ね、根に持ちすぎじゃない?
どれだけなのよ、あたし。
ナズナもそれを聞いて絶望しているようだ。
先程からぴくりとも動いていない。
「シャル…捨てないでくれ…」
「未来の話だし、本当に起こるとしても、これから貴方が気を付ければいいだけでしょうに。それに、まだ結婚してないんだけど。不確定要素だらけじゃない」
お茶を一口飲むと、ナズナが顔を上げて耳が痛くなるほどの声量で叫ぶ。
「いや、絶対に結婚するからな?!」
「怒鳴らないでちょうだい。わかったから。未来の子供達の前で恥ずかしいと思わないのかしら、貴方は。少し冷静になって。次期王でしょう?」
あたしに諭され、ナズナは手を離し、すまんと謝ってくる。
「ここでもこうなんだー」
「な? 言った通りだろ? 昔から変わってなかったみたいだぞ」
シンクはユタカちゃんに何を言ったのか。
あたしはボソリと呟く。
「少し、ナズナとの関係考えた方がいいのかしら…」
「シャル?!」
あたしの呟きに驚いたナズナが、抱きついてきた。
だから狼狽えるなというのに。
これ、ちゃんと国が回るのか心配だわ。
そう思ったから、未来のあたしも彼と離婚してない可能性が高い。
むしろ、あたしと離婚して憔悴した彼が、国を動かせるとは思えない。
彼一人だけならまだしも、国には何千万人と生活している人達がいる。
あたしと離婚したからと、抜け殻になった彼のせいで国の人達に迷惑がかかる事は避けたい。
念書を書いた後の彼も、無茶をしかけていたし。
「ナズナ、落ち着いて。なんで貴方そんな情緒不安定なの。愛してくれているのはわかるけど、落ち着いてって何度言えばいいのかしら?」
「じゃあ、母様。俺らお邪魔っぽいんで。一週間くらい、国見て回ってから帰ります。本当にお世話になりました。将来ちゃんと、返していきますんで」
ナズナの様子を見てまずいと思ったのか、シンクが立ち上がり、あたし達に頭を下げてくる。
爆弾落とすだけ落として行かないで欲しいのだけど。
「シンク、将来覚えてなさいね?」
「…はい、母様」
この状態の彼を宥められるのはあたしだけなのも理解しているので、あたしはシンクを軽く睨むだけに留める。
「ナッちゃん、シンクがごめんね。でも、二人とも仲良く暮らしてるから、ナズナおじさまを本気で嫌ってはいないと思うよ、未来のナッちゃん」
「こっちこそごめんね、ユタカちゃん。大したおもてなしも出来なくて。まぁ、この状態になるのわかってるから離婚出来ないんだろうな、とは察したわよ」
ユタカちゃんが苦笑を返してくるので、やっぱりそうなのだろう。
という事は、未来のあたしはナズナをもう好きではないのか?
倦怠期というやつだろうか?
「行けるなら、未来に行ってみたいものね」
「いや、母様。んな事言ったら現実になるんじゃ…」
シンクが苦笑いを浮かべながら言ってくるので、あたしは口を噤む。
危ない危ない。
下手したら最高神辺りに聞かれて、現実のものにされそうだ。
あれ、本当に性格悪いし。
人の事オモチャとしか思ってない節あったし。
「父様、この歳になるまで二人は離婚してないんで大丈夫ですよ」
今後どうなるかわかりませんけど、とその表情が物語っていたが、ナズナはあたしに抱きついたまま微動だにしていないので、見えていない。
「二人とも、気を付けてね。本当にお金無くなったら、ここに戻ってきてもいいから」
「大丈夫だよ、ナッちゃん。私達魔王倒したからある程度強…もがが」
ヤバいという顔をしたシンクが、ユタカちゃんの口を塞ぐ。
は?
魔王?
宮塚で終わりじゃないの?
少し目を丸くするあたしに、妙に焦ったシンクがヘラっと笑う。
「いやー、路銀くらい稼げるくらい強いっていう意味で、魔王って話しただけなんで本気にしないでください。じゃあ、お世話になりましたー」
そう言って、二人は転移して消えた。
後には、あたしとナズナしか残らず、あたしは首を傾げる。
「いったい、未来で何が起こるっていうのよ…」
とりあえず、抱きついたままのナズナを引き剥がしお説教する事にした。
あたしの話に、素直にうんうん頷きながら、彼はどんどん落ち込んでいく。
やっぱりシンクは、ナズナの子だ。
様子がそっくりすぎる。
「わかった? ナズナ」
いつもなら反論してくるはずの彼が、全く反論せず頷く。
余程シンクの話が応えたようだ。
そりゃ、未来で離婚騒動なんて起きてほしくはないだろう。
あたしもずっと仲睦まじく過ごしていると思っていたし。
「貴方、あたしが貴方を傀儡にでもしたらどうするの? 少しは反論しなさいよ。心配になるじゃない」
「……お前に溺れてしまっている俺からしたら、傀儡でも何でもいいから、お前の傍に居たい。シャル…お前が俺以外の男がいいと言って浮気しても、俺は許すつもりだ」
そう言う彼の頭を、あたしは叩く。
「見くびらないで。貴方以外を良いと思うわけないでしょ。もう本当に…シンク、将来覚えてろ」
シンクが消えた場所を、あたしは睨みつけた。