あたしに許してもらえてホッとしたのか、ナズナは満面の笑みで部屋を出て行った。
そしてあたしはレヴィを呼び出して聞く。
「レヴィ、貴女…着物の着付け出来る? 出来なければ、得意な知り合いいない?」
着物を着るのには慣れていたが、着付けとかは全て長谷川がやってくれていたので、あたし自身着付けが出来ない。
まさか、テスタロッサ夫人になったターニャをここに呼ぶわけにもいかないし。
ナズナに1番に着物姿を見てもらいたい。
と思って彼女に聞いてみたのだ。
「妾は出来んぞ。知り合いか…色欲のでも呼んでみるか」
レヴィは魔法陣を展開し、それを発動させた。
一瞬でそこに人が現れ、黒髪にワインレッドの瞳の女性が、レヴィを見た瞬間妖艶に笑った。
「嫉妬の。どうしました?」
彼女が身に纏っているドレスの色は黒なのだが、胸元から鳩尾あたりまで肌が露出しており、足の方も腰あたりまでスリットが入っている。
色欲の名を冠しているだけあって、男性から見たら扇情的な姿だ。
ナズナがここにいなくて良かった…。
彼女の胸元とか見てたら、はっ倒して今度こそ婚約破棄しているところだった。
「お主、着物? の着付けとやら出来るか? 出来るなら、明日の朝我が主にそれをしてやってくれ」
「私に何の利益があるというのです? 貴女の欲望だけ叶えて終わり、なんて美味しい話、あるわけないでしょう?」
それはそうだ。
世の中ギブアンドテイク。
片方だけにしか利益がないなど、罷り通るはずもない。
「あの、何かお渡しできるものありますか?」
あたしは手を挙げて、色欲の悪魔に尋ねる。
自分の事なのに、対価をレヴィに払わせるなど、とんでもないからだ。
「うん? あぁ、貴方が嫉妬の主ですね? ふーん…?」
彼女はあたしを値踏みするかのように見てから、ニヤリと笑った。
「その美貌を頂く…と言いたい所なのですが、そこは神によって搾取出来ないようになっているみたいです。なので、貴女の運命力を頂こうと思います」
「運命力?」
聞いた事がなくて、あたしは首を傾げる。
そこへ、レヴィが難しい顔をして口を挟んできた。
「お主、それは駄目なのではないか? 我らがそれを人から奪うなど…」
「別に良いではありませんか、嫉妬の。彼女は神に愛されているのでしょう? 少しくらい搾取した所で、彼女が死ぬような事にはなりませんよ」
それ取られたら、普通の人は死ぬのかしら。
死なないのなら、まぁ…渡してもいいかな。
「どうぞ」
「潔いのですね、嫉妬の主。運命力とは何か、説明を受けなくても良いのですか?」
いや、それは普通にしていただきたいのだけれど。
運命というくらいだし、全て取られてしまったら死んでしまうと言うし。
あたしはチラリとレヴィを見る。
彼女はため息をつき、説明を始めた。
「運命力とは、生存のために使われている当たり前の幸運の事だ。歳を経る毎に運命力は下がっていき、当然の如く事故に遭い、死にやすくなる。別にその者が耄碌しているとかは関係ない。それを今少量でも渡すという事は、主の死期が早まると同義よ」
「そうなんだ」
あたしはあっさりと、彼女の説明に納得する。
レヴィや色欲の悪魔はあたしの様子に、少し驚いていたようだった。
あたしはそれに対して苦笑で返す。
「あたし、半分人間やめてるから。多分、寿命以外では死なないと思うのよね。だから、持っていかれても少し不幸な目に遭うくらいだと思うの。ナズナにそれが起こるなら許せないけど、あたしだけなら平気」
「我が主…」
レヴィがあたしを抱きしめてくる。
数千年を生きてきた彼女ではあるが、あたしに対して憐憫を抱いてくれているらしい。
「ありがとう、レヴィ。大丈夫。あたしが頑丈で強いのは、貴女も知っているでしょう? ちょっとやそっとじゃ死なないから。もう少しだけ、貴女の時間を頂戴ね?」
「そんなもの構うものか。我が主の不幸は、妾とヒナが蹴散らしてくれようぞ。だから、長生きすると良い」
そう言って、あたしを抱きしめる力が強まる。
本当に、主想いの良い子だ。
雛桔梗もディスプレイを表示させ、我が主は何があってもお守りします、と言ってくれた。
「嫉妬のがこんなに入れ込むなんて…。暴食のは教えてくれませんでしたね、こんな面白い事になっているなんて」
彼女は本当に面白そうに笑っている。
あたしはそんな彼女に手を差し出した。
「色欲の悪魔さん。どうぞ持っていってください。代わりに、約束は守ってもらいますけど」
あたしが差し出した手を取り、彼女はニコリと笑う。
「私の真名をお教えしますわ、嫉妬の主。ルクリアと言います。色欲の悪魔など、長いし言いづらいでしょう?」
「色欲の、良いのか? 真名を教えるなど」
悪魔にとって、自分の真名を教えるのはマズい事らしい。
レヴィが少し焦って、ルクリアさんに聞いている。
「私の真名を知った所で、貴女の主は悪用などしないでしょう? 嫉妬の貴女がそんなに入れ込んでいるのです。信用は出来るでしょう?」