を言っているが、あたしは若干無視し、手招きされた方へ歩み出す。
木々を抜けた先、開けた場所に出た。
窪地の真ん中に、洞窟がぽっかり穴を開けている。
夢で見た光景、そのままだった。
「…シャル?」
ナズナが怪訝そうな顔で、あたしの顔を覗き込む。
あたしは、彼の服を掴んだ。
「ナズナ、ここだ。あたしが夢で見た場所、ここだよ」
「……やはり、予知夢か何か習得したんじゃないか? シャル」
それだけはごめん被りたい。
未来予知をして何が楽しいというのか。
確かに、先が予測出来ていれば回避もしやすいだろう。
だが、何度見ても覆せない未来が見えたとしたら。
あたしは、耐えられる自信がない。
「行こう、ナズナ。元素の精霊が、なんであたしを呼んだのか聞きたいし」
「そうだな」
あたし達は滑り降りるように窪地へ足を踏み入れる。
ちなみにあたしの今の服装は、黒のジャケットに黒と薄紫が合わさったワンピースとでも言うのだろうか。
スカートの部分にフリルがあしらわれているのだが、何分スカートが少し短い。
膝丈より上とか、戦闘を行ったら中身が見えそうである。
そして、黒い皮のブーツ付きだ。
太めのヒールも付いているものだが、これあたしに似合うと思ったのかしら。
いや、ナズナに聞いたところで、似合うとしか返ってこないのは目に見えている。
ちなみに選んだのはテスタロッサのメイド達ではなく、親衛隊の人達だ。
似合うと思って、と何着か寄越されたうちの一着である。
ジャケットも少し大きいのか、袖の部分が何もしていないのに手の甲まであった。
ナズナ殿下も気にいると思うよ、とはカナリアの言だ。
そんな気遣い、いらないんだけど。
窪地に降り立ち、あたしは思い出した事に対し盛大にため息をつく。
「どうした? シャル」
「何でも…いや、あるか。ナズナ、この服どう思う?」
ナズナはあたしを上から下へと見た後、ふむ、と首を傾げた。
「いつものシャルの服にしては、結構ワイルド系じゃないか? お前、クラシック系が好きだろう?」
「あたしの好み完全把握してるっ!! もう! 好きぃっ!!!」
結構な大声で言ってしまったものだから、ナズナが驚いている。
ごめんって…テンション上がりすぎたよ。
あたしは咳払いをし、洞窟を見る。
夢の通りなら、あの場所も確かにあるはずだ。