周りを見渡すと、魔法陣は消えているし、ナズナは驚いているしで、あたしは状況を把握出来ず困惑する。
「ナ、ナズナ、これって」
「…シャルの魔力が何を引き寄せたかはわからんが、魔法陣が消えている。送還は無理だぞ、これ」
レイラさんとの授業を思い出した。
使い魔を召喚するにあたって、注意することがある事を。
一つ、自分より強い使い魔を呼んではいけない。
自分の力量より強いものを呼んでしまうと、制御ができず、逆に自分が殺されてしまう可能性があること。
二つ、もし呼んでしまったら直ちに魔法陣を消して送還すること。
使い魔は、契約を結ぶまでその地の地力を糧に顕現している状態だ。
その要となっているのが、魔法陣。
それを消してしまえば、使い魔はこの地に留まることが出来ず、元の世界へ戻るそうだ。
その二つの注意事項を思い出した所で、魔法陣が消えてしまっている以上、ナズナが言った通り送還は出来ない。
〔貴様か、我を呼び出したのは〕
上から声が降ってくる。
見上げると、上の方まで鱗が続いていた。
「えと、あなたは…?」
〔我はリヴァイアサン。貴様が呼んだのに、把握していないとは何事だ〕
すみません。
あなたとイメージしないで、呼んでしまいました…。
なんて口が裂けても言えないから、黙っておく。
「あの、リヴァイアサン。あたしと契約して使い魔になって欲しいの。とりあえず、あたしを守ってもらえたら…」
そこまで言って、リヴァイアサンの声が嘲笑を含んで降ってくる。
〔我が貴様如き矮小な存在に、使役されるだと? 馬鹿も休み休み言え、片腹痛いわ!〕
「あー…」
これ、交渉決裂っぽい。
あたしがどんなに言葉を紡いだ所で、リヴァイアサンには届かないのだろう。
ならば。
「雛桔梗、全シールドをナズナへ。リヴァイアサン、力比べをしましょう? あなたが勝てば、あなたが欲しいものを差し上げるわ。あたしが勝てば、使い魔になってくださらない?」
雛桔梗から、魔力形式の防護シールドが放たれ、ナズナの周りを浮遊する。
これでナズナは大丈夫。
〔ふん。良いだろう、人の子よ。貴様の土俵に上がってやろう〕
そう言うと、リヴァイアサンの体が光に包まれ、凝縮して人の形に収まる。
光が収まった後、あたしと似たロングの青髪赤い目、黒い戦闘服らしきものを纏った美女が現れた。
「あなたが、リヴァイアサン?」
「いかにも。小娘、我を呼んだ事を後悔させてやろう」
瞬間、リヴァイアサンが消え、あたしの目の前に現れる。
拳を振り上げ叩き込まれる寸前、魔力で作った刀身で受け止める。
「ほう、我の拳を受け止めるか。小娘」
「すっごい、重いですけどね…!」
両手で剣を作って受け止めたけれど、片手であったなら吹っ飛ばされていた所だ。
そして、生身の拳で刀身に触れているにも関わらず、一切斬れている様子もない。
あたし、いったい何を呼んだというの?
あたしの疑問に、雛桔梗が答えてくれる。
【リヴァイアサン:別名レヴィアタン。神が作った魔獣の一匹。七罪の悪魔、嫉妬のレヴィアタンでもある】
は?
悪魔?
「悪魔なの? 貴女?」
「本当に白ける奴だな。いかにも、だ! 我は七罪の悪魔、三大魔獣のリヴァイアサンである! さて小娘、死ぬ覚悟は出来たか?」
ニヤリ、とリヴァイアサンは笑う。
嫌だ、絶対死なない、死にたくない。
「雛桔梗、貴女どれくらいまで耐えられる?」
【我が主の魔力が続く限りです】
あたしの問いかけに、彼女は十全の答えを返す。
それに、あたしはニヤリと笑った。
「何をブツクサと。気が触れたか?」
「いいえ。貴女を倒す算段が整ったという事よ!!」
剣で拳を弾き飛ばし、距離を取る。
雛桔梗の武装を全展開させ、スラスターを起動させた。
リヴァイアサンに突っ込むのと同時に、無線兵器も彼女に突撃させる。
「は、小癪な。そんな小手先で、我が倒せるとでも?」
「倒せる算段がついたと、先程言ったはずでしょう!!」
無線兵器だけでは心許ないと思ったので、創造魔法を駆使して色々な銃や剣、飛び道具にできるものは全て使う。
創造魔法で、魔力で作った剣からドラゴンスレイヤーと呼ばれる剣に切り替え、リヴァイアサンに斬りかかった。
飛び道具による攻撃を避けていた彼女の反応が一瞬遅れ、あたしの剣が彼女の体を横から真っ二つにする。
「な…?!」
驚いたリヴァイアサンは、そのまま地に倒れ伏した。
「…っ…ぜーっ…はーっ…」
瞬間的にスラスターで飛んだから、息が出来なかった。
あと、斬った感触が手に残ってて…とても嫌だと思った。
「ふん、小娘。貴様の勝ちだな」
口の端から血を流しているのに、リヴァイアサンはあたしを睨みつけながらそう言葉を紡ぐ。
「
あたしは何も言わず、回復魔法をかけた。
緑色の光を放ち、リヴァイアサンの傷がみるみる治っていく。
腹部が完全にくっついたのをみて、あたしは彼女にもう一度言った。
「リヴァイアサン、あたしの使い魔になって。あたしを守る盾になって欲しい」