転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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174.月が綺麗ですね

「月が綺麗ですね」

「……? 確かに、今日は満月だが…」

 

あたしの方を見たナズナが、首を傾げる。

そんな彼に、あたしは苦笑した。

 

「あたしが生前住んでいた日本にはね、文学者と呼ばれる人達がいたの。こっちでは作家さんかな。その当時、外国からの言葉が入ってきてて。文学者の1人が、その言葉を教える先生だったの。生徒が訳した言葉に、日本人はそんな言い方はしない、月が綺麗ですねと言いなさい、って言ったんだって」

「…何の言葉を訳したんだ?」

 

尋ねてきた彼に、あたしは微笑みながら言う。

 

I love you(愛しています)

「…っ!!」

 

ナズナが目を丸くし、息を呑んだ。

 

何度も、あたしは彼に対してそう言ってきたし、彼もあたしに対してそう言ってくれた。

だからこれは、仲直りをしましょうという合図だ。

流石にそこまで気付かない程、彼は鈍くないだろう。

 

「…シャル…それに対して、なんて返答するんだ…?」

 

恐る恐る聞いてきた彼に、あたしは微笑んだまま教える。

 

「返事を保留にするなら、そうですね。付き合わない方がいいと思ったなら、手が届かないから綺麗なんです。あなたに対して恋心はありませんよと断るなら、私には見えません。だったかな」

「そんな返事じゃなくてだな…」

 

わかっているから、焦らないで聞いて欲しいんだけど。

 

苦笑しながら、あたしは彼の頬に手を添える。

 

「死んでもいいわ、って返答するの。ロシアと呼ばれてる国の言葉を翻訳した文学者は、私はあなたのものだという言葉を、そう翻訳したのですって」

「…シャル…」

 

手を添えていたあたしの手を取り、彼はゆっくりと押し倒してきた。

月明かりが逆光になり周囲も暗い事から、ナズナの表情がわからない。

流石に時を止めているからと、無体な事はしないだろうけど。

 

「シャルロット…お前の為なら、死んでもいい…」

 

そう言って、彼はあたしに口付けてきた。

いつもみたいなお互いを貪るようなキスではなく、とても優しい、触れるだけのキス。

 

唇が離れ、ナズナが微笑んだ気配がした。

だから、あたしも微笑みを返す。

 

「月が綺麗だな、シャル」

「えぇ、死んでもいいくらいに」

 

貴方の位置から、月なんて見えないでしょうに。

なんて、無粋な事は言わない。

 

あたしは腕を彼の首に絡め、抱きしめる。

 

「好きよ、ナズナ」

「俺もだ、シャル」

 

あたしの背に手を回し、彼はそのまま持ち上げて立った。

魔力の流れから、彼が筋力強化をしたのがわかり、無茶をするなぁと苦笑する。

 

「その姿も美しいな、シャル。こちらでは天女の伝説があるというが、お前天女の末裔ではないのか?」

「褒めすぎよ、あなた。確かに、あたしは天から落とされて貴方と出逢ったけれど、ただの女だもの。あたしが天女の末裔なら、貴方がやることなす事、全てに興味がないでしょうね。ただの人に、どうして自分の意識を向けなければいけないの?」

 

彼の胸に顔を埋め、甘える。

 

あたし達は、暫くその場で抱き合っていた。

 

◆◆◆

 

流石に冷えてしまったので、あたしはナズナを露天風呂に誘導する。

一緒に入るか、と聞かれたので背を思い切り叩いた。

 

「い…っ! 冗談だ…もうお前を怒らせたくはない…」

 

コツン、と額を合わせてきたので、あたしは彼を見上げながら小声で言う。

 

「理性が崩壊しないなら、水着着用で入ってもいいよ」

「……襲いそうになったら殴ってくれ…」

 

そこはやらないと言ってもらいたいんだけど。

 

というわけで、二度目の露天風呂に入る事になった。

ナズナにも水着を着てもらったので、多分セーフだろう。

 

この露天風呂のお湯は源泉掛け流しなのか、お湯の温度はお風呂から上がった時と変わっていなかった。

 

「結構柑橘の匂いがするな」

「いい匂いよね?」

 

聞くと、ナズナは頷く。

二人でお湯につかった後、あたしはナズナの方へ近寄った。

 

「…シャル、誘惑しないでくれ…」

「今日あたしを怒らせた罰よ。生殺しで寝れなくなってしまえ」

 

彼の腕に抱きつきながら、胸を押し当てる。

最初は、よくもこんな鬱陶しい物をつけてくれたな、とヴェスタに怒ったものだが、今は案外ナズナを翻弄できるから、捨てたものではないなと思っている。

 

「シャル…理性崩壊するぞ…」

「そうしたら婚約破棄だって分かってるわね?」

 

脅して離れさせようとしたがお生憎様。

あたしに溺れまくっている貴方が、あたしに敵うとでも?

 

にっこり笑うと、ナズナはこちらから顔を背けてしまった。

ちなみに今のあたしの水着は、ピンクのワンピースタイプを着ている。

 

「ナズナ?」

 

問いかけても無反応で、あたしは少しムッとした。

それが許されるとでも思ってるのかしら、この人。

 

あたしは彼の真正面に移動し、そのまま抱きついた。

あたしの行動が予想外だったのか、ナズナが見た事もないくらい狼狽始める。

 

「ちょっと待てシャル?! 流石にそれは、はしたないと思うぞ?!」

「ただ単に、いつも通り抱きついただけでしょうに…何動揺してるのよ。えっち」

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