「ユキヤ殿下、流石にそれはないと思います。ナズナ殿下がどれだけ貴方の事を心配しているか…」
「シャルロットにも、兄さんにも関係のない話です。大体、僕らの問題なのに何故兄さん達を呼んだのですか。証人にでもするおつもりでしたか? トンプソン嬢」
嘲るような、ユキヤ君の表情にあたしの中の何かが切れた。
その言葉と態度に、あたしは盛大にため息をつく。
トンプソン嬢とユキヤ君、それにオリヴィエさんの目線がこちらに向いた。
ナズナだけは何かを察したようで、少し慌て出す。
「シャル、落ち着け。な?」
「私は落ち着いている。彼奴の言い分に反吐が出そうだったのでな。ユキヤ貴様、トンプソン嬢の提案が最善手だとわかっているはずだろう? 感情論で話すでない。耳障りだ」
あたしの態度が変わった事に、ナズナ以外が驚いていた。
ナズナだけは、また頭が痛そうに押さえている。
「シャルロット、何を…」
「黙れ。貴様は自分の立場というものを全く理解しておらん。一時ならまだしも、自分の不貞を正当化しようとするな。不愉快だ。貴様の茶番なんぞ、見てて気持ちの良い物ではない」
腕組みし、足も組み、あたしは偉そうにユキヤ君を見た。
最初唖然としていた彼だったが、キッとあたしを睨んでくる。
「不貞の正当化なんて、してませんが」
「しているではないか。トンプソン嬢に謝罪もせず、不遜な態度を取り続けるとは…ははっ! オリヴィエ。貴様、とんでもない男と良く番おうと思ったな? 自分が悪くても、この男は謝罪すらせんぞ。私はごめんだな。自分の非を認めようともせん男なんぞ、こちらから願い下げだ」
俺はちゃんとしているだろうか、とナズナが横で悩み始めたが、貴方はちゃんとしてるから大丈夫よ。
じゃなかったら、速攻で捨ててる。
「ユキヤ様は、その…」
「貴様だけに優しい、なんて戯言を抜かすんじゃないぞ。オリヴィエ。これがこの男の本性だ。あぁ、ユキヤ。貴様が考えている事を当ててやろうか? 『なら、彼女に賠償金でも払って婚約破棄をした後、自分とオリヴィエは国外追放でも何でもすればいい』とな。そんな甘えた事が許される立場だと思っているなら、とんだ愚者だな貴様は」
あたしが言った事は当たっていたようで、ユキヤ君は口を噤んでいた。
「貴様の為に動かせる金なんぞ、あると思っているのか? だとしたら、その頭には砂糖菓子でも詰まっているとしか思えんな。中身が全くないではないか。それでもナズナの弟か?」
「王族に対しての侮辱罪に当たりますよ、シャルロット」
ユキヤ君はあたしにそう言うが、それを鼻で笑って返す。
「人の苦言も聞き入れられぬような愚者が、王族を名乗るでない。それに、私は将来ナズナの妻となり王妃となる。今の段階では貴様より下だが、いずれは上だ。何が侮辱か、痴れ者が」
「シャル、落ち着こう。一回落ち着こう、な?」
ナズナが横から言ってくるが、あたしはため息をついて彼を見た。
「先程から落ち着いていると言っている。私のこの態度が恐ろしいのはわかるが、あまり口出しをすると矛先が貴様にも向くぞ、ナズナ」
「……ユキヤ、助けられそうにない。この状態のシャルは、俺にも止められん。すまん」
何を謝っているのかしら、この人は。
後で問い詰める事にしよう。
「…………」
ユキヤ君はまたダンマリを決めたようで、こちらから顔を背けている。
トンプソン嬢はユキヤ君を見据えているし、オリヴィエさんもユキヤ君の方を見ていた。
「私にここまで言われて何も反論できぬか。トンプソン嬢が提案したモノも受け付けぬというなら、そうだな…代案を出せ、ユキヤ。この場にいる者全てが納得できるものを。3分だけ時間をやろう。私からの慈悲だ。それを過ぎれば、オリヴィエに責任を取らせる。トンプソン嬢、後で綺麗にする故、ここで首を跳ねても構わぬな?」
「シャルロット! それを許すと思っているのですか!!」
敵意を持った目で、ユキヤ君はあたしを睨みつける。
いつものあたしなら怯んでしまっている所だが、今は無慈悲な総帥モードだ。
いくらでも睨めばいい。
「許す許さないの問題ではない。貴様の責任を果たせと言っている。それを果たしてからそんな妄言を吐くんだな、ユキヤ。あぁ、私を打ち倒そうとか考えるなよ? 私の実力は、親衛隊の入隊試験の時に見ているはずだ。私は、貴様の後ろにいるオリヴィエよりも強い。貴様程度の軟弱者が、私に勝てると思うなど烏滸がましいにも程があるぞ」
そう言い、あたしは指を鳴らして空間投影で空中にタイマーを映し出す。
「さて、スタートだ」
ピッピッ、と機械音が流れ始めた。
音と共に、数字が減っていく。
あたしは優雅に紅茶を飲み始めた。
「あ、あの、私…」
「貴様の意見なんぞ聞いてはおらん、黙ってろ」
オリヴィエさんが何かを言いかけたが、あたしはそれに対し、そう言う。
トンプソン嬢が何かを考え込み始め、ユキヤ君も眉を寄せて必死に考えているようだった。