「あら、そんな返し方してくるとは思わなかったわ。ふふ。でも、あたしの真意は分かってくれてるわよね、あなた」
勿論だ、と彼は言う。
あたしの頭に頬をつけながら。
「来年も再来年も、その先も。生涯お前を離すつもりはないよ、シャルロット」
「うん。嬉しい…」
その後も、二人で飾られている絵を見て回った。
◆◆◆
美術館に併設されているカフェにあたし達は入り、一息つく。
そういえば先月の騒動の後、ユキヤ君を見なくなったなと思い、ナズナに問いかける。
「そういえばあの後、ユキヤ君どうなったの? 幽閉でもされた?」
「してないさ。春休みの間は俺の仕事の代理をしてもらっていた。俺達の方が早く城を出ただけで、ユキヤもちゃんと寮の中にいるはずだ。カナリアに見張らせて、オリヴィエの所に行かないようにはしている。彼女が子を出産する時だけ、トンプソン領に行っても良い事にはなっているがな。あいつは今後、婚姻するまでは俺の補佐として仕事をしてもらう予定だ」
ふーん、とあたしは甘くしたカフェオレを飲んだ。
ナズナはブラックコーヒーのようで、付属されたミルクと砂糖は使っていない。
あたしは肘をつき、ナズナのティーカップの横に付属されたそれらをつつく。
「シャル?」
「時々、脳がバグるのよ。多分これもテスタロッサ製なんでしょうけど。石造りの家とかあるのに、こういうカフェも王都の中にはあるでしょう? 日本とリューネが混ざっていて、少し複雑なの。ナズナには普通の事だとは思うんだけど…」
あたしの様子を見ていたナズナは、ふむ、と少し考えた後、提案してきた。
「なら、お前がいた国にあった物を教えてくれないか? あとは、お前の思い出話も聞きたい」
「…別に良いけど。あまり面白いとは言えないかもしれないわよ?」
それでもいいさ、と彼は笑う。
あたしとこうしていられるのが、本当に嬉しいようだ。
いつも四六時中共にいるはずなのに。
カフェの代金はナズナが支払ってくれた。
自分の分は自分で払うと言ったのだが、出させてくれと言われたのでお願いする。
奢られっぱなしなのはちょっと嫌なので、次のご飯代はあたしが出すと決めた。
ちなみに、今あたし達は王都にいる。
学校周辺では遊ぶ場所が特にないからだ。
王都にある公園を見て、遊具全て指差しナズナに言う。
「あれ全部、うちの国にあったものだわ。本当にターニャってば…」
やりすぎはいけないと思う。
あたしは、他に子供がいない事を良いことに、ブランコに乗った。
キィ、と音が鳴って少し揺れる。
その隣のブランコに、ナズナが乗った。
「思い出話かぁ…。ずっと勉強と、経営学しか習って来なかったからなぁ…。貴方と会った後の方が、思い出はたくさんあるのだけど」
「昔のシャルが知りたかったんだが、これはやはりカヅキに聞くべきか?」
どうやってカヅキに話を聞くつもりなんだ、この人は。
連絡手段は持ってない…はずよね?
あたしの視線に、ナズナは苦笑した。
「今度会った時にな。ターニャに聞くのでもいいが」
「そっちの方が効率的だとは思うけど。それならあたしだって、あたしと会う前の貴方の話が聞きたいわ」
そう返すとナズナは、そうだな、と一言だけ言って何か思い出しているようだった。
「俺が3歳になる少し前に母上が亡くなった。多分俺が幼いから分からないだろうと、記憶に残らないだろうと思って、母上は俺に言ってきたんだ。もし貴方が本当に愛する人を見つけた時、その人の身分が低かった時。王位など全て投げ出して、その人と幸せになりなさい。貴方が幸せになる事が、私の望みなのです、って」
ナズナはあたしを見て、少し苦笑する。
確かに、ナズナと初めて会った時、あたしは平民だった。
「シャルに会って、一目で好きになった。シャルは平民だったし、俺はしたくもない王太子という地位にいた。何もかも投げ出すには、責任が重すぎたんだ。母上が亡くなった時、俺は王太子という地位にはいなかったしな。だから、悩んだ。シャルの性格上、愛人という立場は嫌だろう。ヴィオレッタとの婚約を破棄した所で、俺にはまた縁談が舞い込んでくる。シャルだけを愛したいのに、ってな」
あたしとの事で、彼はそんなに悩んでくれていたのか。
なんか申し訳ない気持ちになってくる。
もしかしたら、あたしもオリヴィエさんと同じ立場になっていたかもしれないのかな。
愛人でも良いから、ナズナの側にいられたらって。
「ナズナ…」
「だから、あの時少しユキヤが羨ましかった。オリヴィエと想いが通じて、好き合っているあいつらが」
あたしは立ち上がり、ナズナの前に行くと彼の首に腕を回し、抱きしめた。
愛しいという気持ちが溢れる。
「ナズナ、大好きだよ」
「…俺もだよ、シャルロット。お前が功績を上げ、テスタロッサの家に入ってくれて良かった。これで心置きなく、お前と婚約ができる」
彼はそのまま立ち上がり、あたしを抱き上げた。
優しい目をしてあたしを見ている彼の頬に、キスをする。