「承知した。せいぜい我を使役して見せるが良い」
よ、良かった。
これで断られてたら、存在を消す羽目になっていた。
安堵していると、後ろから抱きしめられる。
そんな事が出来る人物は一人しかいない。
しかし、抱きしめられる謂れもなく困惑した。
「ナズナ? どうかした?」
「…あまり、無茶をするな」
そう言われても。
無茶しなきゃ、リヴァイアサンとの戦闘で生き残れなかっただろうし、下手したら死んでいた。
「いちゃつくのは良いのだが、命名してくれぬか?」
「命名?」
もうリヴァイアサン、もしくはレヴィアタンって名前があるはずだけど?
首を傾げると、ナズナがあたしから離れ、呆れたのかため息をついた。
「レイラから習わなかったか? 使い魔契約で、契約成立した際には使い魔へ名付けを行うと」
「…あぁ、そういえばそうだった」
対人戦闘は初めてではないけど、今回は緊張感が違ったから頭から抜けていた。
「じゃあ、貴女の名前は…レヴィ。レヴィアタンから取って、レヴィ」
「承知した、我が主」
レヴィは起き上がり、光に包まれる。
人型からさらに凝縮され、小さい蛇の姿になる。
抱き上げると、彼女はあたしの腕に軽く巻きついた。
◆◆◆
なんとか馬車が出る時間までには帰って来られ、あたし達はナズナ専用の馬車に乗る。
「疲れた…」
「ご苦労」
窓枠に頭を乗せると、反対側の席に座ったナズナが頭を撫でてきた。
ナズナには感謝しているけど、疲労の原因は彼である。
まぁ、不平不満は言わないけれど。
「ありがと」
「しかし驚いたな。まさか魔獣の類が召喚されるとは」
あたしの腕に巻きついているレヴィを見て、ナズナは苦笑した。
「気安いぞ、人間。妾に話しかけるでない」
フイッ、とレヴィはナズナから首を背ける。
尊大なのは、悪魔であり魔獣であり、年長者だからでもあるのだろう。
ナズナの顔が少し引き攣る。
「…だが、もっと離れた所でやるべきだった。俺の浅慮だ、すまん」
「いや、あたしもまさかレヴィが来るとは思ってなかったから、仕方ないというか…」
ナズナはあたしに向き直り、謝罪してきた。
あたしは首を横に張り、返答する。
あの後屋敷に戻ったら、とんでもない騒ぎになっており、説明に時間を要してしまったのだ。
だから馬車に乗る時間もギリギリになってしまった。
「これから王都に帰るわけだが…お前を籠絡しようとしてくる奴らは五万といるだろう。お前の容姿然り、力然りを目当てにな…大丈夫そうか?」
「んー…そこの判断はナズナに任せる。あたしはナズナの後ろに控えておくよ」
初対面で、敵かどうかなんて判断がつかない。
なら、優秀な雇い主の影に入っていた方が得策だろう。
「お前、腹芸出来なさそうだもんな」
「…もしかしたら、記憶を失う前のあたしは出来たかもしれないわよ?」
希望的観測ではあるが。
無理無理、とナズナは笑って否定してくる。
「シャルは素直すぎるからな」
「…記憶戻って、今のあたしと別人になったらどうするのよ。解雇でもする?」
「シャルはシャルだろう。今の人格だろうが、前の人格だろうが」
そんな問いかけに、彼は直ぐ様否定して来た。
あまりにも即答だから、あたしは若干驚く。
「…ははっ。そんな全肯定してくれるなんて、あたしの雇い主は優しいなぁ」
それから盗賊とかに襲われる事なく、王都に到着する。
旅程は一ヶ月程で、専属護衛だからかナズナと同室になることが多かった。
まぁ、仕方ないか。
城に着いたようで、馬車が停車する。
あたしが先に降り、ナズナが出てくるのを待った。
「ナズナ殿下〜? お帰りなさいませ」
サリナさんとはまた別の間延びした声が、ナズナの名前を呼ぶ。
甘ったるいその声の主を見ると、マゼンタ色の髪を緩く巻いた美少女がいた。
装飾は煌びやかで、陽の光を反射してチカチカと、鬱陶しいくらいに光っている。
日焼け対策なのか日傘を指しているのだが、それにも関わらずだ。
「ヴィオレッタ…何故ここにいる」
「あら、婚約者を出迎えただけですわ〜。そんなに邪険になさらないでくださいまし。ぅん? そちらの方は?」
ナズナの婚約者だという美少女は、隣に立つあたしを見て尋ねて来た。
あたしは胸に手を当て、頭を下げる。
「シャルロットと申します。この度、ナズナ殿下の専属護衛を賜りました。今後ともよろしくお願いいたします」
「そう。貴女、こちらにいらっしゃって?」
彼女に呼ばれ、ナズナの傍から離れて近寄る。
瞬間、腕を掴まれ引き寄せられた。
「貴女、どうせ体で殿下の事を籠絡したのでしょう? 胸元を開けていやらしいったら。卑しい平民風情が、
小声で一気に捲し立てられ、あたしは驚く。
ナズナの寵愛って…むしろ、貴女ナズナから毛嫌いされてる事ご存知ない?