日本でいう所の4月、ノーム1の月。
あたしとナズナは高等部三年生になった。
新入生を迎える入学式を終え、特に授業も無い事から彼と一緒に寮への帰路についている。
「そういえば、シャル。お前、誕生日いつなんだ?」
ナズナがフッと何かを思い出したように聞いてきたので、あたしも彼に聞き返す。
「いきなり何? そしてそれ、あたしが聞きたいくらいなんだけど。王族なのに誕生日パーティーすらないって、どういう事?」
普通、お祝いはするのではないだろうか?
王族、しかも王太子なら尚更。
あたしがこちらに来てから、一回もそんな場面に遭遇した事が無い。
むしろ、誕生日という概念自体ないのではないかと疑ってしまう程に。
「母上が生きてる時はしてくれていたが、今は全く無いな…。俺の誕生日は、ノーム1の月の8日だが?」
「それが何か? みたいな顔をしないでちょうだい。聞いてきたくせに、自分のは過ぎてるじゃないの。なんで言わないの貴方は」
聞かれなかったから、と答える彼の腕を軽く叩く。
今日はノーム1の月12日。
彼の誕生日から4日も過ぎているとは。
プレゼント、何にしたら良いのやら…。
うんうん悩むあたしの横で、ナズナは顔を覗き込んでくる。
「いや、俺の事は良いんだ。シャルは?」
「あたしにとっては良くないんだけど……ノーム1の月、5日」
人の事言えないだろう、とナズナに言われ、確かにそうなんだけどそうじゃなくてと自分の事を棚上げした。
「何か欲しいものあるか?」
「うーん…逆に聞きたいんだけど、貴方何が欲しいの?」
そう聞くと、ナズナはあたしの腰に手を回し、抱き寄せて耳元で囁く。
「お前が欲しい」
「…っ!! だから、そういうのやめてって、何度も言ってるでしょ?! 顔と声が良すぎるんだってばっ!! もー……あげられるんなら、とっくにあげてるんだってばぁ…」
あたしは顔を真っ赤にし、それを見られたくなくて手で覆う。
そんなあたしを見て、ナズナはクックッと笑い出した。
「冗談だ、本当に可愛いな俺の妃は」
「意地悪…」
彼は腰からあたしの肩に手を回し、頭にキスを落としてくる。
その動作も格好良いが、あたし以外にやったら殺そうと思った。
やるはずもないんだけど。
ナズナはあたしを愛してくれているから。
「しかし、誕生日が近いとは。少し驚きだ」
「あたしも。すごい偶然」
きっと運命だな、なんて彼は言う。
あたしとしては、最高神が手を回したんじゃないかと疑うレベルだ。
あのヴェスタには出来ない所業な気がするから。
「シャル、今度の休み俺とデートしてくれないか?」
「唐突だなぁ、もう…。良いよ、待ち合わせする?」
クスクス笑いながら、あたしは了承する。
そんなあたしを見ながらナズナの目が、表情が、あたしが愛おしいという風に変わる。
「そうだな。まぁ、部屋は一緒なんだが」
「情緒がないわね。あたしが着飾ったら、貴方卒倒するかもしれないわよ?」
それは楽しみだ、と彼はあたしに頬擦りしてきた。
いや、卒倒されたら困るので楽しみにしないでいただきたいのだが。
◆◆◆
チェック柄のワンピース、袖にフリルがついたパフスリーブシャツ、ワンピースに合わせたクラシック系のベレー帽。
ワンピースの丈は膝の少し上、ナチュラルメイクをしておかしな所がないか姿見で確認する。
「…多分、おかしくはない、よね?」
いつもは、何か着飾る時はテスタロッサのメイド達を呼んでしてもらっていたのだが、今回は自分で服を選んで自分でメイクをしてみた。
髪も少し自分で編み込んでハーフアップにしている。
「大丈夫、大丈夫…」
と思っていても、自分の恋人は王子様でとても顔が良く、声も良く、全てにおいて格好良い。
そんな人の隣に、あたしが立っていても大丈夫なのだろうか。
壁にかかっている時計を見ると、ナズナと合流するまで残り5分。
寮の入り口で待ち合わせしようと、あの時約束していた。
部屋の中でなんて、待ち合わせでもなんでもないだろう。
あの帰り道の間、ナズナとそんな話をした。
だからこそ、寮の入り口に午前10:00集合と決めたのだ。
さっき物音がしたから、ナズナはもう外で待っているはずだ。
あたしは意を決して、自室を出る。
これで変だって言われたら、ターニャに泣きつこうと考えて。
「ナズナ、ごめん! 待った…よね…」
ちゃんと寮の部屋の鍵を閉めて、あたしは慌てて入り口に向かう。
しかしそこには人だかりが出来ていて、あたしはまたか、という気持ちが湧き上がった。
あの、あたしを溺愛しているという噂をモノともせず、ナズナに言い寄る女子生徒は後を絶たない。
対抗戦でのあたしの実力を見ているのにも関わらず、だ。
あたしはジト目になりながら、人だかりに声をかけた。
「皆様ご機嫌よう。一体どなたとお喋りなさっているの?」
あたしの声に肩を跳ね上げた女生徒達は、左右に分かれる。
それはもう綺麗に。
その中心にいたのは、やっぱりナズナだった。
彼はうんざりした表情をして、明後日の方向に顔を向けている。