そのまま、彼の腕の中に閉じ込められてしまう。
「シャル、あまり誘惑するなと言ったはずだが?」
「これが誘惑になるなら、あたしの動き全てが貴方への誘惑になってしまうじゃないの。少し散歩をするくらい、許してくれても良くない? そんなにあたしが視界から消えるのが嫌?」
そう言うと、唇を塞がれる。
久しぶりの感触に、あたしは嬉しくなってナズナの首に腕を回した。
「嫌に決まってるだろう。お前は自分が美しいという事を、そろそろ理解した方がいい。散歩するなら、俺も共に行く。少し待っていろ」
唇を離し、熱っぽくあたしを見るナズナに苦笑する。
「本当に、あたしを離す気がないのね、あなた。本来なら寮の部屋も別になるはずなのに、校長に直談判してそのままにさせるなんて…」
婚約が決まった後、寮の部屋も別にしましょうと言った校長にナズナは、あたしが王族と過ごすとはどういう物になるのか体験させた方がいい、とか言い始めたらしく、それに納得させられた校長はあたしとナズナを同室のままにしたのだ。
倫理とか色々考えられたでしょうに、ナズナの雄弁さに負けたのかしら。
あたしの腰に手を回し、自分に抱き寄せながらナズナは書類に向かい始める。
少ししてからブリジットさん達が入ってきたが、あたし達の状態に苦笑いをするだけだった。
◆◆◆
やっと書類を片付けたナズナと共に、城の庭園を散歩する。
本はルルさんが返しに行ってくれた。
あたしの今の服といえば、白いブラウスに黒いリボンをつけて、同じ色のフレアスカートを着ている。
ナズナはと言えば、執務室からそのまま来たのでスラックスとワイシャツという、とてもシンプルなものだ。
だが、顔面偏差値が高い彼が着ると、服がダサくても似合ってしまうのではと錯覚してしまう。
「あたしの婚約者が格好良くて辛い…」
「何を言ってるんだ、お前は…」
思った事を言っていたようで、ナズナから呆れた目を向けられてしまった。
本当の事でしょう、とあたしは彼から顔を背ける。
腕は組んだままだが。
「俺の顔が好きなのか、お前?」
「顔も声も性格も何もかも好きよ。でなければ、貴方の為に何かしようとは思わないわ」
ナズナの動きが止まり、あたしは少し前につんのめってしまう。
転びはしなかったが、いきなりすぎて驚いた。
一体どうしたのかと彼を見ると、あたしから顔を背けている。
耳辺りまで真っ赤になっているのは、照れているからだとすぐにわかった。
「これぐらいで照れないでよ」
「……すまん、お前が愛おしすぎて…」
しばらく見つめていると、ナズナがあたしを抱き上げる。
慌てて彼の首に腕を回すと、悪戯が成功したような悪い顔をしていた。
「もう、せめて一言ちょうだい。驚いて心臓が止まるかと思ったわ」
「それは悪かった。だが、お前が更に近くにいて、俺は嬉しいぞ」
本当に嬉しそうに言う彼へ苦笑して、身を預ける。
あたしを抱き上げたまま庭を歩く彼の背後には、ブリジットさんと、あたし達に追いついたルルさんが、控えていた。
そういえば、二人きりではなかったな、なんて今更ながらに思い至ったあたしは、ナズナにすぐ降ろすよう言うが、
「お前達、何も見てないふりをしろ。シャルが気にする」
「「はい、殿下」」
そう返した二人は、あたし達から目を背けた。
二人に圧をかけるくらい、あたしと離れたくないのかと彼の胸に頬を寄せる。
あたしだって、できれば彼と離れたくはない。
ずっと一緒にいたい。
そんなあたしの様子に、ナズナが微笑んだ。
「どうしたシャル、甘えたくなったのか?」
「そうだと言ったらどうするの? …その通りなんだけど…」
ふっと笑った彼は、あたしの額にキスを落としてくる。
とても優しい目で、ナズナはあたしを見つめてきた。
この目も、顔も、声も、性格も、何もかも。
愛おしすぎて、離れ難い。
彼もそう思ってくれていたら、嬉しいと思った。
「シャル、愛している」
「あたしも…ナズナ…」
口付けを交わしたあたし達だったが、あたしは頭の片隅で、護衛の二人はとても気まずい思いをしていて、大変申し訳ないと考えてしまう。
唇を離しチラリと後ろを見ると、二人とも顔を少し染め、こちらから目を逸らしまくっていた。
ごめん。
本当にごめん、ルルさん、ブリジットさん。
多分寮の部屋でも同じ事が起こるので、出来れば慣れて頂ければありがたいです…!
本来はしちゃダメなんだろうけどね!
「ナズナ…っ、降りる…っ」
ちょっと歩いては口付けしてくる彼の胸を少し叩いて、抗議する。
だが、彼は一向に降ろしてくれる気配がない。
この状態がとても、ナズナにとっては楽しいらしい。
「ナズナ、良い加減怒るよ…?」
「…別に良いだろう。お前と触れ合えなかった時間を埋めようとしているだけだ」
そう言われるとそれ以上抗議できなくて、あたしは彼にされるがままになる。
これ、ナズナ念書守れるのかな…。
と少し心配になってしまった。