あたしの護衛役として、ブリジットさんがついてくれる事になったが、
「シャルロット、護衛いる?」
と苦笑いしながら聞いてくる。
いや、いりません、とは言いづらくてあたしも同じ表情を浮かべるしかなかった。
そして妃教育だが、マナー講師、食事の作法の講師、歩き方のレッスンをしてくれる講師、そしてリューネの歴史や文化、他国の歴史や人物などを教えてくれる講師全て、私の手に余ります、と、言われた事をこなした瞬間そう言われ、部屋を飛び出されてしまった。
「……あの、ブリジットさん。あたし、何か粗相をしたでしょうか? 手に余るって…そんなにあたしは、何かお粗末な事をしでかしたのでしょうか…」
「いやいや、違う違う! シャルロットが完璧すぎて、あの人達じゃ太刀打ち出来ないからあぁ言ったんだって! そんな落ち込まないで! 泣きそうにならないでよ! ナズナ殿下に私が怒られるんだってば!」
しょんぼりしてしまったあたしに、ブリジットさんが慌て始める。
いや、ブリジットさんが怒られる事はないのではないだろうか。
むしろ、なんでちゃんと出来ないのかとナズナから叱責されるのは、あたしの方だと思うのだが。
昼食の時間になり、ナズナと約束していたあたしはブリジットさんと共に、彼が待つテラスに向かう。
結局午前中は授業にはならず、仕方ないので王宮の図書室で時間を潰していた。
「だから言っただろう、シャル? お前の教養は完璧だと」
昼食を頂いている間、午前にあった事をナズナに話すと、彼は苦笑しながら言う。
「絶対そんな事ないと思っていたのだけど…まさか、お手上げです、なんて言われるとは思ってなかったわ…」
「流石俺の見初めた女だ。大体、シャルを虐め抜こうとしている神経が気に入らん。鼻を明かせて良かったじゃないか、シャル」
あたしがしょぼくれているのを、彼は慰めているのだろうが、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
別にそうしようと思ってやったわけではないので、さらに夫人方に申し訳なくなってくる。
「変な噂が立ちそうだわ…我儘言って追い返したとか…」
妃教育をちゃんと出来ない王太子の婚約者なんて…そんなの、彼の隣にいる資格などないではないか。
真面目に取り組もうとはしているのだ。
匙を投げられるとは思っていなかっただけで。
重いため息を吐くあたしを見てナズナは立ち上がり、あたしの傍に跪いてその手を取る。
「なら、お前のレッスンの時に護衛とお前付きのメイドでも増やそう。周りの目がある所で、夫人達もお前を悪く言えないだろうさ。それに流石にないとは思うが、お前のファンが増えそうで、俺は少し怖い。俺だけのシャルでは無くなりそうだ」
「何を言っているの? あたしは、貴方が望んでくれるから、頑張ろうと思えるのに……ありがとう、ナズナ。慰めてくれて。大丈夫、これくらいでめげたりしないから」
慰めてないし、過小評価はどうやったら直るんだ、とナズナは言い、少し悩んでしまっていた。
◆◆◆
ナズナが言った、お前のファンが増えそう、なんてあるわけがないと思っていた。
相手はあたしより、30も40も上の夫人達だ。
厳しく接せられこそすれ、アンみたいな事にはなるわけがないだろうと、思っていたのだが…。
次の休みの日の週、あたしの講師役である夫人方が、あたしとナズナをお茶会に招いてくださった。
最初あたし宛に来たものだったが、ナズナが俺も行きたいと夫人方に言った事で、叶ったわけである。
「シャルロット様、そのマナーは何処でお覚えになられたの?」
「食事の所作もお綺麗で! 意地悪で置いた食器も順番通りにお直しになられて!」
「銀食器も曇っていても表情一つ変えず、従者に囁きだけで持って来させる品の良さ! 私、感服致しましたわ!」
「普通、他国の話など小耳に挟んだくらいでちゃんと覚えていられるご令嬢など、いないにも等しいのに…シャルロット様は博学でいらっしゃいますのね、殿下」
褒めそやされて、あたしは少々居た堪れなくなった。
ナズナは素知らぬ顔で出されたお茶を飲んでいるし。
そこまで褒められるような事は、何もしていない。
食事の所作は、前世で長谷川からみっちり教えられたおかげだし、マナーについても同様。
食器を使う順番なんて、ナズナが家族で食事している姿を後ろから見ていて覚えた。
銀食器が曇っているのは故意でも
勉学についても、ナズナの護衛の傍ら、リューネの歴史書や他国の歴史書、果ては彼との雑談を覚えていただけである。
そんな事、当たり前に
まさかこんな事でここまで褒められるとは思っていなかったし、ターニャに言わせればまだ足りないと苦言を呈される事だろう。