「殿下の御子を身籠もっている方を、処刑出来るわけないじゃないですか…。ダンスとか動く系のレッスンは無しにします。ですが、知識は詰め込んで頂きますので、そのおつもりで。御子も暫くは隠してください。世間には連れ子だとでも言ってください…。別に、私ユキヤ殿下と婚姻を交わしたかったわけではありませんが、これは大分複雑です…」
「本当に弟がすまない…」
ユキヤ君を掴んだまま、ナズナが頭を下げる。
お人形のようなトンプソン嬢の顔が、呆れと憔悴しきった表情で埋め尽くされていた。
◆◆◆
とりあえず、オリヴィエさんはトンプソン嬢に預けて、あたし達は一回城に帰ってくる。
お産とかも向こうが受け持ってくれるみたいで、子供が産まれる連絡だけはしてくれるらしい。
それまでは接触禁止だと、ユキヤ君は言い渡されていた。
「…親父に一回報告してくる。ユキヤ、お前も来い。シャル、そこで待っててくれ」
陛下の執務室前、ユキヤ君の襟首を掴んでナズナは部屋に入っていく。
それを見送って、あたしは壁に背を預けた。
子供ができるだけでも、大騒動になるのか…。
本当にあの時、ナズナが耐えてくれて良かった…。
いや、むしろ感謝するのはカヅキにか。
ダメって言ってくれてありがとう…。
あたしは思わずため息をついてしまう。
「どうかしたのですか、シャルロット。ナズナ兄様が怒っていたようですが」
「シグルド殿下。いえ…詳細はナズナ殿下に聞いていただければと。私は殿下に付き従っていただけですので」
シグルド・シオン・ブリリアント。
ナズナに友好的なブリュンヒルデ家の長男で、ナズナの弟である。
あたしは彼に対して頭を下げるが、シグルド様はあたしの頭を撫でてきた。
「休日なのに、兄様に付き従っていたのですか。ご苦労様です、シャルロット。いつ見ても、君の髪はとても綺麗な蒼色ですね。僕は君の一個下ですけど、ナズナ兄様が少し羨ましくなる時があります。たまに、君が僕の専属だったらいいなぁ、なんて想像する事もあるんですよ」
「はぁ…。ありがとうございます…?」
何だろ、これ。
いつもながらに、褒められてるのか口説かれてるのかわからない人だな。
頭撫でられてるから、顔上げられないし。
「…まぁ、親父がそれでいいなら良いが…。ユキヤ、お前本当に……シグルド? シャルに何をしている」
話し合いが終わったようで、ナズナが陛下の執務室から出てくる。
あたしの頭を撫でているシグルド様と、撫でられているあたしという構図に、ナズナは疑問を抱いたようだ。
「あぁ、ナズナ兄様、ユキヤ兄様。ご機嫌よう。いえ、シャルロットの蒼い髪は、いつ見ても綺麗だなと思って頭を撫でていました」
「そうか、離れろ」
シグルド様の手が離れた瞬間、あたしはナズナから抱き上げられる。
「ちょ、殿下?!」
「俺は寮に帰る。ユキヤ、自分がやった事を少しは反省しろドアホ。じゃあな」
少しの浮遊感と共に、景色が城から寮の部屋に変わった。
ぽすん、とソファーに降ろされ、ナズナはあたしの脚に頭を乗せる。
「…疲れた」
「そうだね。あたしも驚いた…。オリヴィエさん、殺さなくてよかった…」
流石に子供の分の責は負いたくない。
ナズナはあたしを見上げ、ポツリと呟いた。
「シャルは、子供は何人くらい考えている?」
「…貴方、ユキヤ君が羨ましいって思ったんじゃないでしょうね」
思ってない、と少し拗ねたようにナズナは言うが、立場も何もなかったら、既に子供ができる行為をあたし達はしている事だろう。
「うーん…そうだなぁ…。貴方との子供なら何人でも欲しいとは思う。きっと、貴方に似て男の子は格好良くなるだろうし、女の子は可愛くなるでしょうね」
「その場合、女はシャルに似てるんだろうな。子供は授かり物だと、義母上は言っていたが…いつか、俺達の所にも来てくれたらいいな」
ナズナの頭を撫でながら質問に答えるが、この人は何を言っているのだろうか。
「貴方、次期国王って自覚薄れてきてない? あたし、貴方の妻にはなるけど、王妃にもなる予定なの。世継ぎ作らなきゃいけないんだから、来てくれたらいいじゃないの。絶対作って産まなきゃいけないの。わかる? あたしが出来ない場合もあるんだからね?」
「その時は、別の奴が王になるさ。選定は見定めるつもりだが、そこまでお前が気負う必要はないんだ。シャル。二人なら二人で良いじゃないか。子供は可愛いとは思うが、お前の瞳に俺がずっと映っていればいいとさえ思っている」
ナズナが体を起こし、あたしの額に自分のをくっつける。
優しく微笑む彼へ、あたしも微笑んだ。
「もう…本当に、あたしの事を愛しているのね。あなた」
「あぁ。愛しているよ、シャルロット。この世の誰よりも」
本当なら唇にキスをしたい所なのだけど、ターニャに禁止されているので、お互いの頬にキスをした。
◆◆◆
「…さて、卒業式で着るドレス、どうしようかしらね?」
久々に夕飯を作り、食卓に並べていく。