洞窟の中に入る前に、中の酸素と魔力の濃度を雛桔梗に計ってもらう。
あたしが前にいた世界では、二酸化炭素が洞窟内に充満し、中に入ったら即死するというものがあった。
あたしは平気かもしれないが、ナズナは絶対死ぬ。
死ぬとわかっているのに、あたしが行くと言ったら着いてきそうなのだ。
そんな危ない場所に、彼を連れて行くわけにはいかない。
というので、雛桔梗にお願いしたのだ。
【問題ありません、我が主。ナズナ様も入れます】
「大丈夫だって、ナズナ。行こっか」
あたしとナズナは、祠に足を踏み入れる。
途端、洞窟内だというのに暴風に晒された。
「くっ…!!」
「シャル!」
ナズナがあたしを抱きしめる。
風であたしが吹き飛ばされるとでも思ったんだろう。
実際立っているのもやっとだったので、助かった。
「ちょっと! 手荒い歓迎すぎない?! いきなり何よ?!」
〈待ちくたびれから、少し遊ぼうよー〉
遠くからシルフの声がする。
確かに呼び出しを受けてから一週間は経っていた。
だが、精霊と人との感覚は大きな差があると思っている。
人にとっては長い時間だと思われるが、精霊にとっては一瞬の事だろうに。
「何が待ちくたびれたって言うのよ?! どうせ退屈だからでしょう?! あぁ、もう!! いい加減風を止めなさいよ?!」
あまりの暴風に声が大きくなるが、シルフはクスクス笑うだけで止める様子もない。
そっちがその気なら、こっちだって考えがある。
あたしは自分の手を噛み、血を滲ませた。
「シャル! 何を…!」
「黙ってて。我、希う。我が血と引き換えに、彼の者を止めよ。来い、エアリアル!!」
頭をよぎった事を実行してみる。
それは巧くいったようで、あたしの足元に魔法陣が展開された。
そして頭上に巨大な鳥のようなものが現れる。
名付けるなら、精霊召喚というものだろうか。
エアリアルはこの暴風の中、シルフを見定めたようで彼に突っ込んで行った。
〈うわ、やめろよ! こっち来るな! つつくな!!〉
あ、そこにいるんだ。
あたしの血を媒介にしている為か言う事を聞いてくれるようで、エアリアルはシルフを突きまくっているらしく、風の勢いが段々と弱まってくる。
治った後に見たものは、エアリアルの足に両腕を取られ、髪をその嘴で引っ張られているシルフの姿だった。
「…で、なんでこんな事したのよ」
涙目になっているシルフに、あたしは尋ねる。
多分鬼の形相だったのだろう、シルフの顔が恐怖に引き攣った。
〈げ、元素の精霊が出迎えてやれって言ったから…〉
「だからってこんな出迎え方はないでしょう?!」
怒鳴りつけると、ビクリと彼の肩が跳ね上がる。
まぁまぁ、とナズナが間に入ってきた。
「シルフの思考回路は、子供と一緒だと習った事がある。彼なりの歓迎だろう。ここは矛を収めたらどうだ、シャル? 子供の悪戯に目くじらを立てても仕方ないだろう?」
「…そうね。大人げなかった…って言うと思った? 悪い事をしたらそれ相応の罰を与えなければならない、ってターニャも小さい頃のカヅキに言っていたわ」
悪戯で、長谷川の物を壊したカヅキに彼女はそう言い、彼のお尻を約100発くらい叩いていた記憶がある。
お嬢様もこうなりたくなければ、善悪の区別はつけた方が宜しいですよ、と脅されもしたのだ。
小さいし、思考回路が幼いからと、あたしは容赦するつもりはない。
「大精霊だからなんだというのよ。あぁ、自分が世界中の風を止めるとかなんとか抜かすなら、貴方を消してエアリアルを据えるからそのつもりで」
〈お前ならそれ出来そうだから、反抗はしないよぅ…〉
どうやら反省しているようで、しょんぼりと肩を落としている。
ナズナも苦笑しながらあたしを見つめていた。
「さて、償いとして元素の精霊の元に案内してもらいましょうか? あと、貴方と同じ思考回路をしている精霊は、もういないわね?」
〈イフリートが、腕試ししたいって…〉
もう一人いたか…。
元素の精霊には悪いが、ここら一帯吹き飛ばしても構わないだろうか?
「シャル、物騒な事を考えるんじゃない」
「まだ何も言ってないでしょう? というか、あたしの思考を読まないでよ。読心術の心得でもあったの、貴方?」
ジト目でナズナを睨みつけると、彼は肩を竦めた。
何を馬鹿な事を、といっている感じがして、彼の腕を軽く叩く。
「痛っ! あのなぁ…読心術を使えるならな? お前の思考を読んで、告白せずに外堀から埋めてるんだ。お前が逃げられないようにな。そうじゃなかったから、俺はお前に告白したんだろうが」
「ご、ごめん。ごめんだから、肩掴んで寄らないで。ナズナの顔も好きだから、近寄られるとその…照れる…」
顔を背けてそう言うと、ナズナは盛大なため息をついた。
思考回路が残念でごめんなさい…。
「お前の顔だって、美しいんだぞ。悟られないようにしてはいるが、俺だってお前の顔も好きなんだからな」
〈イチャつくんなら、僕帰って良い?〉