あたしの肩に手をかけ、ナズナは自分から引き剥がした。
彼の顔を見ると、お湯で逆上せたかのように真っ赤になっている。
そんな彼に、あたしは笑った。
「意地悪だ、シャルは…。俺を翻弄して、楽しいのか……楽しいんだな。その顔を見ればわかる。全く…」
彼は肩を落とし、諦めたかのようにあたしを抱きしめる。
彼の厚い胸板に触れ、あたしは今更ながらに、そういえば今お互い半裸状態なのだと気付いた。
「ナズナ、あの…」
「苦情は受け付けん。俺を煽ったのはお前だ。責任を取れ、シャル」
離してほしいと言おうとして、彼にそう言われてしまい、あたしは大人しくなる。
責任を取るって、何の責任を取ればいいのだろうか?
あの念書があるから、ナズナはあたしに手を出せないはずだ。
だがここは異国の地。
あの念書も無効だと言われたら…。
「シャル…お前が何を考えているか、大体わかるが。安心しろ。異国の地だからと、お前に手を出すような真似はしない。大体、国に帰った後お前の義母に殺される可能性がある。流石に、お前と繋がって幸福だと思った後、お前と死に別れるのは勘弁願いたい」
「…じゃあ、何の責任を取れと…」
彼を見上げると、ニヤリと笑われた。
少し体を起こされ、首元に噛みつかれる。
なんだキスマークか、なんて思っていたのも束の間。
別の場所にも吸い付かれてギョッとなった。
「ちょっと、ナズナ?!」
「目に見える範囲にはつけるから覚悟しろ。俺を煽った事、反省するんだなシャル」
ナズナの気の済むまでやられる事、数十分。
多分、上半身の至る所に赤黒いアザが出来ている事が予想出来た。
「うえぇ…ここにもついてるぅ…」
腕あたりを見て、あたしは情けない声を上げる。
本当、どれだけやるのだというくらい吸い付かれて、最初は少し抵抗したものの、最後の方は諦めて好きにさせていた結果がこれだ。
「タコかしら、貴方」
「タコ?」
吸盤が多い軟体生物の名前を出すが、彼は首を傾げる。
こちらの世界にタコはいないのか、残念。
タコを使った料理、美味しかったのにな。
あたしは目に付いたところのキスマークを消そうと思い、魔法を使おうとしてナズナに腕を掴まれた。
「…何かしら?」
「リューネに帰るまで、消す事は許さん。なぁ、シャル? まさかこれで終わりだとは思ってないよな? 帰るまでに薄くなった所はまた付けるから、毎日一緒に風呂に入ろうな、シャル?」
にこやかにそう言われて、あたしは少し絶望する。
嘘でしょ…?
毎日…?
「やだ、無理! 絶対無理!! なんで貴方怒られたっていうのに、そんな意趣返ししてくるわけ?! もうヤダ最低!!」
ヤダヤダと首を横に振ると、ナズナが苦笑した。
「冗談だ。そんな嫌そうな顔をするな…お前、俺が毎日お前を求めた時、同じ反応をしないでくれよ? 流石に傷つく」
「毎日は無理ぃ…っ!!」
そうか無理か、と更に困ったような顔をした彼は、あたしの頭を撫でてくる。
彼の膝の上に乗っている状態だったが、ナズナの拘束が緩んでいた事もあって、あたしは立ち上がりざまに抜け出した。
「お風呂上がったら自分の部屋に帰ってね。あたしもう上がるから」
「あぁ。シャル、愛してるよ」
返答がおかしい。
ムッとして彼を見るが、先程の事で満足したのかにこやかに笑っているだけだった。
◆◆◆
着替えの時にこれは流石に引かれるだろうと上半身についたキスマークを消していると、お風呂から上がったナズナがムッとしたようで、後ろから抱きしめられた。
「ちょっと、ナズナ…」
「これは絶対消すなよ。お前は俺のものという証だからな」
首筋に唇が当たる感触がし、吸われる。
これくらいなら、まぁ…婚約者だしと目を瞑ってもらえるだろう。
「別に、見た目が派手なだけで、あたしを特別視する人なんていないでしょう?」
「何を言ってるんだお前は。お前以上に美しいものが、この世に存在するとでも思っているのか? どんな絵画だろうと、彫像だろうと、それこそ宝石だろうと、お前の美しさには敵わないだろうな」
それは言い過ぎではないだろうか。
でも、彼に口説かれて嫌な気はしない。
あたしはクスクス笑い出してしまった。
「本当の事なんだがな」
少し拗ねたようで、ナズナはあたしの肩に額を置く。
そんな彼の頭を、あたしは撫でた。
「ありがとう、ナズナ。貴方の言葉は、とても嬉しいわ。本当にあたしの事を愛してくれているって、感じるもの。でも、今度誤解されるような行動を取ったら…実家に帰らせてもらいますからね?」
「わかってる…反省してる…すまなかった、シャルロット…」
抱きしめる力が強くなり、あたしは苦笑する。
本気で反省しているようなので、今回は許してあげるとしよう。
ナズナに部屋へ帰るよう促すと、彼は素直にあたしから手を離し、扉の方へと歩いて行った。
「明日、買った物を着るから、エスコートお願い出来る? 貴方のご親戚にちゃんと挨拶出来ていないし」
「あぁ、迎えに来る。おやすみ、シャル」