ナズナがあたしの声に驚いて部屋の中に入って来ようとする。
もう着替え終わっていたから入られても問題はないのだけれど、これ着替え途中だったらはっ倒していた。
「シャル…お前また何やったんだ?」
呆れたナズナの声に、あたしは周りを見る。
あたしの蒼い髪が、後頭部から半円を描くように部屋中に広がっていた。
「うわぁ…これカヅキが見ていたら、呆れるか笑い転げるか…どっちの反応すると思う?」
「知らん」
髪が部屋中に伸びてるものだから、ナズナは部屋に入れず扉の前で立ち往生している。
あたしは仕方なしに、ルティを呼び出した。
「…我が主…流石にこの惨状は…」
「ごめん、ルティ。踏んでもいいから適正の位置まで、髪を切ってくれないかしら…」
呼ばれた瞬間に足元が蒼一色だったものだから、ルティは空中に留まり、あたしに苦言を言ってくる。
わかっているので、彼に謝罪を述べつつ髪を切ってもらうよう、頼んだ。
ルティは仕方なしにあたしの伸びまくっている髪を踏み、鋏を取り出して切っていってくれる。
「ルティ、ありがとう。さてこの髪、どう処理したらいいのかしら」
あたしの腰辺りで髪を切って、整えてくれたルティに感謝を述べ立ち上がった。
ナズナもようやく部屋へ入れるようになったようで、あたしの近くにきて抱きしめてくる。
あの惨状に呆れ返ってはいたが、さっきあたしがこけたものだから、心配だったようだ。
「ベルゼビュートでも呼ぶか? 彼奴なら、魔力の溜まった髪など、ご馳走以外の何物でもなかろうよ」
「え…髪食べさせるの?」
それはちょっとホラーではないだろうか。
ベルゼビュートが、あたしの髪をパスタみたいに啜り食べている様を想像して、若干嫌だと思った。
ちょっと嫌そうな顔をしていたであろう、あたしを見たレヴィだったが、構わず魔法陣を展開し、ベルゼビュートを呼び出す。
「呼ばれて来たけど…今日は何?」
白いワンピース、シースルーの上着を着たアイスグリーンの髪色の女の子。
ベルゼビュートが、虚ろな目をレヴィへ向ける。
「我が主の毛髪を処理しろ」
ベルゼビュートは蒼色の髪を渡したレヴィから、あたしを見た。
髪色からしてあたしのだと理解したようだ。
良いの? とその目線は語っている。
「あまり、グロくない方向でやってもらえれば、まぁ…」
「わかった」
ベルゼビュートはあたしの髪を魔力の粒子に変えて、その身に取り込んだ。
そしてあたしに向かって頭を下げる。
「ありがとう、すごくお腹いっぱいになった。何か、ぼくに出来る事ある?」
「ううん、何もないわよ。ごめんね、毎度こんなので呼び出してしまって…」
申し訳なくて彼女の頭を撫でた。
くだらない事で、ベルゼビュートを呼び出しているような気がする。
彼女にとっては食事出来るから、どうでも良いのだろうけど。
「うん、とても心地いい……神託というか、神が言ってきた言葉を伝えるね。ベルゼビュートはいずれ君達の娘になるだろう、その時は慈しんで育ててあげて欲しい。この子はいずれ、君達の役に立つ。だってさ」
「うん?」
一体彼女は何を言い始めたのだろうか。
娘?
誰と誰の間の?
「ベルゼビュートは、神託の悪魔とも呼ばれておってな。たまに神の言葉を伝えてくる時があるのよ」
「ぼくだって、好きでやってるわけじゃない。あいつらが伝えろと煩いから、伝えてるだけ。じゃあ、ぼくはもう帰るよ。またね、未来の父様、母様」
ベルゼビュートは、あたしとナズナを交互に見て薄く笑いながら帰って行った。
未来、未来か…。
「出来れば、初子は避けていただきたいなぁ…」
「…シャル」
思っていた事を口に出してしまっていたようで、ナズナがあたしの頬にキスをしてくる。
あたし達がイチャつき始めたのを見て、レヴィとルティは空気を読んでいなくなった。
「あの、ナズナ…扉開いてるんだけど…」
「ん? あぁ、閉めてくる」
あたしから手を離して、ナズナは部屋の扉を閉めにいく。
その間、あたしは後ろを向き自分の顔を手で覆った。
何を口走ってんの、あたしは!!
惚けすぎでしょう!
気を抜き過ぎだ間抜け!!
軽く自己嫌悪に陥っていると、後ろから抱きしめられる。
「シャル? どうかしたか?」
「いや、ごめん…変な事口走った…」
気にしていない、とナズナはあたしの頭に頬擦りしてきた。
そして彼は苦笑しているようで、あたしがこうなるのは予想通りだった、とでも思っていそうだった。
「確かに、初子でベルゼビュートは少し苦労しそうだ。たくさん食べそうだから、お前ので足りるかどうかもわからんしな。俺も出来る限り、一緒に育てては行きたいが…」
「わかってる。あの量の書類を見たら、王の仕事がどれだけ大変かは理解しているつもりだから」
陛下がナズナに投げてくる仕事量を見て、若干引いた事もあるくらいだ。
ほぼ全量だというのだから、陛下は本当に何をしているのだろうか。
「理解してくれるのは、女の中でもお前だけだよシャル…」
「いや、そんな事はないでしょう?」