「お前が綺麗過ぎるからだ。今日は絶対、俺から離れるんじゃないぞ、シャル。他の男共に、シャルを触らせるものか」
ダンスの時はどうするのだろうか。
あれ、未婚の男女だと一回踊ったら別の人と踊らなければならないし。
二回は婚約者、三回は夫婦だったっけ。
「ナズナ、ダンスの時は…」
「抜ける。別の部屋で俺と踊ってくれ、シャルロット」
ふわっと、あたしに笑いかけるナズナの顔に見惚れてしまう。
そして思わず、聞いてしまった。
「それは、一回だけ?」
「何回でも。お前の気が済むまで。言っただろう? 俺の妃はお前だけだって。他の女と踊りはしないさ」
好き、大好き。
愛しさが溢れ出して、零れ落ちてしまいそう。
呟くように、溢れた言葉を口にした。
「ナズナ…好き…」
「知ってる。俺も愛してるよ、シャルロット」
あたしの頬に、彼はキスを落としてくる。
そして迎えた卒業式。
卒業生は壇上にいる校長の元へ行き、校長からお言葉を貰って、壇上から降りていく。
それを延々と、卒業生の最後の一人が上がるまで繰り返しているのを眺めながら、立食のオードブルを皿に取り、食べる。
コルセットを付けていないのでいくらでも食べられそうではあるが、ナズナと気の済むまで踊れると考えたら、五分くらいでやめておいた方がいいだろう。
女子生徒の事を考えられているのか、食材は全て一口大の大きさに切られており、男子生徒に物足りないだろうな、なんて考えてしまった。
「あー…食べてる姿が可愛い…今日の格好が綺麗過ぎて、お前に溺れそうだ…」
「あの、食べてる最中に口説かないでもらっていい? 少し気まずいんだけど」
隣に立っていたナズナが、あたしを見ながら呟く。
お皿を置き、彼をジト目で見た。
だが、彼は無意識であたしを口説いていたようで、ハッとなった後自分の口を押さえる。
「…すまん…思ってた事が口から出たようだ…」
照れて目を逸らしてしまった彼に、しょうがないなと苦笑した。
最後の一人が壇上を降りたようで、少しの歓談の後にダンスに入るだろうと、あたしはナズナと目配せして、会場を出ようとする。
しかし、卒業生、主に男子生徒があたしの元に殺到した。
「シャルロットさん! 罵ってください!」
「僕と婚約してください!」
「お付き合いしてください!」
「踏んでください!」
あたしは唖然として、思わずナズナを見てしまう。
彼は物凄く眉が寄って、イライラしているのがすぐわかるような表情だった。
「ーーっ! 散れっ!! 誰だ、シャルに告白した馬鹿は!! シャルは俺のだ! 誰にも渡さん!!」
「ちょっと、ナズナ…。おめでたい席で怒鳴らないでちょうだい」
彼の腕にわざと胸を当てる。
ピタッと動きが止まったので、あたしは男子生徒に告げた。
「ごめんなさい。これから殿下とデートですの。卒業おめでとうございます、先輩方。では、失礼」
そう言い、ナズナの腕を引っ張って行く。
会場から十二分に離れた、学校内の少し寂れた庭に辿り着いた。
「もう…嫉妬深いのは嬉しいのだけど、流石に感情が出過ぎだわ。もっと冷静になって」
「…すまん」
ベンチに腰掛け、ナズナは少し自己嫌悪に陥っているようだ。
あたしの事になると、本当にすぐ頭に血が上るのだから。
あたしもなんだけど。
会場の方から音楽が聞こえてき始める。
この旋律はワルツだ。
「ねぇ、あなた。さっきの事は忘れて、私と踊ってくださらない? 妻のお願い、聞いてくれる?」
ナズナの耳元へ囁き、彼の顔を見ながらあたしは首を少し傾ける。
そんな彼は、あたしを見て苦笑した。
「…あぁ。いくらでも、お前の願いを叶えよう」
ワルツのリズムで、あたし達は踊る。
街灯の光しかないし、何ならフローリングではなく石畳の上だが。
ナズナとのダンスは、とても楽しい時間だった。
「シャル、もう少し我儘を言っていいんだぞ。お前は自分に自信がなさすぎる。お前の我儘くらい、いくらでも叶えてやる。その甲斐性は持ち合わせているつもりだ」
「これ以上の我儘があるのかしら? 貴方と気の済むまで踊っていたいって。それに、あたしを大切にしてくれているのがわかっているのに、これ以上は望めないわ。貴方の負担になってしまうもの」
音楽が聞こえなくなっても、あたし達は踊り続ける。
ナズナが少し困ったように笑った。
「シャルロット。もっと望んでいいんだ。俺は、お前に請われると、嬉しい。何でも叶えてやりたくなる。それこそ、俺の命を捧げてもいいくらいだ」
その言葉に、あたしはステップを踏むのをやめる。
そして、ナズナに言った。
「捧げるなんて言わないで。あたしは、貴方と生きていきたいの。貴方が寿命で死ぬまで、ずっと一緒にいたい」
「わかってるよ、シャルロット」
ナズナはあたしを抱きしめてくれる。
少し泣きそうになってたの、バレてたかな。
「絶対に死んじゃ嫌よ。貴方が死んだら、後を追って文句言ってやるんだから」
「それは怖いな。俺もお前には死んでほしくはない。だから、自分を大事にしてくれシャル」
お互いの額を合わせ、手を絡めて目を閉じる。
星空だけが、あたし達を見ていた。