ノームと呼ばれた老人のような精霊はため息をついたかと思ったら、岩石を呼び出し、そこへイフリートを閉じ込めた。
〈お嬢さん、この岩を凍らせてもらえんかね〉
ノームがあたしに話しかけてくる。
凍らせるのは良いが、どれくらいの規模で凍らせれば良いのか分からず、あたしは尋ねてしまう。
「あの、どのくらいで?」
〈永久凍土くらいで構わん。こいつなら、数年で出て来れるだろうよ〉
永久凍土って…それを数年って…イフリートの熱量ってどうなっているのかしら?
言われた通り、あたしは岩石を凍らせ始める。
それに加えて、ノームは土を呼び出し岩石に纏わせた。
それも相まって、一つの大きな塊が出来上がる。
「……言葉が出ない経験などした事がないが、こういう状況の事を言うんだろうな…」
ナズナも唖然として、その塊を眺めていた。
それをウンディーネがそこら辺に投げ捨てる。
扱いが雑すぎると思うのだが、彼女やノーム、果てはシルフまで気にしていないようだったので、きっと大精霊とはこういうモノなのだろうと、自分を納得させた。
〈元素の精霊が待っていますよ〉
あたし達はウンディーネ達に案内されて、元素の精霊が待つという場所へ歩を進める事にした。
◆◆◆
一番最奥。
あたしが夢で見た場所。
大きな岩が真ん中に鎮座し、地底湖と言える大きな湖が周りにある。
そこへ続く道は一本だけ。
「シャル、ここか?」
ナズナの言葉に頷く。
遠目からだが、岩の麓に誰かいるように見えた。
少し薄暗いので、あたしは光魔法を唱える。
「
太陽みたいな光が、頭上から注いだ。
大精霊の三人も少し驚いたようで頭上を見ている。
「ナズナは上見ちゃダメだからね。目が死ぬ」
「こんな眩しいのに、見る馬鹿がいるのか?」
そこに見ている大精霊がいるから言ってるんですけど。
あたしは一本道を大きな岩の方へと歩いて行く。
その後にナズナも続こうとしたが、大精霊達に止められた。
「何を…!」
〈元素の精霊が用があるのは、あの娘だけです。人の子よ、元素の精霊は、決して手荒な真似は致しません。だから、ここで大人しく待つ事を提案します〉
ウンディーネが穏やかな声で、ナズナにそう言う。
他の二人も、うんうんと頷いてナズナの進行を邪魔していた。
「シャル!」
「ウンディーネ、ノーム、シルフ。彼を危険から守ると誓っていただけますか? そうでなければ、あたしは引き返します」
あたしは三人に向かって告げる。
あたしの優先は常にナズナだ。
彼に危険が及ぶというのなら、あたしはこの場から彼を連れて帰る。
〈約束は守りましょう、人の子よ。貴女が帰るまで、彼の身の安全はお約束します〉
「お願いします。ナズナ、良い子で待っててね」
子供扱いするな、と彼は少し不貞腐れたようだ。
あたしと一緒に行けないのが、不満だとでも言うように。
あたしはそれに苦笑を返し、歩を進めた。
大きな岩の麓に辿り着くと、夢で見た女性が立ち上がってこちらを見つめている。
彼女が元素の精霊なのだろう。
「あの…」
話しかけようとしたら、いきなり彼女が走り寄り、あたしの肩を掴んだ。
驚きで眼を見張ると、元素の精霊は心配そうな表情で何かを言う。
しかし夢の通り、彼女の言葉が聞こえない。
「あの、貴女の声が聞こえないんです。ごめんなさい」
あたしの言葉は届いているようで、元素の精霊はしょんぼりしてしまった。
少しその姿に憐憫を抱いてしまい、あたしは雛桔梗に話しかける。
「雛桔梗、どうにかならないかしら…」
【あまりお勧めはしませんが、精神感応を使えば或いは聞こえる可能性はあるかと思います】
お勧めしない理由を尋ねると、精神感応とは念話の事ではあるが人同士と違い、精霊とそれをする事によりそちらの方に意識を持っていかれる可能性がある事。
最悪、元素の精霊の中にあたしの意識が取り込まれるらしい。
【意識を強く保つ事をお勧めします】
「……手荒な真似はされないけど、危険な事には変わりないじゃない…」
あたしは軽くため息をつき、ナズナの方を見る。
遠くて表情が分からないが、多分心配そうな顔をしているだろう。
「…まぁ、あたしが選んだ事だから。ナズナには悪いけど、ね」
あたしは元素の精霊の頬を両手で包み、額を合わせた。
そして目を閉じて、彼女の意識に接触する。
自分の意識が遠のきかけるが、口の端を噛む事で何とか耐え続けた。
〈人の子よ、何もそこまでしなくても…〉
元素の精霊の声が聞こえる。
とても凛とした、しかしあたしを心配している声。
「あたしに何か伝えたかったから、あたしを呼んだんでしょう? それに貴女の声、とても綺麗じゃないの」
あたしは目を開け、ニコリと彼女に笑いかける。
彼女は目を見張った後、苦笑した。
〈そんな事、生まれてこの方言われた事はないな。人の子よ、私がお前を呼んだのは、お前が心配だったからだ。お前が無意識に私の所へ来た時、この娘はいずれ力の使い所を間違えて、この星を壊すだろうという確信があった。だから、私はお前を呼んだ。お前の力、私が調整しよう〉