「若い時はそういう事もあるさ。なぁ、お前」
「そうですね、あなた。私達も若い頃は喧嘩してましたものね」
二人とも笑い合いながら、昨日の事は気にしていないと言外に言ってくれて、大変申し訳ないやらありがたいやらで、更に頭が下がった。
「初めまして、蓮の妻の蘭と申します。こっちにいるのが長男の
「初めまして。ナズナ殿下の婚約者の、シャルロット・マリアライト・テスタロッサと申します。お会い出来て光栄です、蘭様、翔様、柊様」
ニコリと笑うと、翔さんと柊さんがあたしをずっと見つめている。
その目に懐かしさを覚えるが、隣のナズナもそれに気付いたらしく、机の下、暁家の方々から見えない位置で彼はあたしの手を握ってきた。
仕方ない人だな、と思わず苦笑してしまう。
「どうかなさったかな、シャルロット殿?」
あたしの表情を見てか蓮さんが聞いてきたので、あたしはナズナと指を絡めて、それを持ち上げた。
「いえ。ナズナ殿下には困ったものだ、と思ってしまいまして。私が男性に色目を使われると、こうやって嫉妬してくださいますの。困る事もございますけれど…愛されているという安心感もございます。蘭様ならお分かりになられるかと思いますが」
うんうん、と蘭さんは頷き、バツが悪そうに、翔さんと柊さんが目を逸らす。
息子達の様子を見て、蓮さんは苦笑いを浮かべた。
「こちらでは重婚が認められておるのだが…」
「リューネでも認められてはいますが、叔父上。俺はシャルロットを、誰かに渡すつもりはありません。それに、重婚が認められているのは男性だけではありませんか。叔父上も人が悪いですね。シャルロットからの愛を得る為に、俺がどれだけ彼女を口説いていると思っているのですか」
ナズナはニコリと笑い、あたしの手の甲にキスをしながら蓮さんを牽制する。
右手の薬指に光る、指輪も見せつけながら。
そう簡単にシャルを手離すと思うなよ、と彼は言っているのだ。
多分、息子の嫁にあたしとかどうだろう、とか蓮さんは一瞬考えたのだろう。
「そうか。いや、冗談だ」
「冗談ですか。それは良かったです」
食事が運ばれてきて、あたし達はそれを頂く。
お箸をもらって食事をしようとしたら、ナズナに驚かれた。
「シャル、それ使えるんだな?」
「はい、殿下。実家で使っていたものですから。殿下も覚えますか? あとでお教えしますよ?」
頼む、と言われたので、あたしは微笑みながら頷く。
食事する所作が綺麗だと蓮さんに褒められ、チラチラと息子二人に見られながらの食事だったが、何とか終わって、あたしはまたナズナに抱き抱えられた。
「では、叔父上。俺達はこれで」
「殿下、シャルロット殿は何処かお悪くでもしているのかな?」
昨日は普通に歩いていたのに、今朝はこれだから疑問を覚えたのだろう。
うん、あたしも通常ならそう思う。
「いえ、俺の独占欲の結果です。今日のシャルロットは俺の為にめかし込んでくれたようなのですが、彼女が他の男に言い寄られないよう、囲っているだけなのです。どうか、お気になさらず」
「そ、そうか…」
ナズナはにこやかに笑っているけど、目が全く笑っていなかった。
そして、冷ややかに自分の従兄弟にその目線を向ける。
彼の目線に言葉を乗せるなら、カヅキの口の悪さを借りて、
「俺の女に色目使ってんじゃねぇ、殺すぞ」
かしら。
本当に独占欲というか、あたしを愛しすぎているというか。
まぁ、そうされて嫌だと思わない辺り、あたしも大概ではあるけれど。
「殿下」
「わかってる。シャル、昨日は町に行ったが、今日はここの庭を見ようか? それとも、こちらの書庫にでも行って、本を読むか?」
あたしを見上げ、ナズナは愛おしげに微笑む。
それに対して、あたしも微笑みを返した。
「殿下と共にいられるなら、何処へでも。でも、着替えたいので私のお部屋へ行ってくださいますか?」
わかったと返事をしたナズナは、蓮さん達に少し頭を下げ、食堂から退出する。
名残惜しげに見てくるナズナの従兄弟達には、多少恐怖を覚えたが。
◆◆◆
「支度が整うまで、ここで待っててね」
部屋の前で降ろしてもらい、あたしは部屋の中に入る。
レヴィを呼んで着物やら帯やらを外してもらい、化粧も落とす。
持ってきていた服に着替え、衣桁に着物を掛け収納魔法の中に入れた。
ふと、部屋の外にいるナズナに聞く。
「ねぇ、ナズナ。貴方髪結える?」
「自分のなら無造作に結った事はあるが、女性のはしたことが無い」
ですよねー。
このエクステ外すのもう少し後にしたいし…。
「というか我が主。髪なら望めば長くなるのではないか?」
レヴィが、何言ってんだという感じで首を傾げてくる。
「…出来るかな?」
尋ねると頷かれたので、エクステを取ってもらい、あたしは目を閉じた。
長い髪を持つ自分のイメージをしてみる。
途端、頭に重力がかかり、あたしはこけた。
「いった!」
「シャル?!」