転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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168.時を止めます

「吾妻ノ国?」

 

イフリート1の月。

夏休みに入る直前、ナズナから吾妻ノ国に行かないかと提案された。

確かに、婚約する前にそんな話はしていたけれど。

 

「貴方、政務の方とか大丈夫なの?」

「二ヶ月は国を離れても大丈夫なようにはしてある。大体、まだ王位を継いでいないというのに、あのクソ親父がこちらに仕事を投げてくるせいで、あまり身動きできないというのも腹立たしい」

 

最近はそれにかかりきりで、各地方の視察にも行けていないと、この間愚痴を零していたばかりだったっけ。

その時に、国民にお前が将来の妻だと見せてやりたいのにな、なんて言われて彼の腕を軽く叩いたりもした。

 

「あたしの方は別に何の予定もないから良いけれど。確かに行きたいとは言ったけど、貴方に無理はさせたくないのよ?」

「わかってるさ、シャル」

 

半年で少しは伸びたあたしの髪を、彼はいじりながら微笑む。

本当にわかっているのだろうか、ナズナは。

少し目の下に隈が出来ているのだけど。

 

「…お昼休みになったら、お昼寝しましょうね貴方は」

「眠くないが?」

 

良いから寝なさい、と笑顔を向けると彼は素直に頷く。

そしてお昼休み、木陰で昼食を取り、彼はあたしの膝枕ですぐ寝始めてしまった。

 

「やっぱり無理してたんじゃない…」

 

寮の部屋で一緒に寝てはいたけれど、あたしが起きたらもうナズナの姿がない、なんて事が多々あって、この人何時間寝ているのかと心配になっていたのだ。

 

「これ、毎日お昼寝させた方が良いわね…」

 

夜寝れていないというなら、そうする他ないだろう。

お昼休みといってもご飯を食べる時間を抜けば1時間はないので、休息になっているのか分からないけれど。

 

「ルルさん、ブリジットさん、本当にすみません…」

「いや、別に私達はいいんだけど」

「私達の事は空気とでも思ってて、シャルロット」

 

元同僚の二人に、あたしは謝罪する。

本当、何も言わず付き従ってくれてて感謝しかない。

 

…あたしとナズナがイチャついてても、本当空気のように気配を消してくれてて、我に返った後本当に申し訳なくなる。

 

昼休みが終わる鐘が鳴ったので、あたしはナズナを起こす事にした。

 

「ナズナ、起きて。お昼休み終わったわよ」

「ん…あともう少し…」

 

そう言い、彼はあたしの腰に腕を回して抱きついてくる。

本当はもっと寝かせてあげたいのだけど、流石に午後の授業に遅刻するわけにもいくまい。

 

「ナズナ、起きて」

 

揺すってみても、起きる気配がない。

どうしようと思ったあたしは、少し考えた後雛桔梗にリミッターを全解除してもらう。

 

「時よ、止まれ」

 

時魔法で時間を止める事が出来ないか試してみようと思い立ち、魔法を使ってみた。

心地よい風が吹いていたはずなのに、それがぴたりと止み、空気が澱んだ感じがする。

ルルさんやブリジットさんは微動だにせず、こちらを見たまま固まっていた。

 

ナズナの方を見れば、規則正しい寝息を立てている。

彼だけは時が止まらないようにしていたので、これは正しい反応なのだが。

 

「すっごい無音…」

 

木々の葉が風で鳴る音も、人々が談笑する声も、騒めきも、何もかもない。

この世界に、あたしとナズナだけしかいないような錯覚に陥る。

 

「それはそれで、幸せな事なんでしょうけど…」

 

というか、ちょっと考えて実行しただけで簡単に出来てしまうなんて、あたしの力ってどうなってるの?!

怖いのだけど?!

 

あたしはナズナが自然に起きるまで、暫くぼーっとしていた。

体感時間で数時間くらい経った頃、ううん、と唸り、彼が目を開ける。

寝起きで目の焦点があっていないのか、意識がはっきりしていないのか。

あたしを見上げていたナズナだったが、いきなり起き上がった。

 

「シャル、今何時だ?!」

 

あたしは校舎の壁に設置されている時計を指差す。

そちらの方を見たナズナが、驚きの声を上げた。

 

「は? 昼休憩が終わる時間? 結構頭がすっきりしているんだが…?」

「でしょうね。体感で言えば、もう5時間は経っているはずだもの。あー、足痺れたわよ全く」

 

木の幹を支えにして立ち上がる。

彼もすまんと言いながら、立ち上がった。

 

「シャル、これは…」

 

周りの様子がおかしい事に気付いたナズナが、あたしに尋ねてくる。

こんな芸当が出来るなんて、あたし以外いないだろうという推測の元だろうけど、その通りなのであたしは苦笑した。

 

「貴方、全く寝れてなかったのでしょう? どうにか時を止められないかと思って魔法を使ってみたら、案外上手くいっちゃったのよ。よく寝れたでしょう?」

「お前…」

 

ナズナはあたしをキツく抱きしめてくる。

一体どうしたのだろうと、あたしも彼を抱きしめ返す。

 

「俺が言うのもなんだが、あまり無茶をしてくれるな、シャルロット。こんな大規模な魔法、お前の体に負担がいくだろうに。俺の為とはいえ、お前に無茶をさせたくはない」

「うーん…別に体がだるいとか、しんどいって事はないのだけど」

 

むしろ、これだけ大規模な魔法を使っているのに、疲れを感じないのよねぇ。

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