それに、首回りがきついと何故か気分悪くなってしまうから、ナズナの許可を得て開けてるだけだし。
まぁ、そんなゴテゴテの装飾つけてたらどれだけ浪費家なんだって話だし、そんな人が時期王妃って国が傾くんじゃないだろうか。
そんな事をお貴族様相手に反論した所で、こちらに益はないから黙っておく。
「ヴィオレッタ、いい加減にしろ」
「あら〜、殿下の専属護衛ですもの。
ナズナの方を見ると、眉が吊り上がって目つきが険しくなっている。
ヴィオレッタさんは、あたしに対してのキツめの声から一転、甘ったるい声に切り替えてあたしから手を離した。
うわぁ…何この二重人格…。
ナズナが毛嫌いするのもわかる気がする…。
「あぁ、そうそう。殿下? 私、これから領地の視察で帰らなければなりませんの。もっと殿下とご一緒していたかったのですけれど、残念ですわ〜」
「そうか。騎士に城門まで送らせよう」
そこら辺にいた若い騎士さんに、ヴィオレッタさんは連れられていく。
彼女が見えなくなってから、あたしはナズナに小声で尋ねた。
「何あの人」
「俺の婚約者である、ヴィオレッタ・マージンだ。親父が結んできた婚約でな…シャル、大丈夫か? 眉が寄っているぞ」
いかんいかん。
表情に出さないように気をつけていたのに。
「失礼しました、殿下」
「俺は別に良いが…いつもの事だからな」
一体どちらの意味で仰っているんでしょうかね、この方は。
まぁ、気にしない気にしない。
「さて、シャル。今から城に入るわけだが…わかっているな?」
「殿下のお傍を離れず、付き従います」
とりあえず馬車の中で話した事を反芻する。
あたしの噂は、もう王城の中には伝わっているだろう事。
あたしを懐に取り込もうとする連中が湧いてくるだろう事。
それは、ナズナの命を狙う奴や政敵相手が接触してくるという事。
「よし、なら行くぞ」
ナズナの言葉にあたしは頷きを返し、城の中に入る事となった。
◆◆◆
「よぉ、今頃登場か? 随分ゆっくりなんだな、ナズナ」
城に入ってしばらく歩いていると、進行方向から男性がナズナに絡んでくる。
錆色の髪を後ろに流し、ニヤニヤと笑っている様はとても良い印象とは言えない。
「エンリケ、後宮から出てくるとは珍しいじゃないか。本宮に何か用か?」
「なぁに、女嫌いで有名なお前が女を侍らせたって聞いてよ。どんな魅惑的な女なのか見に来たってだけよ」
そう言い、目線をあたしに向ける。
その目が値踏みでもするかのように、爪先から頭の上まで巡らせた。
「ほぅ…良い女じゃねぇか。お前には勿体無いな、ナズナ。なぁ、俺の愛人になっておかないか? 将来いい思いさせてやるぜ?」
彼はあたしに近寄り、顎を掴む。
そのまま顔を上に持ち上げた。
この人、本当に王族なんだろうか?
品位の欠片も無い。
あたしはニコリと微笑み、顎を掴んでいる手を握りしめる。
ゆっくりと力を込めていき、顎から手を離させた。
「いっ…!!」
「申し訳ありません、エンリケ様。
そう言い、手を振り払う。
体幹が弱かったのか、エンリケと呼ばれた男はそのまま尻餅をついた。
「くっ…シャル、やり過ぎだ」
「申し訳ありません、ナズナ殿下」
ナズナが笑いを堪えて、あたしに注意してくる。
あたしは謝罪するが、罪悪感なんてものは1ミリも芽生えていない。
むしろ、清々した。
「くそ…っ! 王族に手を出して、タダで済むと思うなよ!」
「エンリケ、俺の専属護衛だ。彼女の処遇は俺が決める。お前に決定権などない。それに、彼女が今とった行動は正当防衛だ。身の程を弁えろ。あと、自分の歳を考えたらどうだ? 未だに母親へべったりなのは、いかがなものかと思うぞ」
流石王太子だ。
威厳というものが違う。
と言うか、言い過ぎなのではと思ってしまうのだが。
「五月蝿ぇ!」
エンリケが拳を振り上げて、ナズナに襲いかかる。
あたしが前に出ようとすると、彼は手で制して来た。
手を出すな、という事なんだけど…護衛がいるのに前に出るとか、頭おかしいんじゃないの?
「
彼に触れる直前、紫の光がエンリケを貫いた。
そのまま、ナズナに触れる事なく彼は倒れる。
王宮で魔法使いやがったこいつ。
え、良いの?
大丈夫なやつなの?
「行くぞ」
エンリケの横を通り過ぎるナズナの後についていくが、あたしはチラチラとエンリケの方を見てしまう。
「あれ、大丈夫なの? 死んでない?」
「気絶させただけだ、問題ない。それにこういう事は、俺の周りに限ってだが日常茶飯事だ。申し訳ないが、慣れろシャル」
慣れろと言われましても。
こんな簡単に喧嘩をふっかけてくる奴がまだいると?
就職先、間違えたかもしれない…。