「…もどかしいな…あの念書さえなければ…」
「…来月には喪が明けるじゃない。どれくらいまで許してくれるかわからないけど、流石にキスくらいは許してくれる…はず」
そう言った直後、あたし達は笑い出した。
本当にあたし達の恋は、周りから見たら滑稽すぎるのだろう。
順調すぎるのに、何をそんなに悩んでいたのか、と。
でも、青春っぽくて、それを経験した事のないあたし達はしばらく笑い合っていた。
◆◆◆
王都内にある宝飾店に連れられて来たのは良いのだけど、あたしはナズナの顔を思わず見てしまう。
「ねぇ…ここって、王家御用達とか言わないわよね?」
「そうだが?」
キョトンとした顔で言う彼の腕を軽く叩く。
そんな軽く言わないで欲しいのだけど。
そうだが、じゃないのよ。
全くこの人、少し天然入ってるんじゃないかしら。
あたしは彼の隣で軽くため息をついてしまう。
あたしもナズナも、そんなに装飾品をつける方ではない。
お出かけの際に、最小限だけしかつけないタイプだ。
だけど、彼に連れられてきたここは、そんな簡単につけられるような値段で売られてはいない。
安くても、数万はしている。
金銭感覚もこちらに来てから鍛えられたようで、何千万の桁は高いと感じるようになっていた。
「前世なら、何千万なんて
そう小声で言ってみたのだが、彼はあたしの話を全く聞いていないようで、指輪が並べられているショーケースを見ている。
人の話聞きなさいよ、という意味を込めて、彼の脇腹を軽くつついた。
「ん? どうしたシャル?」
「どうしたじゃないのよ。もう少し安いとこに行きましょうって言ってるのに、人の話少しは聞いて」
他にもお客さんがいるので、あたしは更に小声でナズナに言う。
彼は、何を言ってるんだという風に首を傾げてきた。
「俺が出すから、好きなもの買っていいぞ」
「そういう問題じゃないんだけど。それに、欲しかったら自分で買うから良いわよ。ナズナ…もしかして、あたしへのプレゼントとでも思ってない?」
そう言うと、ナズナは目を逸らしてしまった。
やっぱり、とあたしはまたため息をつく。
「貴方、ヴィオレッタ嬢の行動が一般女性の感覚だとでも思ってない? それはまぁ、好きな人から贈られるのは、全く悪い気はしないけれど…あまり高価なものだと、相手は萎縮してしまうわ」
「お前はしなさそうだったんだが…悪い」
萎縮はしないけど、流石に高い物は御免被りたい。
無くしたりしたら嫌だもの。
だったら安いものでも、あたしは嬉しい。
少し申し訳なさそうにしているナズナの手を握り、あたしは首を横に振った。
「あたしも出すから、ペアリング買わない? 貴方とお揃いの、欲しいと思うもの。でも、高いものはダメ。良い? 数万でも高いと思うのよ、あたしは」
わかった、と彼は返して、ショーケースの中の一つの指輪を指差した。
シンプルなシルバーリングだが、内側に宝石らしきものが嵌っている。
「これなんてどうだ? 宝石の方は変えられるだろうし、値段も手頃だと思うのだが…」
「うん。凄く良いと思う。これ買おう?」
あたしの提案通り、お金は半分ずつ出す事にした。
ナズナは店主さんに、青と紫の宝石をつけてもらうよう告げる。
「なんで紫?」
「お前の瞳の色だろ。アメジストみたいに綺麗な眼だ」
あたしの頬を軽く摘みながら、彼は愛おしげに見てくる。
メイクしてるから、あまり顔に触ってほしくないんだけど。
「お待たせしました」
店主さんが持ってきた指輪をナズナが手に取り、あたしの右手の薬指に嵌めてくる。
チラリと見えた宝石の色は青だった。
なんで左につけないのか、と彼を見ながら首を傾げる。
「右手は、婚約している証になるらしい。お前に言い寄る男共を牽制出来るからな」
「あら、それなら貴方に言い寄る女性にも、牽制になるのかしら?」
多分な、と言いながら、ナズナは自分の右手をあたしに差し出してきた。
残った指輪、紫の宝石がつけられているものを、彼の指に嵌める。
あたしはナズナの色を、ナズナはあたしの色を。
お互いが想い合っているという証を、身につける。
「少し、照れくさいわ…」
「そんなお前も愛おしいよ、シャルロット」
◆◆◆
お店を出るともう日が暮れかけていて、夕飯時だと感じる。
あたしはナズナに何が食べたいか尋ねると、久々にシャルの手料理が食べたい、と言われたので寮に戻って来た。
流石にこの格好で料理するのは嫌だったので、普段着の肩出しワンピースに着替える。
ナズナは少し残念がっていたけど、汚したくないのだから仕方ない。
「ナズナ、あの、すごい邪魔なんだけど…」
彼は後ろからあたしを抱きしめ、調理工程を見ていた。
やっと髪も少し伸びてきて結えるようになったので、横に流す形で結ってはいるのだが。
それとは逆方向に、彼は自分の頭を置いている。