「確かに。ちゃんと守ってくださいね、殿下?」
「無論だ。貴殿の娘は、俺にとっても大切な華だ。手折る事なく愛でる事にしよう」
お義父様とナズナの間で、何かよく分からない応酬でもあったのだろうか。
お互い笑い合っているはずなのに、見てて空恐ろしくなってくる。
「お義父様、殿下もここまでいらっしゃるのにお疲れの事と思います。立ち話もなんですし、お茶をお出ししてもよろしいでしょうか?」
「そうですね。お付きの方々もお疲れでしょう。いやはや、流石うちの義娘ですね。気遣いが出来てます。そうですよね、殿下?」
なんでそこでナズナに話を振るんだ、お義父様。
話を振られたナズナは、一つ頷いてあたしに微笑んできた。
「テスタロッサの庭は素晴らしいものだと王都でも噂になっている。一度見てみたいと思っていた所だ」
「かしこまりました。そこへ準備させるよう、メイド達に伝えておきます」
あたしはナズナに頭を下げ、そう言った。
◆◆◆
あたしの意を汲んでくれたメイド達の手により、テスタロッサの庭にアフタヌーンティーセットが用意される。
メイドは側にいるものの、あたしは椅子に座るなりため息をついた。
「何なの、さっきのお義父様と貴方の応酬は。見てて怖かったわよ」
「ベルファも、お前が可愛いんだろうさ。可愛い娘を俺に嫁がせるんだ、釘も刺したくなったんだろう。しかし…流石ターニャだな。新たな物を持ってくるとは」
紅茶を一口飲んで、ナズナは苦笑いをする。
あたしも知らなかったので、あたしに隠れてお義父様とターニャで画策していたのだろう。
二人とも、あたしの事を思ってくれているので文句は言えない。
「貴方、耐えられそう?」
「耐える他ないだろう。お前を手放したくはない。だから、あまり誘惑してくれるなよ? シャル」
誘惑しているつもりは全く無いのだけど、あたしの動作一つ一つが、彼にとっては誘惑そのものなのだろうか?
「なら、貴方と距離を置かなければね?」
「それは嫌だ。妃教育で離れる以外、お前と常に一緒にいたい。やっと婚約者になれたんだ、俺の我儘くらい許してくれても良いだろう?」
少し拗ねたようにナズナはあたしの手を取り、指に嵌っているペアリングを撫でた。
ナズナの右手にも、同じものが嵌っている。
「貴方、あたしの事愛しすぎじゃない?」
「初めて会った時から、ずっとお前を愛しているよシャルロット。これは、お前と会ってから全く変わらなかったものだ」
揶揄おうとしたのだが、真面目な顔でそう言われてしまい、あたしは顔が赤くなる感覚を覚える。
わかったから手を離して欲しいと伝えると、彼は素直に手を引いた。
喉が渇いてしまい、あたしは紅茶を一気に飲む。
「…貴方、あたしに対して、口説きすぎだわ…」
「好きな女を口説いて何が悪い? お前が離れて行かないよう、努力し続けている愚かな男からの愛の囁きくらい、許して欲しい」
貴方が愚かだと言うのなら、あたしだってそうだ。
テスタロッサに迎え入れられる前に、認識する前だとは言え貴方に懸想してしまっていた。
身分の差があるにも関わらず。
アンが言っていたのは、正しかったのだ。
それを誤魔化していたのは、あたしだったのだから。
「…ナズナ、あたしで後悔しない?」
「まだ言うか。お前以上の女はいないと、何回も言っているはずなんだがな。むしろ、妃教育なんてお前に必要か? 教養も、知識も、マナーでさえ完璧なお前が」
一応必要だろう。
そうでなければ、王太子であるナズナの婚約者など周りが認めない。
というか、ナズナはなんであたしをこんなに高く評価してくれているのか分からない。
「恋は盲目って言葉知ってる?」
「お前…俺の目がお前に惚れた事で曇っているとでも思っているのか? 俺はそこで評価を左右したりしない。それはそれだろう。シャル、一つ予言してやろう。お前にマナーやらを教えにきた夫人達が、お前の所作を見た瞬間尻尾を巻いて逃げ出す、とな」
そんな馬鹿な。
今までの王妃様方のマナーやらを教えて来た人達が、尻尾を巻いて逃げ出すなどあるはずもない。
むしろ、ターニャ並みに厳しく教えられると、覚悟しなければならないと思っているのに。
「馬鹿な事言わないでちょうだい」
「馬鹿なものか。お前は自分への評価が低すぎると、俺は前にも言った。もう少し自信を持て、シャル。お前は、王妃として立っても問題ないくらいの女なんだから」
優しく微笑む彼に、あたしは目を逸らす。
何に取り組んでもまだまだだと評価を貰ってきた身としては、愛しい彼の言葉だとしても、自分を信じられるはずもなく。
「…絶対、貴方の話通りにはならないとは思うわ…」
「…シャル」
頑ななあたしに、ナズナも苦笑いを浮かべるだけだった。
◆◆◆
次の日からあたしは妃教育の為に、休日は転位門を使って、ナズナと共に城に帰る事になった。
そしてあたしは親衛隊を脱隊し、ナズナの新たな専属護衛役として、ルルさんが抜擢された。