え、カヅキにリミッター付けてもらっているのに、そんな事になりかねないの?
嘘でしょ?
あたしの思考を読んだのか、元素の精霊は呆れた目であたしを見る。
〈人の子が作った装置に、何の意味がある。そんなもの、お前の感情が最高潮に達した時には意味等なさない。大丈夫だ。お前の私生活など覗かない。人間の営みには興味があるが、四大に怒られたくはないからな〉
怒られる事、あるんだ。
一番偉いはずだと思っているんだけど、貴女の事。
全く声に出さずに会話をしているものだから、ナズナがソワソワしているのが、気配でわかる。
本当に心配性だな、あの人は。
〈そろそろ返さねば、あの人の子がこちらにやって来そうだな。娘、私に名前をつけてくれ。それで、私はお前と同調出来る〉
「ナズナから、精霊に名付けを行うと死ぬみたいな事言われたんだけど」
そう言ったあたしに、元素の精霊は少しポカンとした後笑い出した。
〈それは、魔力量の少ない者の話だ。精霊の方が人より魔力の質も量も多い。だから、名付けを行うと同調した後魔力を吸われて死ぬんだ。だが、お前は問題ない。今まで生きてきた中で、見た事もないような魔力の量と質を保っているのだからな〉
彼女がそう言うなら、そうなのかもしれないが。
本当かと疑ってしまう。
〈妖精と違って、私達は嘘はつかない。だから娘、妖精に会った時は気を付けろ。この森にも潜んでいたりするからな。あの人の子を取られかねないぞ〉
「ご忠告どうも…」
彼女の言葉を信用する事にしよう。
あたしはそう決めて、彼女を見つめた。
金色の髪、ピンクに近い赤色の瞳。
その瞳の中には、星が煌めいているような光が見える。
それを見つめていると、不思議と心が落ち着いてくるような気がした。
「…ミラ。貴女の名前は、ミラ」
不思議なもの、という意味をもつ星。
くじら座の胸辺りに輝く星。
彼女の不思議な雰囲気と、瞳に輝く星からそう名前をつける。
〈ミラ…うん、良い名だ。人の子よ〉
「人の子じゃなく、シャルロット。仲のいい人達は、あたしの事をシャルって呼ぶわ」
元素の精霊ことミラは、あたしをキョトンと見ると、フワッと花が咲くような笑顔を向けてくれた。
〈シャル、いつでも来るといい。エルフには歓迎するよう言っておく〉
「シルフみたいな手荒い歓迎は無しにして頂戴ね」
え、という顔をミラはする。
聞いていなかったようで、あたしはここに来るまでの経緯を説明した。
その後、ミラはシルフを怒り、その余波でナズナが気絶する羽目になったのは、言うまでもない事だろう。
◆◆◆
「今日は散々だった…」
帰りの馬車の中で重いため息をつきながら、ナズナが呟いた。
目を覚ましたナズナと共に精霊の祠を後にし、エルフの里を抜けてまた迷いの森へと入る。
今度は帰り道なので、逆の順番を行けば良かっただけなのだが、運悪く妖精に見つかった。
ナズナの見目が麗しいのはわかっていた事だが、こう、女性に絡まれている彼を見ていると、女性に殺意が浮かぶというか。
妖精としては、ナズナを誘惑してその精を貰いたいのだろうが、彼としては鬱陶しいだけだったようで、閉口している。
「そこの妖精ども、存在ごと消されたくなかったら私の夫から離れろ。それとも、その命惜しくないと言うか?」
あたしの迫力に、妖精達がナズナから離れて散り散りに逃げていった。
彼も固まってしまったのは、まぁ、仕方ないというか。
少しは慣れてほしいものだが。
「ナズナ、別に貴方に怒ったわけではないのに。そんなに怖い?」
「怖い。俺の勝手なイメージだが、いつものシャルは芯が強くて愛らしくて美しく、表情がコロコロ変わって可愛いと思っている。だが、あのシャルはとても冷たい。氷のように感じる。何者をも寄せ付けない、誰も信用も信頼もしないと言っているようだ。そんなシャルは…見たくはないな」
そんな評価になるのか、あれ。
あながち間違ってはいないけど。
あたしは総帥になる予定だった。
上に立つという事は、それだけ責任も重い。
隙を見せたら足元を掬われる。
即ち、傘下の会社ごと潰される。
何万人という人が路頭に迷う事になる。
そうさせるわけにはいかない、隙を見せてはいけない。
だから誰も信用も信頼もするな。
それがお父様の口癖だった。
「貴方に向ける事はない…と思いたいけど」
「向けないと言い切ってもらいたいんだが…」
状況によっては、向ける可能性も否めないので断言出来ない。
あたしは曖昧に笑うが、ナズナがあたしの太ももに顔を埋めてきた。
「な、何やってるの、貴方は」
「シャルがやらないって言うまでこのままだからな」
子供なのかしら、この人は。
仕方ないな、と言葉を紡がず苦笑しながら彼の頭を撫でた。
「大好きだよ、ナズナ」
「…俺も」
城に着くまで、あたしは彼の頭を撫で続けた。
まぁ、城に着いて早々、騎士の人に引き剥がされ連れて行かれてしまったが。
政務が滞っているらしい。
頑張れ、ナズナ。