上着には銀色の布を縫い付けてアクセントを出し、ワンピースのスカートには水色のフリルが付けられていて、帯は薄紫色。
首周りを閉めるタイプだったので少し怖かったが、ナズナが事前に言ってくれていたのか、そこは閉められずに開けたままだ。
ただ、胸元が少し露出しているので、そこだけ少し気にはなったが。
着替え終わったのでナズナと別れた場所に連れて行ってもらうと、彼はもう着替えていたようであたしを待っていた。
ローリエ色の上着と、黒色のチャンパオを身に纏い、腰に巻いた布には鯉が刺繍されている。
鯉いるんだ…。
いなかったら多分刺繍できないよね。
想像で刺繍出来るって、その人才能あると思う。
マジマジとナズナの腰布を見ていたあたしに気付いた彼は、そんな姿を見て苦笑した。
「その服似合ってるな、シャル」
そう言われて、腰布からナズナの方に目線を移す。
いつもと違う格好をしたナズナに、少し鼓動が早くなってしまった。
「貴方もね、ナズナ」
あたしは平常心を顔に貼り付け、ニコリと笑う。
あたしをナズナの元に連れて来たので、用が済んだ使用人の人達が下がったのを見てから、ナズナが少し不満そうに身を屈め、あたしを見上げた。
その様子にあたしは首を傾げたが、
「シャル、俺の前でだけは取り繕うな。周りにもう人はいない。素直に表情を出してもいいんだぞ?」
と言われ、咄嗟に上着の袖丈で顔を隠しながら、彼に心境を告白する。
「だって…貴方格好良いんだもの…。ドキドキして、直視出来ないの…。取り繕ったって、別に良いじゃない…」
本当着てる服が違うだけなのに、別人みたいで格好良い。
王太子の服を着ている彼も格好良かったけど、多分吾妻の普段着であるこれでも、彼が格好良く見えてしまった。
これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
そんな事を考えていると、腕を掴まれ下げられる。
照れた顔を晒され、少し驚いて目を丸くしていると、彼に素早くキスをされる。
「…ちょっと、ナズナ…」
非難の目を向けても、彼は楽しそうに笑うだけだった。
「シャル、お前は本当に可愛いな。取り繕う必要はない。ここには、お前を知る者はいないんだからな」
「だからって…」
ナズナを知る者はいるだろうに。
彼にべったりしている女なんて、見てて痛いだけじゃないのだろうか?
そう思うのと同時に、ナズナはあたしの腰を掴んで持ち上げる。
バランスを崩したあたしは、彼の頭を掴んだ。
「…シャル、痛いんだが?」
「だから、事前に予告しろって言ったじゃないの!! 別に持ち上げるなとは言ってないんだから!!」
彼に怒鳴って抗議する。
ふはっ、とナズナは吹き出して、何を思ったのかそのままの状態で回り始めた。
「ちょっと?! ナズ…怖い怖い怖い!!」
遠心力がかかり、あたしは彼の頭に抱きつく。
抱きついた事で視界不良になり、彼の動きは止まったが、いったいこいつは何をしているんだと、恐怖で心臓が張り裂けそうになりながら思った。
「ナズナ…? 貴方何やってんの…?」
問いかけても返答はなく、恐る恐る彼から離れる。
その顔は幸せそうに微笑んでおり、何かを堪能しているかのように見えた。
「ナズナ…?」
「シャル…お前の胸、柔らかいな…」
ちょうど、露出している胸部分がナズナの顔に当たっていたようで、そう言われ思わず手が出てしまった。
だが、この変態を成敗する為なのでそこは許して欲しい。
◆◆◆
顔の片方を真っ赤に染め、少しムッとしているナズナと共に、暁家の領地を見て回る。
吾妻ノ国は領地が点在しているわけではなく、それらを全て内包した巨大な国らしい。
少し通路を挟んで隣が別の領地とかもある、と教えられた。
ちゃんとわかるように、塀で囲われ門番が立っているらしいが。
遠目から日本のお城みたいな物が見えたので、あれが吾妻ノ国の王様が住んでいる所なのだろう。
江戸の町みたいな建物が並んでおり、人々が活気付いている。
「ナズナ、もうそろそろ機嫌直してくれない…?」
さっきから無言で隣を歩かれているわけなのだが、そこまであたしに叩かれた事が不満だったのだろうか。
いや、だって、そういう事してるならともかく、あんな事言われたら普通叩くじゃない。
胸元が露出してるのすごい気になってるのに。
「…シャル。流石に俺は傷ついたぞ」
「だから何なのよ。叩いた事なら、謝らないからね。大体貴方、失言多すぎると思うわ」
ナズナからの言葉にあたしは反論してしまう。
それによって、お互いにムッとなってしまった。
なんで異国の地に来てまで、喧嘩しなきゃいけないのよ。
いや、これ絶対ナズナが悪いんだけど。
本当に未来のあたし、よく耐えてるわ。
町並みを見ていると、呉服屋を発見する。
色んな生地を取り揃えているようで、それで作った着物も販売していた。
「………」
少しお互い頭を冷やした方が良いだろうと思い、あたしは念話でルティとレヴィに、彼の護衛をするようお願いする。
了承の意が返ってきたので、あたしはナズナから離れた。