微笑みながら彼の頬に手を添えて言うと、ナズナは何かを堪えるように眉を寄せ目を閉じる。
「…悪かった。お前に捨てられると思って怖かった…シャルロット、愛しているんだ。この世の誰よりも」
「知ってる。あたしも貴方を愛しているわ、ナズナ」
ナズナが唇を寄せてきたので受け入れた。
そういえば、喧嘩して仲直りするたびにキスをしている気がする。
別にそれが嫌なわけではないので、構わないのだけど。
もしかして、あたし達の仲が未来もこうなのって、大体ナズナが原因じゃないだろうか。
そんな事を考えていると、ナズナが唇を離しあたしを見つめてくる。
あたしは先程と同じ事を彼に言った。
「お風呂に入りたいのだけど、貴方もついてくる?」
「……シャル。誘惑してくれるのは嬉しいが、お前と離れたくないから我慢するさ。あと、言うのが遅くなってしまったが…お帰り、シャル」
優しく微笑む彼に、あたしも微笑みを返す。
「ただいま、ナズナ」
◆◆◆
数日後。
休日だったのでナズナを伴い、テスタロッサの家へ行く。
シンクの様子見だったのだが、もう一人増えていた。
光に当てると栗色になる不思議な黒髪を持った女の子で、ターニャのレッスンを受けているシンクを、ニコニコと笑顔で見ている。
「ターニャ、ただいま。その子は?」
「お帰りなさいませ、お嬢様。貴女、自己紹介なさい」
ターニャに促されたその子は、あたしとナズナへ綺麗なカーテシーをしながら頭を下げた。
「ユタカ・タチバナ・テレジアと申します。シンクの妻です」
「
ナズナの言葉に、彼女は顔を上げる。
どことなく見覚えがあり、あたしは首を傾げた。
その様子に、ユタカと名乗った彼女は苦笑する。
「久しぶり、ナッちゃん。シンクから話聞いてたから、私も話すけど。この時間でナッちゃんに会った時、私まだ5歳だったよね。旧姓は立花裕。立花夏月の娘です」
「え……えぇ?!」
カヅキの娘と、あたしの息子が結婚してる?!
一体どういう事?!
少し混乱してしまったあたしに、ユタカちゃんはクスクス笑う。
「これ以上はママに怒られそうだから言えないけど、大丈夫だよナッちゃん。私達はちゃんと幸せに暮らしてるから。それもこれも、ナッちゃんやナズナおじさまのおかげだから」
それならそれで良いか、なんて納得しそうになって、ある単語に引っかかり覚えた。
「ナズナおじさま?」
「え、うん。陛下って言ってもいいけど、今はまだおじさま陛下じゃないでしょ? 近所のおじさまって感覚で、ナズナおじさまって呼んでるんだけど…なんかおかしい?」
いや、おかしくはない。
驚いただけ。
ナズナもおじさんって呼ばれる時が来るんだって。
「…兄弟姉妹に子供がいないだけで、いたらおじさんって呼ばれるんだぞ、俺は」
「ユキヤ君のとこも、今年だったかしら」
少し眉を寄せてナズナが言ってくるが、ユキヤ君の名前を出したら項垂れてしまう。
あれは流石のナズナも驚いた事件だった。
3月の時点で既に三ヶ月と言っていたから、産まれるのは9月、遅くても10月あたりか。
ナズナと結婚したら、あたしもおばさんと呼ばれるんだろうな。
「レッスンはここまでと致しましょう。初日に比べて、中々の上達ぶりです。褒めて差し上げましょう」
「…ありがとうございます、お祖母様。これからも精進して参ります」
シンクがターニャに頭を下げる。
確かに初日からは考えられないくらい姿勢も良くなっている気がした。
「お前達、お嬢様がいらっしゃいました。お茶の用意を」
「「「はい、奥様」」」
リアラとリリス、それにアニスが部屋の隅に控えており、ターニャの言葉に頭を下げてお茶の準備をしに行く。
「…貴女のお嬢様呼び、いつになったら直るのかしら」
「未だに直ってないから、生涯このままだと思うよナッちゃん…」
ユタカちゃんの言葉に、あたしは苦笑いをするしかなかった。
その後、庭に設置されたテーブルと側に置いてある椅子に座り、あたし達はお茶を頂く事にする。
「ユタカ、子供達は?」
「ママが見てくれてるよ。新婚旅行にも行ってないだろうから、ナツキに言ってゆっくりして来いってさ。金は渡すが、足りなければナツキに泣き付いて貸してもらえ、将来返せば良かろう、とも言ってたっけ」
ユタカちゃんの言い回しから、カヅキは将来リューネに来て住んでいるわけだ。
なるほど、だからあたしの息子とカヅキの娘が結婚するって事態になっているのか。
ユタカちゃんの言葉に、シンクは頭を抱える。
「借りれるわけないでしょ、おばさん…っ! なんで過去、しかも自分より年下の母様に借りられるっていうんですか…っ! 無理、絶対無理…っ!!」
「シンク、グンちゃんみたい。貸してって言えば、貸してくれると思うけど」
ケタケタ笑うユタカちゃんに、あたしもうんうん頷く。
親衛隊時代に貰ったお給金は何も手を付けてはいないし、ワイバーン討伐の時のお金も手付かずだ。