あたしの髪を結い上げ、ルクリアさんは髪留めとして椿の髪飾りを付けた。
そして着物の着付けをしてもらうが、先ほどの髪型と相まって、今の年齢より少し上に見える。
更に化粧も施してもらうが、完璧大人の女性といった感じだ。
つまりは、魔性の女風に仕上げてもらったわけだ。
「ルクリアさん…あの…」
「これで、意中の男性もイチコロですわね?」
これ、他の男の人もイチコロになるのではないだろうか。
ナズナの嫉妬が凄くなりそうだな、なんて苦笑した。
ちょうど良いタイミングで、扉がノックされる。
はい、と返事を返すと、ナズナの声が聞こえた。
「おはよう、シャル。まだ着替えの途中か?」
「おはよう、ナズナ。いいえ、入っても大丈夫よ」
彼が扉を開けるのと同時に、そういえばまだルクリアさんがここにいたと、少し焦る。
入室の許可をする前に、彼女に礼を言って帰ってもらえば良かったと、今更ながらに後悔した。
朝からナズナと喧嘩したくない、と思ったあたしだったが、にこやかに入ってきた彼は、ルクリアさんの姿を見た瞬間凄い無表情になった。
「…へ?」
あたしより、結構良い女感があるルクリアさん相手に、この反応?
いや、無反応でいてくれて嬉しいんだけど、それはそれで少し心配になるというか。
「シャル、この女は?」
「え、あ、えっと。レヴィの同僚の色欲の悪魔さん。買ったこの着物を着て、貴方に見せたかったのだけど、着付けが分からなくて。レヴィにお願いしたら、色欲の悪魔さんを紹介してもらったの。あの…なんでナズナ、そんな無表情なの…?」
あたしに対してではない事は分かりきっているのだが、流石に怖い。
ルクリアさんは、あたしとナズナを交互に見てからクスクス笑い出した。
「…何がおかしい」
「いえ、別に? 嫉妬の主、彼は私のような女性はお気に召さないようですよ。外見ではなく、中身をすぐに看破なさったようですわ。彼もまた、神に愛されているのかもしれませんわね?」
若干声が低くなったナズナへ、ルクリアさんは軽く返事をして、あたしに笑いかけながらそう言ってくる。
「ではまた、嫉妬の主」
彼女はあたしへ一礼して、姿を消した。
多分魔界に帰ったのだろう。
お願いした以上の成果なので、彼女が魔界の現象に消される事はないな、と思った。
「シャル…」
扉を後手に閉めたナズナは、何かを耐えるかのように口を引き結び、あたしの名を呼びながらこちらを見る。
「…え、何? どうかした? あの、似合ってない…?」
「似合いすぎてるから困るんだ。その状態で叔父上達の所に連れて行ってみろ。二重婚を勧められてもおかしくないぞ……俺も、お前の色香に当てられて、襲いそうなのを我慢してるんだ…」
はい?
何言ってんのこの人?
ルクリアさんにやってもらったからこんな事になってる?
そんなまさか。
「ナズナ? 大丈夫そう…?」
あたしは恐る恐る彼に尋ねるが、ちょっと待てと言われて、口を噤む。
ナズナは目を閉じて何回か深呼吸をした後、顔を上げて微笑んだ。
「綺麗だ、シャル。別人のようで、驚いたぞ」
「あたしも、鏡で見る分には別人のように見えるわ。中身はこんなだけどね」
苦笑すると、そんな事はない、とナズナは返してくる。
「お前は、中身も素晴らしい女性だ。会った時からずっと、お前は変わらない。俺に対しても、周りに対しても。気取らず、驕らず、周りに気を配り、優しい。そんなお前だからこそ、俺は惹かれたのだからな」
「…そんなに褒めないでもらえないかな。そんな大層な人間じゃないわ、あたしは。口説いてもらえるのは、嬉しいけど」
あたしの言葉に、ナズナは本当の事しか言っていないと言ってくれた。
そして、彼はあたしに近寄り抱き上げる。
片腕で抱かれたあたしは、彼の肩に手を置きながら聞いた。
「…ナズナ、貴方自分の背が高い事ご存知? このままだとあたし、扉の上枠に頭ぶつける事になるんだけど」
「知っている。すまんな、シャル。今日は一日、このままでいてもらう。そうでなければ、俺が安心出来ないんだ」
まぁ、あたしも出来上がりを見て、ナズナの嫉妬が凄くなりそうだと思ったばかりなので、これ以上抗議するつもりはない。
ぶつけた所で、痛いだけなので構いやしないし。
「ナズナ。貴方、身体強化はどれくらいまで使えるの?」
「…お見通しか。まぁ、内の魔力で回しているから、一日はこのままでも大丈夫だ」
半日しか持たなそうだったら、リンクを繋いでナズナに魔力供給をしようと思っていたのだけど、大丈夫なら問題はないだろう。
扉を通る際、ナズナが身を屈めてくれたので頭をぶつける事なく、あたしは暁家の食堂へと運搬される。
あたし達の姿を見た蓮さんは、仲睦まじいなと笑っていた。
椅子に降ろされ、ナズナはその隣の椅子へ座る。
食卓には蓮さんの他に、奥さんや息子さんもいらっしゃった。
「私達の騒動のせいで、昨日はお騒がせをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
あたしは蓮さん達に頭を下げる。