それよりは、少し情緒を感じてもらいたい。
少し不満そうにしていると、その様子を感じ取ったのかナズナが少し体を離し、首を傾げた。
「どうした、シャル?」
「……貴方、この状況見て何とも思わないの?」
彼は周りを見渡し、やはりまた首を傾げる。
眉を寄せ少し考え込んでいるようだが、うん、ナズナにそれを想像する事を期待したあたしが馬鹿だった。
指を鳴らしてこの状態を解除しようとした所で、ナズナに腕を掴まれる。
「何?」
「シャル、解くのは少し待て。もう少し、このままでいたい」
彼の目が熱を帯びていて、あたしが先程考えていた事に彼も思い至ったのかと気付いた。
そしてあたしは、意地悪く笑う。
「どうして? 何故なのか、ちゃんと言葉にしてくれないとわからないわ」
「…最初にその考えへ至ったのは、お前だろうに。全く、俺の妃は俺に対してだけ意地が悪い」
本当にそう思ってはいないだろうに、ナズナはくっくっ笑いながら、あたしの頬にキスをしてくる。
そのままあたしの耳元に口を寄せ、低い声で言った。
「世界に二人きりだけのようじゃないか。なぁ、シャルロット? 今なら、あの念書も無効だとは思わないか?」
「な…」
流石に、そこまでは考えてなかった。
確かに時を止めたままなら、念書を破ろうがなんだろうが関係ないだろう。
ナズナの手があたしの腰を撫でる。
あたしは顔を真っ赤にし、彼の抱擁から抜け出そうともがいた。
途端。
「殿下、何やってるんですか? というか、いつの間に立ち上がって…?」
「ルル! この状態で声かけちゃダメでしょ…っ!! 私達は空気! 空気なの!!」
ルルさんの疑問の声と、小声でルルさんを止めているブリジットさんの声が聞こえ、あたしは思わずナズナを突き飛ばした。
「いっ…! は? シャル?」
「…っ! ナズナのばーかっ!!」
ナズナを罵倒して、あたしは踵を返して走り出す。
彼の制止の声が聞こえたが、ガン無視した。
あのまま、時が止まったままだったら。
ナズナに、全てを見せたのだろう。
あたしの全てを。
多分、時魔法が解除されたのはあたしが動揺したからだとは思う。
それで良かったと、思えば良いのに。
「馬鹿、あたしの馬鹿…っ! なんて破廉恥な…っ!! これじゃお嫁に行けないじゃない…っ!!」
残念だと、やっとナズナと繋がれると、少し考えてしまった。
何たる恥辱。
恥を知れ、自分。
「お前は俺の妻になるのだから、嫁に行けないと心配する必要性はない!」
走っていたのに、いつの間にかナズナが先回りし、あたしを正面から抱き止めていた。
驚いたのと、恥ずかしさでもがくが、ナズナは強くあたしを抱きしめて離してくれない。
「やっ、ナズナ…っ!」
「シャル」
無理矢理顔を上げさせられ、キスをされる。
段々深くなっていき、あたしは体の力が抜けた。
「…落ち着いたか?」
「うん…」
彼の服を掴み、しかしやはり恥ずかしくて肩に顔を埋める。
そんなあたしの頭を、ナズナはゆっくり撫でてくれた。
「ナズナ…あと何ヶ月…?」
「卒業までか? 今はイフリート1の月だから…あと8ヶ月だな」
指を折り曲げ数えたナズナが、あたしの
長い、長すぎる。
婚約するまでも長かったけど、今回も長過ぎやしないだろうか。
「って、貴方どうやって先回りしたのよ? あたし全速力で走ってたと思うんだけど?」
そういえばと思い顔を上げて彼に尋ねると、ナズナは少しムッとしているようで、
「シルフィードを纏わせて飛んできたんだ。全く…少し手加減してくれ。多分、時速はジェットコースターと同じくらい出ていたかもしれん…酔った」
あたしの肩に額を置いて、彼はグッタリし始める。
慌ててナズナを座らせた直後、授業開始の鐘が鳴った。
あちゃー、と思うと同時に、聞くなら放課後、寮に帰ってから聞けば良かったと後悔した。
◆◆◆
あの後、カーン先生にナズナ共々怒られて少しの補習を受けた後、夏休みに入った。
「ねぇ、ナズナ。吾妻ノ国ってどうやって行くの? まさか馬車でとか言わないわよね?」
寮の部屋で支度を終えたあたしは、雛桔梗に投影させた地図を見ながら彼に聞く。
王都から吾妻ノ国の国境線まで、馬車でおよそ一ヶ月かかるみたいだ。
行ってすぐ帰って来なければ、始業式に間に合わないだろう。
「王族専用の転位門がある。先方には半年程前に文を出しておいたから、いきなり行った所で問題はないはずだ」
半年前といえば、未来のカヅキの所に行った時か。
あの後出してたって事かしら?
「それ、あたしも使っていいのかしら? あと、そこと戦争になったらどうするの? そこから攻め込まれたりしない?」
「お前は俺の婚約者だろうに。それとな、シャル? お前忘れてるかもしれんが、転位石があるんだぞ? あれに魔力を込めなければ転位出来んし、逆に片方の石を外していたら門自体動作しない。もし吾妻ノ国と戦争状態に陥ったら、その石を取り外すに決まっているだろう」
昼休みに小説を書いていると、本当お家に帰りたくなります
横に人がいると集中して書けない…っ!